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沖縄タイムス:「軍が強制」認めず/関与記述復活

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pipopipo555jp

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http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712271300_01.html
2007年12月27日(木) 朝刊 1・2・3面

「軍が強制」認めず/関与記述復活




検定審の結論承認/文科省「意見は有効」


 【東京】高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、教科書会社六社から提出された八冊の訂正申請を審議していた教科用図書検定調査審議会(検定審)の杉山武彦会長は二十六日午後、渡海紀三朗文部科学相と会談し、審議結果の報告書を手渡した。これを受け、渡海文科相は全社の記述を承認した。「集団自決」について「日本軍によって追い込まれた」など軍の「関与」を示す記述は復活したが、「日本軍が強制した」など主語の「日本軍」と「強制」を直接つなげる表現は認められなかった。大半の会社が検定審の方針に沿う形で、「集団自決」の背景・要因を詳しく記述した。

 一方、「集団自決」に関して「『強制集団死』とする見方が出されている」(三省堂)、「強制的な状況の下で追い込まれた」(実教出版)など、主語を明示しない表現に限って「強制」の文言が容認された。

 九月二十九日の県民大会で決議された「検定意見の撤回」は検定審で議論されず、実現しなかった。記述が修正されたことで「事実上の撤回」との指摘も挙がっているが、文科省は「検定意見を変更するものではない」(伯井美徳教科書課長)とし、今後の検定でも有効との認識を示している。

 検定審が承認した記述では、「集団自決」が起こった背景や要因として、六社のうち五社が「戦時体制下の日本軍による住民への教育・指導や訓練」(第一学習社)、「敵の捕虜になるよりも死を選ぶことを説く日本軍の方針」(東京書籍)などを詳述した。

 清水書院も県内議会の意見書可決の動きを年表に記載した。

 検定審は二十五日午後に日本史小委員会と第二部会(社会科)を相次いで開き、訂正申請された六社・八冊すべての記述について「承認することが適当」との意見を付すことで一致した。

 日本史小委は審議の過程で指針に当たる「基本的とらえ方」をまとめ、文科省教科書調査官を通じて教科書会社側に伝達。「過度に単純化した表現」は「生徒の理解が十分にならないおそれがある」として、日本軍だけが住民に「集団自決」を強制したと読み取れる表現を事実上、禁じた。また、「集団自決」が起きた背景に複合的な要因があったことを詳述することなどを求めていた。



重く受け止める/福田首相


 福田康夫首相は二十六日夜、沖縄戦の「集団自決」をめぐる教科書検定問題の決着について「記述を学術的、科学的に決めていく制度だから、われわれの口から良い悪いを言う立場にない。ただ沖縄県民の思いは重く受け止めている」と述べた。


     ◇     ◇     ◇

密室審議で灰色決着/文科省、体面に固執


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる日本史教科書検定問題が二十六日、決着した。県民の猛反発を受けた政府が、教科書会社の「自主的な」訂正申請を誘導する異例の展開。あくまで検定意見は撤回せず、実質的な記述復活で丸く収めようとする教科書検定審議会は、教科書会社と“密室”で交渉を続け、「軍の強制」は許さないが「関与」「心理的強制」は容認するという“灰色判定”で幕引きを図った。



「強制」に照準


 「直接的な軍の命令を示す根拠は確認できていない」。十二月三日、検定審の日本史小委員会が三回目の非公開審議を終えた直後、各教科書会社の役員が文部科学省に呼び出された。個別に面談した教科書調査官からは「基本的とらえ方」と題する検定審の指針が口頭で伝えられた。

 各社が十一月上旬に提出した訂正申請には、「強制」「強要」など軍の直接的関与を示す表現が盛り込まれていた。その内容変更を暗に求める指針の告示。執筆者の一部は反発したが、調査官は「調整」と呼ばれる各社との意見交換の場でも「強制」の文言を削るようさらに迫った。

 教科書会社の立場は「一方的に指示を受けるだけで、質問すらできない」(社員)ほど弱いという。約一カ月後、各社は訂正申請をいったん取り下げ、軍による教育・指導で住民が自決に追い込まれた状況を詳述するなどした修正版を再提出。「軍が強制」の記述はきれいに消えていた。



「自主的」強調


 だが一方で、いくつかの教科書は「軍によってひきおこされた『強制集団死』」「軍とともに死ぬ(『共生共死』)ことを求められた」など新たな記述を追加。全体としては「集団自決」と軍の関与についての記述が大幅に増える結果になった。

 文科省幹部はこの間の経緯を「あ・うんの呼吸で決まった」と表現するが、ある教科書執筆者は「文科省と検定審は最後までメンツにこだわった。検定意見の維持という『名』を取る代わりに、沖縄戦の記述が増えたり、(軍の強制と)ほぼ同じ意味の表現になることは認めて『実』を捨てたんだ」と指摘する。

 今回の検定結果について発表した文科省の記者会見。担当幹部は「あくまで教科書会社の自主的な申請に基づいたもの」「具体的な文言はすべて各社の創意工夫」と原則論を繰り返し、具体的な判断基準についての質問には「審議会のことなので」と応じなかった。



制度改善遠く


 さまざまな圧力の影響を受けない「静ひつな環境」を保つとの目的から検定審の審議は公開されず、議事録すらない。事実上の方針転換となった今回のケースも、代弁役の文科省が「当初の検定意見や審議に問題はなかった」と評価すれば、それ以上の検証は困難だ。

 「透明性の向上や細やかな審議の必要性などについてさまざまな指摘があった」。渡海紀三朗文科相は二十六日、検定制度の改善を検討する意向を示したが、文科省の担当幹部は「具体的な改善策は、ケースに応じその都度考えていく」と慎重な姿勢を崩さない。

 今回、修正を迫られた執筆者の一人は「今のままでは検定制度も教科書も信頼を失ってしまう。子どもにとってどんな教科書が必要なのかを、開かれた場でみんなで考える仕組みが必要なのに…」と危機感を強める。県民を巻き込んだ今回の“再検定騒ぎ”が将来の制度改善に資するかどうかは不透明だ。



知事は関与記述評価


 教科用図書検定調査審議会(検定審)の審議結果について、仲井真弘多知事は二十六日、記者団に対し、軍の「関与」を示す記述が認められたことについて、一定の評価を下した。

 県庁で、記者団の質問に答えた仲井真知事は「百点とはいえなくても、まずまずの配慮というか受け止め方を文部科学省がやっているのではないか。後退した印象を与える面もあるが、県民大会のマグマというかエネルギーを受けて、今の審議会や文部科学省で、ぎりぎり受け止めてもらったという線まで来ているのではないか」との見方を示した。

 教科書会社からの訂正申請に伴って、「集団自決(強制集団死)」に関する記述が大幅に増えることについては、「一つの背景説明とか、いろんな様相がある。そういうものを簡潔に分かりよく、背景とかさまざまなことを表現しているということは、立体的というか理解はしやすいと思う」と歓迎の意向を示した。



「主張認められた」

五ノ日の会仲村正治会長

 高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、文部科学省が教科書会社からの訂正申請を承認したことについて、県選出・出身の自民党国会議員でつくる「五ノ日の会」の仲村正治会長(衆院議員)は二十六日、「主張が認められた」と評価した。

 後援会事務所で会見した仲村氏は「『集団自決(強制集団死)』をはじめ、沖縄戦の実態を詳しく記述し、われわれが主張してきた内容が認められた」と評価。

 訂正内容について、「実質的に軍の関与や強制を示す表現になっている」との見方を示した。

 また、検定意見については「教科用図書検定調査審議会の再審議を経て訂正されたことで、事実上撤回されたと判断した」との考えを示した。



県民への配慮必要性を強調

岸田文雄沖縄担当相

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十六日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が訂正申請を承認したことを受け、コメントを発表した。

 「先の大戦で国内最大の地上戦を経験し、多くの方々が犠牲になり、つらく悲しい経験をした県民の思いは、沖縄担当相として重く受け止めなければならない」と県民への配慮の必要性を強調した。

 「この機会に、内閣府としても沖縄戦について一般の方々に理解を深めていただくため、沖縄戦関係資料の閲覧事業でインターネット閲覧の充実など、利用者の利便性向上を図る」として、内閣府が所管する「沖縄戦関係資料閲覧室」の機能を強化する方針をあらためて示した。



「関与」回復と県教育長評価

「思い伝わった」

 仲村守和県教育長は二十六日、教科用図書検定調査審議会の審議結果について、「来年四月から子どもたちが使う教科書で、日本軍の関与という主語が回復されていると考える。沖縄戦の実相を正しく伝えることができることから大きな意義があり、評価したい」と歓迎した。

 記述回復がなされた理由については、「九月二十九日に結集した十一万余の平和を希求する県民の強い思いが、国や文部科学省に伝わったと思う」と話した。



渡海文科相 一問一答


 検定審の報告を受け、渡海紀三朗文部科学相は二十六日午後、省内で記者会見した。一問一答は以下の通り。

 ―検定審報告への感想は。

 「手続きは大変真摯にやっていただいた。先生方の結論なので、私の立場からコメントすることは差し控えたい」

 ―この結果を県民は理解すると思うか。

 「審議会の審議を明らかにし、専門的・学術的に審議していただいた。理解をいただきたいとは思う」

 ―大臣談話にある沖縄戦学習の一層の充実には、「沖縄条項」の検討も含まれるのか。

 「第二次世界大戦では広島、長崎、東京など多くの国民が被害にあった。特定の地域を取り上げて条項をつくるのは適切ではない」

 ―結論は、二〇〇六年度検定が「歴史の教訓を風化させる内容だった」という意味にならないか。

 「検定はあくまで、その時の知り得る学術的・専門的な意見や著述などを総合的に審議会で判断するもので、今回の訂正が現在の説に対して、どうなのかを審査したものだと理解している」

 ―今回は検定審の審議の前に、文科省の方針が示されたことが問題なのではないか。

 「それはなかった。通常の手続きにのっとり、先生方が審議した。それ以前に何らかの(文科省の)結論が出ていたと言われたが、承知していない」

 ―「政治介入」という指摘もされているが。

 「(教科書会社の)訂正申請を誘導したのではという指摘もあるが、大臣就任後に一番心掛けたのは、『政治的な介入』にならない検定制度をどう守るかが私の一番の責任だと考えていたので、それはない」

 ―今回の承認と06年度検定意見の間で齟齬はないという認識か。

 「そういうことです。報告書を読めば理解いただける。私は報告書を読んでそう思った」

 ―県民が納得しない場合の手だてはあるか。

 「基本的にはない。納得していただきたいと言ったが、中身についてではなく、手続きを踏んだことを納得していただけるという意味です」

 ―県民大会の怒りは何だったと思うか。

 「沖縄の方々には『これは違う。歴史がゆがめられた』という思いがあったのではないか」

 ―検定意見を撤回せずに記述を変えられるなら、今後の検定でも同じことが起こり得るのか。

 「絶対ないとは言えないが、あくまで通常の検定手続きにのっとりやった結果である。より良い記述にしようと教科書会社から訂正が出た。こういうことが起こらないように、検定の過程の透明性を上げるなど検討していく」



専門家9人から意見聴取


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書記述について、教科用図書検定調査審議会は九人の専門家に意見を求めていたことを明らかにした。

 このうち、元陸上自衛官で軍事史専門家の原剛氏や日本大学講師で現代史家の秦郁彦氏は、梅澤裕氏ら「集団自決」訴訟の原告や原告側証人の証言などを引用し、「集団自決」への日本軍による命令や強制を否定した。

 沖縄県史編集委員で沖縄戦研究家の大城将保氏や、関東学院大教授で日本近現代史専門の林博史氏は体験者の証言、「軍官民共生共死」が徹底されていた状況などを踏まえ、「集団自決」には日本軍による命令・強制・誘導があったとした。氏名と意見内容の非公表を望んだ一人を除く、八人の意見要旨は次の通り。

 大城将保・沖縄県史編集委員 「敵の捕虜になる前に潔く自決せよ」という軍命令は沖縄全域に徹底されていた。地上戦となった沖縄戦の悲劇を象徴するのは「集団自決」と「住民虐殺」。事実誤認と歪曲に基づく主張で、教科書から抹殺するような検定の在り方は許し難い暴挙というしかない。

 我部政男・山梨学院大教授 沖縄戦末期にいわゆる「集団自決」が事実として起こった。その背景に「軍官民一体化」の論理が存在していたことは明確だ。因果関係を説明する方法として提示されているのが「軍命令」であり、「軍官民一体化」論理の範囲に入ると考える。

 高良倉吉・琉球大教授 日本軍は本土上陸作戦を阻止するため沖縄での時間稼ぎが最大の課題だった。目前の住民の生死より作戦遂行を至上とした軍の論理があり、軍民雑居状態を放置した。慶良間諸島での「集団自決」も、軍の結果責任は明らかで、軍側の論理の関与を否定できる根拠はない。

 秦郁彦・現代史家 渡嘉敷島を中心に考察するが、「集団自決」の軍命説は成立しない。自決の「強制」は物理的に不可能に近い。自決者は全島民の三割に及ばず多数が生き延びた。負傷者の治療に軍医らが当たったと村長が認めている。攻撃用手りゅう弾の交付と「集団自決」に因果関係はない。

 林博史・関東学院大教授 沖縄戦での「集団自決」が、日本軍の強制と誘導で起きたことは沖縄戦研究の共通認識。捕虜になるのを許さない軍思想の教育などさまざまな方法で、軍は住民を「集団自決」に追い込んだ。私の著書を根拠に強制性の叙述を削除させたのは、著書内容を歪曲しており検定意見の撤回しかない。

 原剛・防衛研究所戦史部客員研究員 沖縄戦では戒厳令は宣告されず、軍に住民への命令権限はなかった。関係者の証言などによると、渡嘉敷・座間味両島の「集団自決」は軍の強制と誘導によるものとはいえない。「鬼畜米英に辱めを受けるより死を選ぶ」という思潮が強かったことが原因。自ら死を選び自己の尊厳を守ったのだ。

 外間守善・沖縄学研究所所長 日本本土の一億日本人のため沖縄島は防波堤として使われた。沖縄県民十余万人を犠牲とした、「集団自決」を含む責任は日本国にある。日本国、日本人に沖縄の痛みを理解してもらいたい。沖縄における軍の存在は住民にとって脅威だった。「集団自決」の問題にもこれらが通底している。

 山室建徳・帝京大講師 軍人が死闘を繰り広げる中、日本人全体が屈服しないことを見せつけるべきだという考えが共有された状態で沖縄戦に突入したが、先祖伝来の地に住む沖縄県民の多くは「集団自決」の道をとらなかった。一部の軍が住民に自決を強要したとだけ記述するのは、事実としても適切ではない。



審議会の日本史小委員会委員は次の通り。(一人は本人意向で非公表)


 【日本史小委員会委員】有馬学(九州大大学院教授)▽上山和雄(国学院大教授)▽波多野澄雄(筑波大副学長)▽広瀬順晧(駿河台大教授)▽二木謙一(国学院大名誉教授)▽松尾美恵子(学習院女子大教授)▽吉岡真之(国立歴史民俗博物館教授)
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