「悲しい風景だなんて、誰が言ったの?」

A市の飛行場を覆う空は、雲一つない青空である。

それは世界中のあらゆる思想が未曽有のイベントに散ったからかもしれない。

「?」

茶色と黒の瞳で一点を見据えていた彼女は、二度三度耳をピクつかせていたかと思うと喜劇のヒロインのように、軽く水滴のように、無造作に跳ねるようにして視界から消えた。

しっぽを置いていきそうなくらいそれは愉しげで透明だった。



―A市の気温22℃風―



電光掲示板の続きが読めない。

答えは「風速」なのかもしれないが

「果たしてそれを意図する必要は?」

ぶよぶよの紙コップに入れた水に問題を出してみた。実にこのような時に耽美主義に陥ることになろうとは。

幼い頃ふと思った、世界の終わりは本当に美しいものなのだろうか?

その答えを、今やっとやっと崖っぷちから救いあげた気がした。

広い飛行場に数人の人、受付に人のいない広い飛行場。

押し潰されそうに高い天井は、飛行場の歴史を悠々と見てきたのであろう。

あんまりにも清々しく喪失感なんて微塵もなかった。「そうだ、どこかのベンチで小説でも書いてみようか・・・」


つんたつんたつったん。


民族衣装の一団は前から世話を焼いてきてくれた。

例によってこっちに駆け付けてきた彼女は「ちょーだい」と言って手から水に取り上げた。

なぜか大儀そうにそれを飲んで、一つ秒をおいて「ぷはあ!」と顔を上げた。

三角の産毛の生えた耳のピアスが黄色く瞬く。

―彼女の舞踏を最初から見るために、輪の中に入ることにした。

一団のうちの一人はCDラジカセを手に(その中にはジャンゴ・ラインハルトかなにかのCDの上に、ハチャトゥリアンが被さっていた。)一人は見知らぬ楽器を手にして。



弾むようなオスティナート!



―今日、白昼に赤い明星が大きなひとつの終わりを祝福するように寂しく瞬いた―

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最終更新:2011年02月05日 00:35