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毎日:クローズアップ2007:沖縄戦・教科書検定審 関与は認め、強制は削除…玉虫色決着

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沖縄戦・教科書検定審 関与は認め、強制は削除…玉虫色決着



◇県民感情に「限定譲歩」


 沖縄戦の集団自決を巡る日本史教科書の記述で日本軍の断定的な「強制」の復活を認めず、「関与」とした26日の文部科学省の教科用図書検定調査審議会の決定。沖縄の県民感情に譲歩する姿勢を示しつつも、「軍命令の存在を含む強制は認めない」との当初の検定意見を両立させた形となった。歴史認識に論議のある問題をどう教科書に取り入れるか。「玉虫色」とも言える決着は、その難しさを改めて浮き彫りにした。【高山純二、山本紀子】

 「文言として『強制』『強要』をとらえて審議したわけでない。記述全体の文意を審議した。繰り返しになって恐縮ですが……」。当初の訂正申請で3社が盛り込んだ「強制」「強要」の文言が、最終的に「関与」「強制的」の表現に変わった理由について文科省の伯井美徳・教科書課長は何度も歯切れの悪い説明を繰り返した。

 なぜ「強制」という言葉がはじき出され、「強制的」などの玉虫色の表現に落ち着いたか。審議会と教科書会社の攻防が動き出したのは12月上旬。審議会日本史小委員会が集団自決の記述方針を示す「基本的とらえ方」の中で「直接的な軍の命令により行われたことを示す根拠はない」との考えを示した。

 それまで、いくつかの会社は軍の強制をはっきりうたった訂正申請をしていた。例えば実教出版は「日本軍は、住民に手榴弾(しゅりゅうだん)をくばって集団自害と殺しあいを強制した」と記述した。しかし「基本的とらえ方」を熟考した後「強制」の文言は認められないと判断、記述を取り下げた。

 さらに検定の過程では、文科省の教科書調査官と教科書会社の間で、認められる表現の範囲について意見交換が行われる。申請を却下されないためにも、教科書会社にメリットがあり、文科省も「記述の誘導だ」と批判されない。この苦肉の策が今回も行われ、複数回の協議を持った。

 実教出版の担当者は「強制がだめだというので、二つ三つ、代わる案を出してみて様子をうかがった結果、『強制的』に落ち着いた」と打ち明ける。交渉の結果、小委の見解に沿う表現に足並みがそろった格好だ。

 「強制」の文言が認められなかった点には、執筆者にも不満が残っている。実教出版執筆者の石山久男さんは「主語をはっきりとさせるため、『日本軍』と入れたが、『強制的な状況のもと』など、あいまいな記述になってしまった。これでは検定段階と何ら変わりはない」と批判する。別の編集者は「どんな修正なら認められるのか、探りながらやった。脚注に当時の時代背景を書き込み、できる限り軍の強制を表現した」と話している。

◇二転三転、制度に不信感も


 異例の再審査となった今回の教科書検定。いったん決まった教科書の記述が翻ることで、検定制度への信頼が揺らぎかねない事態も予想される。

 日本史小委は今春、集団自決に関する歴史認識を変え、「強制」の削除を決めた。だが、結論までに開いた会議は2回のみ。今回は教科書会社からの訂正申請を受け、7回も会議を開いた。記者会見で「今まで丁寧に審査すべきものを簡単に終わらせていたのでは」と質問され、文科省の金森越哉初等中等教育局長は「きめ細やかな審議の必要があった」と認めた。

 審議の透明性は、一定の改善もみられた。教科書会社が「承認されない」と判断し、申請を取り下げた記述内容を公表した。「強制」という表現を取り下げ「強制的」に訂正して承認にこぎつけた審議過程がある程度、推察できるようになった。小委のメンバーも、同意がなかった1人を除き公表された。

 しかし、審議は非公開で議事録もなく、文科省が一方的に教科書調査官や審議会委員を選ぶ仕組みは変わらない。検定制度に詳しい立正大の浪本勝年教授は「教科書の記述を左右する調査官を公正に選ぶ必要がある。専門の学会の推薦を受けた人を選んだり、検定そのものを学会にゆだねる手法もある。いまだに密室で議論していること自体時代遅れ。検定内容に自信がないからでは」と指摘する。

 検定の進め方についても、権威主義的で合理性を欠くとの意見も根強い。今回、審議会がまとめた見解「基本的とらえ方」は、教科書会社には調査官から口頭で伝えられただけだった。会社側は録音機器を持参し、後に内容を書き起こした。

 今回、教科書会社から審議会に異議申し立てはなかった。ある執筆者は「国とけんかして不合格になったらすべてパー。申立制度があってもできない」と話す。執筆者の坂本昇さんは「異議を申し立てても審議会が自らの意見を撤回しないだろうというあきらめが先に立つ。制度の実効性を高めるために学会に人選を任せるべきだ」と指摘する。

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◇「基本的とらえ方」の要旨


▽集団自決は住民が戦闘に巻き込まれる異常な状況で起き、背景には当時の教育・訓練や感情の植え付けなど複雑なものがある。

▽集団自決が起こった状況を作り出した要因にもさまざまなものがある。手榴(しゅりゅう)弾の配布など軍の関与は主要なものととらえることができる。

▽住民に対する直接的な軍の命令で行われたことを示す根拠は現時点では確認できていないが、住民から見れば自決せざるを得ないような状況に追い込まれたとも考えられる。

▽したがって、集団自決の背景・要因について過度に単純化した表現で記述することは、生徒の理解が十分とならない恐れがある。

▽沖縄の戦時体制、戦争末期の極限状況の中で、複合的な背景・要因によって追い込まれていったととらえる視点に基づいていることが、生徒の理解を深めることになる。

毎日新聞 2007年12月27日 東京朝刊
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