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提訴の決意

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正論2006年9月号(産経新聞社・扶桑社)
靖国特集 
沖縄集団自決冤罪訴訟が光を当てた日本人の真実
弁護士 徳永信一


提訴の決意


《非人間的な日本軍》という図式につながる《軍命令による集団自決》は、梅澤、赤松両隊長の人格を傷づけるだけにとどまらない。それは旧日本軍の名誉を損ない、ひいては日本人の精神史を貶める。

この裁判の提訴の陰にはシベリア抑留体験を持つ元陸軍大佐の山本明氏の尽カがあったことを記しておきたい。山本氏は、旧軍関係者の協カをとりつけるべく全国を奔走し、至る所で《隊長命令説》を刷り込まれた人々の無知と無関心の壁に突き当たった。ようやく接触を果たした梅澤氏も、当初、裁判には消極的だった。汚名を晴らしたいという切実な思いを持ちながらも、再び無益な争いの渦中に巻き込まれることをおそれた梅澤氏は、山本氏に「無念ですが、裁料はせず、このまま死んでいくことに決めました」と告げたのだった。真実を無視する「世間」に絶望していた梅澤氏には、家族を巻き込んでまで裁判に眺む意味を見いだせないようだった。

転機は、赤松元大尉の弟・秀一氏の決意によって訪れた。

京大工学部出身の秀一氏は、理系肌の穏やかな紳士である。『ある神話の背景』が世に出たことにより、敬愛する兄の冤罪は晴らされ、その名誉は回復されたものと信じていた。山本氏の仲介で面会した松本藤一弁護士から『沖縄ノート』が今も変わらずに販売されていることを聞かされた秀一氏は信じられないという顔をした。《軍命令による集団自決》が掲載された教科書の資料を渡されると、持つ手が震え、絶句した。しぱらくの沈黙の後、こう言った。「こんなことがまかりとおっているとは知りませんでした。不正を糺すのに裁判が必要なのでしたら、私が原告を引き受けます」。

法廷で意見を陳述した秀一氏は、提訴の動機をこう語った。

「本土防衛の犠牲となった多くの沖縄の方々のためならと、汚名を忍ぶことで年金が給付されるならと、敢えて沈黙を守った兄の気高い心情が踏みにじられていると感じました。名状し難い心の痛みとともに、虚偽がまかりとおる今の世の中に対して強い怒りを覚えました。兄の無念を晴らし、後の世に正しい歴史を伝える為にもと今回の提訴を決意しました」

秀一氏の決意は、山本氏によって梅澤氏に知らされた。梅澤氏は「そしたら私もやらんといかんな」と呟いた。やがて梅澤氏の提訴の意向が松本弁護士に伝えられ、松本弁護士とともに靖國応援団を組織して闘ってきた稲田朋美弁護士、大村昌史弁護士、そしてわたしを中心に弁護団が結成され、裁判の準備がはじまった。提訴の約一年前のことだった。



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