どんなことがあっても、僕たちは仲良しのクラスだと思っていた。
 まあ、馴れ合いが嫌いだとか言って、全く誰とも喋らない奴もいたりはするけど、まあ基本は誰とも仲の良いクラスだ。もっとも、人数は少ない。超名門私立霞が丘中学のさらにトップエリート17人だけを集めた最強クラス―――と言えば、何やら恐ろしい超天才集団に見えるだろうが、実際はどこにでもいる中学3年生である。ただ地頭の出来がたまたまいいだけの15歳でしかない。先生も両親も、「中学までの勉強は地頭」と言っているし、僕自身もそう思っている。むしろ灘高校に入ってからの勉強が不安だ。
 まあ何が言いたいのかっていうと、たとえ偏差値が70越えてようがなんだろうが、精神はまだ子供だということ。夏の勉強合宿に出かけた先で起こる惨劇に、耐えうるだけの力を、僕たちはまだ持っていなかったということ―――

「正人!早く起きなさい!遅刻するわよ!」
 ……うるさいなぁ、遅刻したっていいじゃないか。どうせいつも遅刻してるし。クラスで毎回トップだから誰も文句言わないし。
「今日は合宿でしょ!さすがに遅刻したら怒られるわよ!」
 …………あ。忘れてた。集合時間は確か8時。今は……7時45分か。よし、朝ご飯抜き確定。
 1分で制服に着替え、2分で顔を洗い歯を磨き、2分で荷物を整理して8分ダッシュで学校に着く。ギリギリセーフ。荷物を整理してる時に、何冊か忘れたと思うけど気にしない。だって全部暗記してるし。
 バスに駆け込む。18人なのに40人近く乗れるバスだから広々と感じる。まあ寝るしかすることがないわけだが。単語帳をめくっているやつとかもいるが、そういう奴はだいたい下位だと相場が決まっている。努力で上位に立てる中学もあるらしいが、ここでは才能がものを言うのだ。悪い人じゃないんだけどなあ。
 起きると、そこは山奥だった。まあ合宿だから当たり前のことだ。見慣れたホテルに見慣れた山々。そして、お決まりの怖い話。
 なんでもこの山には、古くからの言い伝えがあるらしい。それをおもしろおかしく語り始めたのが誰かは分からない。しかし、今では合宿の伝統にもなっている。特殊な力を得た人間たちと、人を食い殺す人狼と、山に住んでいた狐との激しい争いの記録。本気にしてる奴なんていなかった。
 ――――先生が、死ぬまでは――――
最終更新:2011年08月12日 12:17