分かれる評価 (12月27日朝刊総合1面)
落胆と歓迎の声 交錯/強制 明確化を・記述ほぼ回復
「もうこれ以上のことはできないよ」
二十六日夕、国会内。県出身の安次富修衆院議員の携帯電話が鳴った。渡海紀三朗文部科学相からだった。
渡海氏は電話の直前、文部科学省で沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書六社・八冊の訂正申請を承認する手続きを終えていた。
年内の結論
「これが印刷ぎりぎりのタイミングだからね」
当初の目標だった「年内の結論」を実現した充実感を漂わせる一方、安次富氏が文科省の対応を一定評価した県民大会実行委員のコメントを伝えると、反応が変化した。
「あんまり喜ぶと…。立場があるから」と声のトーンを落として話した。日本軍の「強制」を削除した二〇〇六年度検定を評価し、今回の訂正申請の動きに反対する陣営への配慮だった。
矛を収める
県選出・出身の自民党国会議員でつくる「五ノ日の会」(会長・仲村正治衆院議員)は、文科省の布村幸彦大臣官房審議官らを通じ、訂正申請の状況を確認。承認される記述を事前に把握し、「矛を収める」(所属議員)方針を決めていた。
二十六日朝。上京中の県民大会実行委員が宿泊する東京・赤坂のホテルを西銘恒三郎衆院議員が訪ね、仲里利信実行委員長と面談した。
「発表される大臣談話を了とし、五ノ日の会として記者会見します」
これを受け、実行委は県東京事務所に移動。教科書記述の精査と、午後の記者会見に備えたコメント作成に着手した。
「記述の回復がほぼなされている」「県民の思いに真摯に応じていただいた」
会見で配布されたコメントには、記述をおおむね評価する文言が並んだ。伊波常洋幹事は「検定意見前よりもさらに踏み込んだ記述だ」と歓迎。玉寄哲永副委員長も「大臣談話に反省が含まれていないのは不満だ」とする一方、「それを言ってくれれば、事は片付いた」と限りなく「評価」に近い発言をした。
実行委の一人は会見後、「県民みんなで勝ち取った成果だ。実行委の役割はこれで終わった」。
納得できぬ
ただ、県PTA連合会の諸見里宏美会長は「日本軍の強制を明確に打ち出してほしかった。がっかりした」と失望感を表明。
県内の研究者からは「納得できない。よっぽど軍命を認めたくないのだろう」(沖縄戦研究家の大城将保さん)などの指摘も挙がっており、関係者の間で評価は分かれている。(東京支社・吉田央)
「集団自決」をめぐる文科省の教科書検定問題で、六社・八冊の記述が修正された。体験者が主張する「軍の強制」の記述は認められなかったが、背景や要因など全体の記述量は増加。落胆と評価の声が交錯している。