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証人尋問:赤松秀一さん

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証人尋問:赤松秀一さん

本文は、複数の傍聴メモを元に再現したものです。
他の新聞の尋問要旨等を読み深めるためにご活用いただきたいと作成いたしました。
そのため、尋問の細かな表現まですべて再現しているとは言えませんが、できるだけ問答については省かずに掲載しました。


《午後1時半に審理を再開。当事者席に大江健三郎が座ると、傍聴席の画家らがいっせいに法廷スケッチの似顔絵を書き始めた。まず、渡嘉敷島の守備隊長だった故赤松嘉次の弟の秀一さん(74)への本人尋問が行われた》


原告側代理人(以下「原」)「あなたは赤松隊長の弟さんですね」

赤松「そうです。兄とは年が13歳も離れているので、常時、顔を合わせるようになったのは戦後になってから。尊敬の対象だった。父が年をとっていたので、家業に精を出してくれた」

 原「1950年に発行された沖縄タイムス社の『鉄の暴風』は読んだか」

 赤松「読んだ。大学の近くの書店で偶然見つけて手に入れた」

 原「戦争の話には興味があったのか」

 赤松「戦争は中学1年のときに終わったが、陸軍に進むものと思っていたくらいだから、戦争のことを知りたかったからよく読んだ」

 原「『鉄の暴風』にはお兄さんが自決命令を出したと書かれているが」

 赤松「信じられないことだった。兄がするはずもないし、したとは思いたくもない。しかし、329人が集団自決したと細かく数字も書いてある。なにか誤解されるようなことをしたのではないかと悩み続けた。家族で話題にしたことはなかった。タブーのような状態だった」

 原「お兄さんに確認したことは」

 赤松「親代わりのような存在なので、するはずもない。私が新居を買った祝いに来てくれたとき、1960年ごろ本棚で見つけて持って帰った」

 原「ほかにも戦争に関する本はあったのか」

 赤松「『沖縄戦記』も。ほかにも2、3冊はあったと思う」

 原「『鉄の暴風』を読んでどうだったか」

 赤松「そりゃショックだ。329人を殺した人殺しと書かれているんですから。」

原「それで、どうしたか」

赤松「親兄弟に話さず一人で悩んでいた。ショックで友だちの下宿に転がり込んでいった」

 原「最近まで忘れていたのはどうしてか」

 赤松「曽野綾子さんの『ある神話の背景』が無実を十分に証明してくれたので、安心できた」

 原「『ある神話の背景』は、どういう経緯で読んだのか」

 赤松「友達が教えてくれた。うれしかった。無実がはっきり証明され、信頼感を取り戻せた」

 原「集団自決を命じたと書いた本はどうなると思ったか」

 赤松「これだけ書かれたら、間違った事実を書いているものは廃刊になるだろうと思った」

 原「大江氏の『沖縄ノート』の引用を見て、どう思ったか」

 赤松「大江健三郎先生は直接取材したこともなく、島にも行かず、兄の心の中にまで書かれている。人の心に立ち入って、まるではらわたを火の棒でかき回すかのようだと憤りを感じた」

 原「誹謗(ひぼう)中傷の度合いが強いか」

 赤松さん「はい」

原「『ある神話の背景』は」

赤松「友だちにも送りました。読んでくれと。宝物みたいなもんですわ」 

原「訴訟を起こしたきっかけは」

赤松「3年前に兄の(陸士の)同期の山本明さんから話があり、とっくの昔に解決したと思っていたのに『鉄の暴風』も『沖縄ノート』も店頭に並んでいると聞かされたから」

 原「実際に『沖縄ノート』を読んでどう思ったか」

 赤松「むずかしい本ですね。兄の部分だけをパラパラと読んだ。いやとばして読んだ。」

 原「悔しい思いをしたか」

 赤松「はい。45年渡嘉敷島に行ったことまで終章に書かれている。兄も46年『潮』に「私は自決を命令していない」を残しているが、極悪人と面罵(めんば)され、娘に誤解されるのは辛いからと。兄は無実をはらしたいと思っていた。私も兄の無念の思いを晴らしたい。」



原告代理人が『潮』の文を読む、

《裁判長から、「時間を守りなさい」との注意があり、原告側代理人の尋問が終了》



被告側代理人(以下「被」)「集団自決命令について、お兄さんから直接聞いたことはありますか」

 赤松「ない」

 被「お兄さんは裁判をしたいと話していたか。また岩波書店と大江さんに、裁判前に修正を求 めたことがあったか」

 赤松「なかったでしょうね」

 被「山本明さんからすすめられたので、裁判を起こしたのか」

赤松「そういうことになります」

被「お兄さんの手記は読んだか」

赤松「『潮』は読んだ」

被「『島の方に心から哀悼の意を捧げる。意識したにせよ、しなかったにせよ、軍の存在が大きかったことを認めるにやぶさかではない』と書いているが」

 赤松「知っている」



原告側代理人が再尋問

原「裁判は人に起こせと言われておこしたのか」

赤松「山本さんからもどうだと言われましたが、歴史の事実として定着するのはいかんと思った。そういう気持ちで裁判を起こした」



《赤松さんへの質問は30分足らずで終了した 13時53分》


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