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一六 アベンド記者の予告

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一六 アベンド記者の予告

 ニューヨーク.タイムズ上海支局のハレット・アベンドは、南京から上海へ到着したダーディンらから虐殺の報告を聞いた。事件の重大さを直感したかれは、十二月十九日上海発の特別無線で、「日本軍、南京の行過ぎを抑制」と題する記事を送った。『N・T』37・12・19付の記事は、南京虐殺が日本軍の歴史の大汚点となろうと、早くも予告したものである。同記事からは二回ほどすでに一部を紹介したが、ここに全文を載せる。

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日本軍、南京の行過ぎを抑制

(『ニューヨーク・タイムズ』一九三七年十二月十九日)

 十二月十九日(日)上海発特別無線 ハレット・アベンド

 日本陸軍上層部は、南京入城を国家の不名誉なものにした掠奪、暴行、殺戮を速やかに終息させるため、遅ればせながら厳しい懲戒手段をとりはじめた。

 たけり狂った部下が、数百人の非武装の捕虜、民間人、婦女子をでたらめに殺害するという衝撃的な不行跡が、中支方面司令官松井石根大将にはいっさい知られないようにするために、必死の努力がなされているものと思われる。ところが、この狡滑な老武将は、下級将校のなかにはもみけし工作に関与しているものがいることを、すでにうすうす気づいている模様である。

 指揮の手腕を心からほめたたえられるはずの正当な南京入城は、パナイ号攻撃で台なしになってしまい、さらには、中国の元の首都に到着するや、包囲が完了してからの出来事を知ったとき、落胆はパナイ号を凌ぎ、恐怖と恥辱の色を濃くした。日本の国も国民も、武勇と義侠の誉れ高い陸軍を長く誇りにしてきた。が、中国の大掠奪集団が町を襲うときよりひどい日本兵のふるまいが発覚したいまや、国家の誇りは地に堕ちてしまった。

外国人の証言

 この衡撃的な事実を隠蔽しようとしても無駄である、と日本当局は沈痛に受け止めている。偏

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見やヒステリーに充ちた中国人の言うことには、日本兵の蛮行を告発する根拠は見出せなくとも、忌まわしい事件の間じゅう、市内にとどまり、今なおそこにいて、絶え間なく続く暴行を書きとめている、信頼のおけるアメリカ人、ドイツ人の日記や覚え書によって、日本兵の蛮行は告発されるであろう。

 南京にいた記者全員がパナイ号の生存者を運ぷ上海行の船に乗りこんだあと、市内の情況は明らかにいっそう悪くなった。かれらが火曜日に南京を去ったので、あらゆる残虐行為は、火曜日夜、水曜日と次第に報道されなくなった。軍紀の立て直しは木曜日に開始された。

 日本陸軍は、いかなる外国人にも長期にわたって南京に入ってもらいたくなかったし、今後も許可は与えないだろう。だが、すでに内にいる外国人が外部となんらかの接触手段を見つけるでろう。つまり、南京占領という輝かしい戦いは、日本軍の戦史に栄光の記録として付け加えられるのではなく、日本軍がその極悪非道を必ず後悔するような歴史の一ページをしてつけ加えられるのではなく日本軍がその極悪非道を必ず後悔するような歴史の一ぺーヅを書き記すことになろう。

 日本の政府機関のあらゆる部門に働く、信頼できる、心ある役人たちは、起こったことを過小評価しようとはしていない。それどころか、かれらは多くの点において情況が世間一般に知られている以上に悪くなってきていることに狼狽している。

日本の将来に打撃は明らか

 日本の中国に対する希望や計画の多くは、南京での出来事により、頓挫するであろう。つまり

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日本軍の行状が内陸にも伝われば、いかなる中国政府といえども和平交渉を開始することは以前より難しくほとんど不可能に近くなるだろう。南京占領の恐怖は、日本の傀儡政権に協力しょうと考えている占領地域の上層階級の中国人にも脅威を与え、新政権離れを招くものと思われる。そのときは、必然的に日本は評判も性格も好ましからざる者と交渉をもたざるをえなくなろう。

 残虐行為の多くは、南京市を北に通過した部隊によってのみなされた、と当地ではみている。秩序回復のため、これらの一団を南京近辺から遠ざけ孤立させるよう、現在努力が傾注されているが、情況はここ数日間好転の兆しがなく、この状態が週末まで続くものと思われる。

 今後は、短期滞在の部隊も南京に入ることは許されないだろう。かわって、市には選り抜きの部隊が長期に駐屯し、法と秩序の回復・維持につとめるものと思われる。また彼らは、中国人民の信頼を回復するという困難で報われない仕事に従事するにちがいない。今後何年間も友好はかなわないとわかっていても、模範となるふるまいで協力を勝ちとらなければならないことをかれらは痛感させられるであろう。

 南京大虐殺の発端の情報を得た段階で、すでにその歴史的本質を鋭く指摘したアベンドの洞察力には驚かざるをえない。これにはダーディンが提供した情報・分析も役立っていたに違いない。南京占領は、当時日本国民が提灯行列をして祝賀したような「栄光の記録」とならずに、将来は「その極悪非遣を後悔する歴史の一ぺージ」となること、そして、南京大虐殺は日本が扶植しようとした傀儡・親日派勢力に打撃を与え、中国政府・民衆を決定的に抗日に向かわせる契機となることなど、その後

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の歴史の推移はアベンドの指摘の正しさを証明した。ただし、前者の「後悔」については残念ながらまだ日本国民全体のものにはなっていない。

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