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東京新聞1010こちら特報部

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東京新聞10月10日「こちら特報部」24面

避難区域指定 進まない福島市
除染優先 納得できぬ

渡利地区説明会 憤る住民
行政「勧奨地点なし」

 福島第一原発の事故は、県庁所在地で住宅が密集する福島市内にも高いレベルの放射能汚染をもたらした。だが国は「除染の結果を待ってほしい」と繰り返すばかりで避難区域の指定に積極的な姿勢を見せない。「補償の見通しがなければ逃げることもできない」「人の命より経済活動を優先するのか」八日、市内の渡利地区で開かれた住民説明会では、深夜まで怒りと落胆の声が渦巻いた。(中山洋子)

【写真】
午前零時まで続いた住民説明会で、不
安を訴える住民たち=8日、福島市で


 五時間続いた。

 八日午後七時に始まった福島市渡利地区の特定避難勧奨地点に関する住民説明会。体育館いっばいに詰め掛けた四百人以上の住民が、ひっきりなしに手をあげていた。

 地区の高線量を住民たちが知らされたのは四月下旬。その後、子どもたちは屋外活動を制限され、大人たちは町内の除染活動に黙って協力してきた。にもかかわらず、「特定勧奨地点の指定はなし」の説明に、住民たちは「納得できない」、と口をそろえた。

 特定避難勧奨地点は被ばく線量が年間二○ミリシーベルトを超えそうなホツトスポツトを世帯単位で指定し、避難を支援する制度。渡利地区では八月下旬に指定に向けた詳細調査が始まった。地区には六千七百世帯(計一万六千五百人)が住むが、国は事前調査で線量が高かった千三十八世帯のみを調査対象とした。福島市が目安とする三・○マイクロシーベルト以上の家が市内に二軒あったが、国は二軒には避難の意向がないとして、「避難ではなく除染を優先する」と指定を見送った。

 指定を受ければ、避難先の紹介などの行政支援。が受けられる。東電から避難費用などの賠償もある。六月以降、調査が先行している南相馬市や伊達市、川内村では計二百四十五世帯が指定された。

 説明会では「地域全部を調べてほしい。線量の高いところはいっばいある」「南相馬市や伊達市では毎時三・〇マイクロシーベルト以下でも指定されている。なぜ福島市はダメなのか」とただす声が相次いだ。

 福島市の冨田光政策推進部長は「指定は国がするもので、市が口を差し挟むことではない」。現地対策本部の佐藤暁氏は「年間二〇ミリシーベルトであれば住むことに問題はないが、指定しないと決めたわけではない。我慢しろと言うわけではないが、まずは線量を下げるために除染させてほしい」と繰り返した。

 あいまいな回答は、住民たちの不安をますますあおる、


 町内会に配付された線量計などで、生活環境のすみずみまで自らの手で調べている住民達からは「ばかにしているのか」と怒りの声が続いた。

 「10マイクロシーベルト以上で計器が振り切れるポイントがあちこちにある」という声が相次いだ。たまリかねたように手をあげた高齢女性も「おたくの放射能は何評マイクロですか、って挨拶してるんですよ。これまで生きててこんなの聞いたことがない」と嘆く。「おとなしい人ばかりで何も言わないと思って、これじゃ弱い者いじめですよ」
 「九州電力の社員が線量を測っているのを見た。電力(会社)側のデータではないか」と調査方法への不信感をあらわにする住民も。、

 佐藤氏は「電力を信用できない気持ちは分かるが、測定業務を専門にしている社員がマニュアルに基づいて行っている。伊達市やみなも相馬市も同じ。しかし、東電社員はいないと聞いている」と回答した。

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東京新聞10月10日「こちら特報部」25面

高線量地区あちこち
子ども救う 選択肢を

東電の補償逃れ心配

【写真】
8月、福島市渡利地区の民家で放射線を測定する担当者


 母親たちは、子どもや妊婦がいる世帯に配慮がないことに失望した。「だれが子どもに二〇ミリシーベルトを浴びさせていいと決めたのか」と憤るのは、子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク代表で、渡利地区在住の中手聖一さん。「国に出て行けと言われたくはない。私たちには住む権利がある。一方で、子どもが小さいので避難させてくれ、という家族もいる。どっちが先ではなく、両
方を後押ししてほしい。実情に合わない制度に固執しないで、住民のための選択的避難区域を作ってほしい」と訴えた。

 なぜ福島市内に「避難区域」が認められないのか。参加していた男性は.「都市部から子育て世帯がいなくなったら産業が立ちゆかず、税収も落ち込む。住民の安全よりも経済活動を優先しているせいだ」と憤る。「被ばくデータを集める人体実験をしている」とまで言い切る父母も少なくない。

 事前に賠償申請の資料を取り寄せていた住民男性(四〇)は、十月上旬に東電から「渡利地区は特定避難勧奨地点にならないので、申請資料は破棄してください」と言われた例を披歴した。

 三人の子どもたちは、外出時には今も長袖にマスク、帽子を欠かせない。自宅近くの阿武隈川の遊歩道は最近、台風で上流からの泥水をかぶったせいか、線量が跳ね上がり、毎時八~九マイクロシーベルトになっているという。子どもたちは、ますます外遊びができなくなり、連休のたびに遠くに避難させている費用もかさむ。男性は「指定がないと補償しないということか」と憤る。

 一方で、最優先という除染計画も、汚染廃棄物の中間処理施設が決まっておらず、国も市も着手の時期さえ示せない。

 市側は「国に早く決めてほしいと強く訴えている」と述べ、「多くの業者に頼むことになり、全戸の除染終了までに早くても数カ月間かかる」と語した。

 避難すべきか、とどまるべきか。悩み続ける住民たちに、国と市が五時間がかりで言い続けたのは「待て」のみだった。

 会社員真鍋幸男さん(六四)は「小さい子どもがいないから避難は考えていないが、子どものいる家庭のことはちゃんと考えてほしい。住民目線に立っていない行政を見てると泣きたくなりますよ」と話した。

 会社員中村英幸さん(四二)は「出口が見つからなくて、いらいらして家族とはケンカばかり。仕事を捨て、何の補償もなく避難は難しい。『逃げてもいい』という選択肢があると気が楽。個人に任せないでほLい」と漏らす。一緒に参加した妻(四一)も「高校生の娘達の将来が心配で、気がヘンになるくらい悩んだ。福島出身というだけで結婚が破談になった話も聞く。地域では危ない場所は子どもさえ分かっていて近づかない。無責任な対応はもうやめてほしい」と訴えた。

汚染進行しているところも

 福島市内では早くから「年間二○シーベルト」を超える被ばくリスクが指摘されていた。

 文部科学省が四月に示した「子どもに二○シーベルト」を認める甘い規準でも、当初、県内の学校・保育園の十三校で屋外活動が制限されたが、このうち十校は福島市内。渡利地区の中学校も含まれた。
 その後、福島市では、全小中学校で除染を行ったが、線量の低減は三割ほど。市民団体が九月に行った渡利地区の土壌汚染調査では、放射性物質が蓄積し、汚染が進行している地点もあった。

 福島市は先月末に除染計画を策定し「市内全域で二年後に毎時一マイクロシーベルト以下」の目標を掲げるが、神戸大大学院の山内知也教授は「現在の空間線量の四分の三は、半減期が二年のセシウム134によるもの。ほとんど何もしないという数値」と批判する。

 「より現実的な計画が必要だし、少なくともホヨリなどが舞う除染作業中は子どもや妊婦は絶対に避難させるべきだ」と警告した。


【デスクメモ】
 「マイクロさん」。
そんな呼び名が福島にあると聞いた。町を愛し、住み続けたい人々には、線量計を片手に危険を叫ぶ「マイクロさん」がうとましい。だが子を持つ親は必死なのだ。どちらも原発事故の被害者で、両方を救う義務を国は負う。万が一にも国や東電の補償の都合などを考えてはならない。(充)
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