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第十章 理事会に対する考察及提議

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第十章 理事会に対する考察及提議


 現在の紛争解決のため直接支那及日本政府に勧告を提出するは本委員会の職務に非ず。然れどもブリアン氏が本委員会創設に関する決議の案文を理事会に説明するに当り使用せる字句を借りて云えば、「両国間に現存する紛争原因の終局的解決を容易ならしむる」為、吾人は茲に国際聯盟に対し、聯盟の適当なる機関が紛争当事国に与うべき確定的提案を起草することを助けんことを目的とせる諸決議を吾人の研究の成果として提出せんとす。此等の提議は吾人が前章において定めたる前条件を満足せしむべき一方法を例示するの目的をもって為されたるものと諒解せらるべし。此等提議は主として広汎なる原則に関するものにして、多数の細目挿入の余地を残し、且紛争当事国が何等其の趣旨に副える解決を受諾するの意あるにおいては当事国によって多大の変更を加えわれ得べきものとす。

 假令日本の「満州国」正式承認が寿府における本報告書の審議以前に行わるることありとするも―右は吾人の看過するを得ざる事態なるが―吾人は吾人の仕事が徒労に帰すべしとは思考せず。吾人は孰れにせよ理事会は本報告が満州に於ける関係両大国の死活的利益を満足せしむるの目的を以てせる理事会の決議又は右両大国に対する勧告に役立つべき諸提議を包含せることを見出すべしと信じ。吾人が国際聯盟の諸原則、支那に関する諸条約の精神及字句並びに平和の一般的利益を念頭に置きつつ、他方現実の事態を看過せず、且東三省に現存し目下発展の過程にある行政機関を考慮に入れたるは一に此の目的に出づるものなり。世界平和の至高なる利益の為、事態が如何に帰着するとも、目下満州に於て醸成せられつつある健全な力を―理想たると人物たると将又思想たると行為たると総て之を利用し以て日支両国間の永続的了解を確保せんとする目的を以て本報告書中の諸提議が今尚日々に進展しつつある事態に如何に拡張し適用せらるべきかを決定するは理事会の職務なるべし。

 吾人は第一に、理事会が前章に示されたる大綱に依り其の紛争の解決を議せんが為支那及日本両国政府を招請すべきことを提議す。若し右招請受諾せらるるに於ては次の措置は東三省統治の為特別なる制度の構成に関し審議し且詳細なる提案を為す為可及的速やかに建言会議を招集することにあり。

 右会議は支那及日本両国政府の代表者、並びに支那政府により指定せられたる方法により選択せられたる者一名、日本政府により指定せられたる方法により選択せられたる者一名、計二名の地方民を代表する委員を以て構成せらるべきことを提議す。当事国の同意あるに於ては、中立国オブザーバーの援助を受くることを得べし。若し右会議が何等特殊の点に付協定に達し得ざる場合には会議は意見相違の点を理事会に提出し而して理事会は此等の点に付円満なる解決を得んことを試むべし。

 最後に吾人は此等審議及交渉の結果は四個の異なりたる文書に具現せらるべきことを提議す。

 一、建言会議の勧告せる条件に基づき東三省に対し特別なる行政組織を構成すべき旨の支那政府の宣言。

 二、日本の利益に関する日支条約。

 三、調停、仲裁裁判、不侵略及相互援助に関する日支条約。

 四、日支通商条約。

 建言会議会合前右決議の考慮すべき行政組織の概要は理事会援助の下に当事国間に協定せらるべきものなることを提議す。此の際考慮せられるべき事項中には左の如きものあるべし。

 建言会議会合の場所、代表の性質、及中立国オブザーバーが希望せらるるや否や。
 支那の領土的及行政的保全維持の原則と満州に対する広汎なる自治の付与。
 提議せられたるが如き別個の条約によって各般の懸案を解決するの原則。
 満州に於ける最近の政治的発展に参加せる者全部に対する大赦。

 一度此等広汎なる原則にして予め協定せられんか、細目に付いては建言会議に於いて又は条約締結交渉の際、当事国代表者に対し能う限り充分なる裁量の余地を残すべし。更に国際聯盟理事会に付議することは協定失敗の場合に於いてのみ行わるべきものとす

 本手続の利益在る諸点中吾人は本手続が支那の主権と抵触することなくして今日現存する満州の事態に適合せんが為有効且実際的なる手段を執ることを可能ならしむると同時に、今後支那に於ける国内事態の変化に伴い当然なりと認めらるるが如き変革を斟酌するものなることを主張す。例えば本報告においては地方政府の改組、中央銀行の創立、外国人顧問の傭聘の如き提案せられたるか又は現に居る若干行政及財政上の変革に注意したり。此等事項は建言会議に於いても依然之を維持すること有利なるやも知れず。吾人の提議せるが如き方法により選択せられたる満州住民代表者の本会議出席も亦現在の制度より新制度への転換を容易ならしむるべし。

 満州に対して企図せられ居る自治制度は遼寧(奉天)、吉林及黒龍江の三省にのみ施行するを目的とす。現に日本が熱河(東部内蒙古)において享有する権利は日本の利益に関する条約中において処理せらるべし。


一、宣言


 建言会議の最終提案は支那政府に提出せらるべし。而して支那政府は国際聯盟及九国条約調印国に送付せらるべき宣言中において之を具現すべし。聯盟国及九国条約調印国は右宣言を了承し、右宣言は支那政府に対し国際約定の拘束的性質を有するものなること明らかならしめらるべし。

 爾後必要により本宣言を改正する場合の条件は上に定義せられたる手続に遵い協定せられたる所により宣言自体中に規定せらるべし。宣言は東三省に於ける支那中央政府の権力と自治地方政府の権力とを区分すべし。

 中央政府に保留せらるべき権力は左の如くなるべきことを提議す。

 一、別に規定なき限り一般条約及外交関係の管理。但し中央政府は宣言の規定に抵触する国際約定を為さざるものと了解せらる。

 二、税関、郵便局及監税並びに能う限り印花税及煙酒税の事務の管理。中央政府東三省三間の此等収入よりの純収入の衡平なる配分は建言会議によって決定せらるべし。

 三、宣言中に規定せらるべき手続による東三省政府執政の少なくとも第一次の任命権。欠員は同様の方法又は建言会議によって同意せられ且宣言中に挿入せられたる東三省に於ける或種の選任制度によって充たさるべし。

 四、東三省執政に対し、東三省自治政府の管轄下にある事項に付中央政府が結べる国際約定の履行を確保するに必要なるべき命令を為すの権。

 五、本会議によって同意せられたる其他の権力。

 他の権力は総て東三省自治政府に帰属す。

 能う限り商会、同業公会及其他の民間団体等の伝統的機関を通して政府の政策に関する民意の発現を得せしむる為何等実際的制度を案出し得べし。

 白系露人及其他の少数民族の利益を保全する為にも亦何等規定を設くるの要あるべし。

 外国人教官の協力を以て特別憲兵隊を組織すべきことを提議す。右憲兵隊は東三省における唯一の武装隊たるべし。

 特別憲兵隊の組織は予め決定せられたる期間内に完成せらるるか、又は完了の時期は宣言中に規定せらるべき手続に従い決定せらるることを要す。該特別憲兵隊は東三省領域に於ける唯一の武装隊なるべきを以て之が組織完成の暁には該領域より日支双方の何れに属するを問わずあらゆる特別警察隊又は鉄道守備兵を含む他の総ての武装隊の撤収行わるべし。

 自治政府の執政は適当数の外国人顧問を任命すべくそのうち日本人が充分なる割合を占むることを要す。之が細目は前掲の手続に依りて決定せらるべく且宣言中に陳述せらるべきものとす。小国の国民も大国の国民と同様に選定せらるることを得べし。

 執政は聯盟理事会より提出すべき人名簿中より2名の異なれる国籍に属する外国人を任命し(1)警察(2)財務行政を監督せしむべし。右の二名の官吏は新制度の組織期間及試験期間中広汎なる権限を有すべく其の権限は宣言中に明定せらるべし。

 執政は国際決済銀行理事会より提出すべき人名簿より一名の外国人を東三省中央銀行の総顧問に任命すべし。

 外国人顧問及官吏の任用は支那国民党の創立者の政策及現国民政府の政策に合致するものなり。吾人は東三省における現下の状態並びに同地方に於ける外国の権益及勢力の複雑性が平和及良好なる施政の為に特別なる措置を必要ならしむることは支那の世論が之を認識するに難からざるべきことを期待す。然れども茲に提議せる外国人顧問及官吏(新制度組織の期間に於いて例外的に広汎なる権限を行使しべき外国人を含む)の存在は単に国際協力の形式を表現するに過ぎざるものなることは吾人の特に強調せんと欲する所なり。之等外国人顧問及官吏は支那政府の受諾し得べき形式に依り又支那の主権に合致せる方法に於いて選任せられざるべからず。彼等は従来海関及郵政の組織に傭聘せられたる外国人又は支那人と協力せる国際聯盟の技術的期間の場合に於けると同様、任命せられたる暁には任命せる政府の雇用人なりと自覚せざるべからず。此の点に関し内田伯が1932年8月25日、日本会議に於いて為したる演説中の左の一節は興味あるものなり。

 「・・・・・現に我国の如きも明治維新後多数の外国人を官吏又は顧問として傭聘して居たのでありまして、例えば明治八年頃に於ける是等外国人の総数は五〇〇名を超過して居たのであります・・・・・」

 尚日支協力の雰囲気の中に比較的多数の日本人顧問が任命せらるることは彼等をして特に地方的状況に適合せる訓練及知識を供与せしめ得べき点に於いても亦之を強調するを要す。過渡期を通じて目標とすべきは結局に於いて外国人の傭聘を不必要ならしむべき支那人のみに依りて組織せられたる文官制度の創立なり。


二、日本の利益に関する日支条約


 本報告書中に提議せる日支間の三条約締結の交渉に当るべき者に対して完全なる自由裁量を残すべきことは勿論なるも、彼等が処理すべき事項を指示することは有用なるべし。

 東三省における日本の利益及熱河に於ける或種の日本の利益に関する日支条約は主として日本人の特定の経済的権利及鉄道問題を取扱うべきものとす。即ち該条約の目的は左の如くなるを要す。

 一、満州の経済的開発に対する日本の自由なる参加。尤も右は同地方を経済的または政治的に支配する権利を伴わざるものとす。

 二、熱河に於いて現に日本が享有しつつある権利の存続。

 三、居住権及商租権を全満州地域に拡張すること及之に伴いて治外法権の原則を多少修正すること。

 四、鉄道運行に関する協定。

 今日迄の所日本人の居住権は南満州及熱河に限定せられ居りたり尤も南満州の間には何等確定的境界存せず。而して之等権利は支那が受諾し得ずと認めたる条件に下に行使せられ其の結果絶えず軋轢紛争を醸したり。課税及司法に関する治外法権的地位は日本人及朝鮮人の双方に為に主張せられ、後者に付いては不明確にして且論争の原因を為せる特別規定存せり。本委員会に提出せられたる証拠より見て支那は治外法権的地位が伴わざるに於ては現在の限定的居住権を全満州に拡張するに同意を與えるものと信ずべき理由あり。治外法権的地位が之に伴うに於ては支那領域内に日本人国家を創立するの結果を招来すべしと主張せられたり。

 居住権と治外法権とは密接なる関係を有すること明らかなり。然れども司法及税制制度が従来満州に於けるよりも遥かに高き程度に到達する時期迄は日本人は治外法権的地位の放棄に同意せざるべきことも同様に明らかなり。

 茲に二種の妥協方法あり。一は治外法権的地位を伴う現行の居住権は之を維持し、治外法権的地位を伴わざる居住権を日本人及朝鮮人双方の為に北満州及熱河に拡張すべしと云うにあり。他は日本人は満州及熱河の何処に於いても治外法権的地位の下に居住する権利を與えらるべく、朝鮮人は治外法権的地位を伴わざる同様の権利を與えらるべしとするにあり。右二種の提議は何れも或程度の長所を有するも同時に比較的重大なる故障あり。本問題の最も満足なる解決方法は之等地方の行政を治外法権的地位を必要とせざる程度に有能ならしむるにあること明らかなり。此の見地よりして吾人は少なくとも二名の外国人顧問(内一名は日本国籍を有することを要す)が最高法院に配属せられんこと及他の顧問が他の法院に配属せらるることの有利なることを勧告す。之等法院が外国人関係事項に関し判決することを求められたるあらゆる事件に付之等顧問の意見は公開せられるべし。吾人は右の他改組期間中において外国人が財務行教に関し或種の監督を有することを望ましいと思考し宣言に関し右の趣旨の提議を存し置きたる次第なり。


 尚右の他日支何れかの政府が其の名に於いて又は人民に代わりて提起すべき苦情を処理すべき仲裁裁判所を調停条約中に於て設立することは更に一段の保障をとり付ける所以なり。

 複雑にして困難なる本問題の決定は条約締結交渉の当事国側に残されるべきものなるも、朝鮮人の如く多数にして現に人口増加の途にあり且支那住民と斯く迄も密接なる関係の下に居住する少数民族に対して現在の如き外国による保護を為すことは必然的に感情の衝突を頻発せしめ延いては地方的事件の発生及外国の干渉を招くものなり本件の如き軋轢の源泉が除去せらるることは平和の見地よりして望まし。

 日本人に対して与えられるべきあらゆる居住権の拡張は「最恵国」条項の利益を享有する他のあらゆる列国の国民に対して同様の条件にしてに適用せらるべきものとす。但し右は治外法権国が支那との間に同様の条約を締結せる場合に限る。

 鉄道に関しては第三章に於いて日支双方鉄道建設者及鉄道当局の間に広汎にして相互に利益を齎す如き鉄道計画を目標とする協力は過去に於いて皆無又は殆ど無かりしことを指摘せり。若し将来に於ける軋轢を避けんとせば過去に於ける競争制度を終息せしめ之に代わるに諸線における貨客運賃に関する共通の了解を以てするの規定を本条約中に設くること必要なり。本問題は本報告に付属する特別研究第一に於いて検討せられ居れり。吾人の意見に依れば二つの解決方法あり。右二方法は何れか一つを選択すると得ると共に一個の終局的解決の段階とも見ることを得べし。

 其の一は其の範囲において稍制限せられたるものにして日支両国鉄道当局の協力を容易ならしむべき右両当局間の業務協定なり。日支両国は協力の原則の上に満州に於ける各自の鉄道系統を経営することに同意すべく且日支混合鉄道委員会は少なくとも一名の外国人顧問を加え或る他国に存する理事会の職能に類似せる職能を行使すべし。更に徹底的なる解決は日支両国の鉄道の利益を合同することにより与えられるべし。而して斯かる合同は若し協定せられ得るに於て実に本報告が確保せんとする目的の一たる真の日支両国の経済的共同の標徴となるべし。右は支那の利益を保証しつつ満州に於ける凡ての鉄道に対して南満州鉄道の偉大なる技術的経験の利益を提供するを得しむべく且過去数ヶ月間に於いて満州に於ける諸鉄道に適用せられたる制度より容易に進展せられ得べきものなり。右は将来に於て東支鉄道を含む更に広汎なる国際協定の成立に至るの途を開くに至るやも知れず。斯くの如き合同に関する詳細なる記述は実行の可能性ある事項として付属書に之を掲載せるも詳細なる計画は当事国間に於ける直接交渉に依りてのみ進展せらるべし。鉄道問題の斯くの如き解決は南満州鉄道をして純然たる商業的企業となすべく且一度特別憲兵隊が完全に組織せらるるにおいては右憲兵隊により與えらるる安全は鉄道守備隊の撤退を可能ならしめ相当莫大なる費用を節約し得べし。若し右にして為し得べくんば予め鉄道付属地内に特別土地章程及特別市政を施行し南満州鉄道及日本国民の既得権益を保障すべきなり。

 叙上の大綱による条約にして協定し得べくむば東三省及熱河に於ける日本人の権利に対する法律的根拠は認められ且右根拠は少なくとも現行条約及協定同様日本に有利なると共に支那にはより以上に受諾し得べきものなるを以て支那は1915年の条約の如き条約及協定に依り日本に為したる一切の確定的譲与を新条約に依り廃棄又は修正せられざる限り承認するに困難を有せざるべし。日本の要求する一切の比較的重要ならざる権利にして其の効力に付争あるもには協定の題目たるべし。若し協定成立せざるに於ては調停協約に掲げたる手続に訴うべし。


三、調停、仲裁裁判、不侵略及相互援助に関する日支条約。


 本条約の題目に付いて多くの先例及現存実例存するを以て詳細に記述するの必要なし。

 斯かる条約は日支両国政府間に発生するが如き一切の紛争の解決を援助する機能を有する調停委員会に付規定すべく又法律的経験及極東に関する必要なる知識を有する人士を以て構成する仲裁裁判所を設置すべし。右裁判所は宣言又は新条約の解釈に関する日支両国政府間に於ける一切の紛争及調停条約中に特に規定せらるるが如き他の範疇に属する紛争を処理すべし。

 最後に本条約に挿入せられたる不侵略及相互援助に関する規定に基づき当事国は満州が漸次非武装地帯となることに同意すべし。右の目的を以て憲兵隊の組織が実行せられたる後において両当事国の一方又は第三国による非武装地帯の侵犯は侵略行為を構成するものとなし他の当事国又は第三者の攻撃の場合には両当事国が聯盟規約の下に行動すべき聯盟理事会の権利を害することなく非武装地帯を防禦するに適当なりと思考する一切の措置を執るの権利を有すべし。

 若もソ連邦政府にして斯かる条約中の不侵略及相互援助に関する条章に参加せむと欲するに於ては別個の三国協定中に適当なる条項を包含せしめ得べし。


四、日支通商条約


 通商条約は当然他国の現存条約上の権利を保障しつつ能う限り日支両国間に於ける交易を増進し得べき条件の設定を目的とするものなるべし。本条約は支那人消費者の個人的権利を害することなく日本人の商業に対する組織的ボイコット運動を禁圧する為其の権限内に於ける一切の措置を講ずべき旨の支那政府による約定を包含すべし。

 前掲宣言及条約の対象に関する叙上の提議及考察は聯盟理事会に提出し其の考慮に供せらるべし。将来における協定の細目の如何に拘らず最も重きを置くべき点は交渉が與う限り速やかに開始せられ且相互信頼の精神によって行われるべきことなり。



 吾人の任務は終了せり。

 満州は過去一年間争闘及混乱に委せられたり。

 広大、肥沃且豊穣なる満州の人民は恐らく嘗て経験したることなき悲惨なる状態に遭遇せり。

 日支両国間の関係は仮装せる戦争関係にて将来に付いては憂慮に堪えざるものあり。

 吾人は右の如き状態を創造せる事情に関し報告せり。

 何人と雖も聯盟の遭遇せる問題の重要性及其の解決の困難に付充分了知する所なり。

 吾人は其の報告を完了せんとする際新聞紙上において日支両国外務大臣の二個の声明を閲読せるが其の双方に付最も重大なる一転を抜粋すべし。

 8月28日(判読困難18日かも知れず)羅文幹は南京に於いて左の如く声明せり。

 「支那は現事態の解決に対する如何なる合理的なる提案も聯盟規約、不戦条約及九国条約の条章及精神並びに支那の主権と両立すべきものたるを要し又極東に於ける永続的平和を有効に確保するものたるを要すと信ず。」

 8月30日内田伯は東京に於いて左の如く声明せりと伝えらる。

 「帝国政府は日支両国関係の問題は満蒙問題より更に重要なりと思惟す。」

 吾人は本報告書を終了するに当り右両声明の基調を為す思想を再録するを以て最も適当と思考するものなり。右思想は吾人の蒐集せる証拠、問題に関する吾人の研究、従って吾人の確信と正確に対応するものにして吾人は右声明により表示せられたる政策が迅速且有効に実行せらるるに於ては必ずや極東に於ける二大国及人類一般の最善の利益に於て満州問題の満足なる解決を遂げ得べきを信ずるものなり。

以上 リットン報告書(外務省訳)


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