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2007ed 2.勧告の目的と適用範囲

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2.勧告の目的と適用範囲」




2.1.勧告の目的


 (26) 本委員会勧告の主な目的は,被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく,放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護に貢献することである。

 (27) この目的は,単に放射線被ばくとその健康影響に関する科学的知識に基づくだけでは達成できない。それには放射線に対して人と環境を防護するためのモデルが必要である。この勧告は,科学的知識と専門家の判断に基づいている。放射線被ばくに起因する健康リスクに関連した科学的データのようなデータは,必要な前提条件であるが,防護の社会的・経済的側面も考慮しなければならない。放射線防護に関連する人々はすべて,いろいろな種類のリスクの相対的な重要性について,またリスクと便益のバランスをとることについて価値判断をしなければならない。この点において,放射線防護は,危険の管理に関する他の分野と異ならない。科学的推定と価値判断の基礎及びそれらの間の区別は,どのように決定がなされたかの透明性を高め,かくして決定への理解を増すために,可能であればいつでも明らかにすべきである,と委員会は信ずる。

 (28)放射線防護は,2つのタイプの有害な影響を扱う。高線量は多くの場合急性の性質を持つ確定的影響(有害な組織反応,3章参照)の原因となり,それはあるしきい値を超えた場合にのみ起こる。高線量と低線量はどちらも確率的影響(がん又は遺伝性影響)の原因となることがあり,その確率的影響は被ばくから長期間の後に起こるこれらの影響の発生率の統計的に検出可能な増加として観察される。

 (29)委員会の放射線防護体系は,第1に人の健康を防護することを目的としている。その健康のための目的は比較的単純である。すなわち,電離放射線による被ばくを管理し,制御すること,その結果,確定的影響を防止し,確率的影響のリスクを合理的に達成できる程度に減少させることである。

 (30) 一方,"環境防護"の単純あるいは1つの普遍的な定義はなく,その概念は国ごとに異なり,また事情によって異なる。したがって,放射線の影響を考察する他の方法は,人以外の種に対してより有用であることを証明することである可能性が高い。例えば,早期の死亡,又は罹病率あるいは繁殖成功率の低下のような影響である。委員会の目的は,現在,生物多様性の維持,種の保全,又は自然の生息環境,群集及び生態系の健康と状態についてインパクトが無視できるレベルになるように,有害な放射線影響の発生を防止又は頻度を低減することである。しかし,この目的の達成において,放射線被ばくは考慮すべき1つの因子にすぎないこと,多くの場合小さい因子であることを,委員会は認識している。委員会は,そのアプローチがリスクのレベルに見合っていること,及び,他の人間活動のインパクトから環境を防護するためになされる努力と両立することを確実にするために,ガイダンスと助言を与えるであろう。



2.2.防護体系の基礎と構成


 (31) 放射線被ばく状況は様々であり,また幅広い適用範囲にわたって一貫性を達成する必要があるため,委員会は,防護に対し実行可能で,かつ体系的なアプローチを促進することを目的とした,正式な放射線防護体系を確立した。この体系は多数の被ばく源を取り扱わなければならないが,それらの被ばく源の一部は既に存在し,また他の一部は社会により選択されたものとして,あるいは緊急事態の結果として,意図的に導入されることがある。これらの被ばく源は,様々な相互に関連する事象や状況のネットワークにより,現在及び将来の両方において,個人,グループ,又は集団全体の被ばくにつながっている。この防護体系は,このような複雑なネットワークを1つの論理的構造により取り扱うことができるように策定された。

 (32) 人の防護体系は,a)放射線量評価のための人の解剖学的及び生理学的な標準モデル,b)分子及び細胞レベルでの研究,c)動物実験を用いた研究,そしてd)疫学的研究の利用に基づいている。モデルを使用することにより,作業者,患者及び公衆の内部被ばくに対しては様々な放射性核種の預託された"単位摂取量当たりの線量",また外部被ばくに対しては"単位空気カーマ又は単位フルエンス当たりの線量"に関する標準化された集計データが導かれた。疫学的研究と実験的研究により,外部被ばく及び内部被ばくに関連するリスクの推定が行われた。生物学的影響に関しては,データは,実験生物学により裏付けられた人での経験によってもたらされた。がん及び遺伝性影響に関しては,委員会の出発点は,疫学的研究と,動物及び人の遺伝学に関する研究の結果である。放射線防護において問題となる低線量におけるリスク推定値を提供するために,これらの研究結果は,発がん及び遺伝のメカニズムに関する実験的研究からの情報で補完されている。

 (33) 組織加重係数の値と損害の推定値に関わる不確実性を考慮して,委員会は,年齢と性について平均化された組織加重係数とリスク推定値を利用することが,放射線防護の目的に適切であると考える。この防護体系は,両性に関し適切な防護を達成するために十分堅固である。更に,この体系は,不必要に差別的になりうる性別と年齢別の放射線防護規準の要件を避けている。しかし,疫学的研究のような放射線関連リスクの遡及的評価の目的に対しては,性別と年齢別のデータを使用し,性別と年齢別のリスクを計算することが適切である。損害を計算するための委員会の方法の詳細は,付属書AとBで論じられている。

 (34) 委員会のリスク推定値は,それが代表的な年齢分布を持つ女性と男性の名目集団の被ばくに関連していること,また年齢グループと両性にわたって平均化して計算されていることから,"名目"と呼ばれる。放射線防護の目的で勧告されている線量計測量である実効線量もまた年齢と性について平均化することによって計算されている。実効線量を評価するための名目係数の定義には,本質的に多くの不確実性が存在する。致死率と損害係数の推定は,放射線防護の目的に関しては適切であるが,疫学から導出されている全ての推定値がそうであるように,名目リスク係数は特定の個人には適用されない。ある個人又はある既知の集団の被ばくによって起こり得る影響を推定するためには,被ばくした個人に関する特定のデータを用いる必要がある。

 (35)委員会が既に勧告したように(ICRP,1999a),関連する臓器における確定的影響のしきい線量が超過する可能性のある状況は,ほとんどいかなる事情の下においても防護対策の対象とすべきである。特に長期的な被ばくを伴う状況においては,確定的影響に関するしきい値の現行の推定値における不確実性を考慮することが賢明である。その結果,100mSv近くまで年線量が増加したら,ほとんどいつでも防護対策の導入が正当化されるであろう。

 (36) 年間およそ100mSvを下回るの放射線量において,委員会は,確率的影響の発生の増加は低い確率であり,またバックグラウンド線量を超えた放射線量の増加に比例すると仮定する。委員会は,このいわゆる直線しきい値なし(LNT)のモデルが,放射線被ばくのリスクを管理する最も良い実用的なアプローチであり,"予防原則"(UNESCO,2005)にふさわしいと考える。委員会は,このLNTモデルが,引き続き,低線量・低線量率での放射線防護についての慎重な基礎であると考える(ICRP,2005d)。

 (37)単一のクラスの被ばくの中であっても,個人はいくつもの線源に被ばくしていることがあり,被ばく量全体の評価を試みなければならない。この評価を"個人関連の"評価と呼ぶ。1つの線源又は複数の線源のグループに被ばくしたすべての個人の被ばくも考慮する必要がある。この手順を"線源関連の"評価と呼ぶ。ある線源からの個人の防護を確実にするためには,その線源に対して対策を講じることができるから,線源関連評価が最も重要であることを委員会は強調する。

 (38)確率的影響の確率的な本質及びLNTモデルの特性が,"安全"と"危険"を明確に区別することを不可能にしており,このことが放射線リスクの管理の説明を幾分難しくしている。LNTモデルの方針上の主な意味合いは,どんなに小さくてもある有限のリスクを仮定し,容認できると考えられることに基づいて防護レベルを確立しなければならないということである。これが,次の3つの防護の基本原則を持つ委員会の防護体系につながっている:
●正当化
●防護の最適化
●線量限度の適用
これらの原則については5.6節でより詳細に論ずる。

 (39) 電離放射線の有害な影響から個人を防護する際,たとえ何が線源であろうとも,重要なのは放射線量の管理(制限という意味での)である。

 (40) 放射線防護体系の主要な構成要素は,以下のように要約することができる。
●放射線被ばくが生じるかもしれない状況の特徴付け(計画被ばく状況,緊急時被ばく状況, 及び現存被ばく状況)。
●被ばくのタイプの区分(起こることが確実な被ばくと潜在被ばく,更に職業被ばく,患者の 医療被ばく,及び公衆の被ばく)。
●被ばくした個人の同定(作業者,患者,及び公衆の構成員)。
●評価の種類のカテゴリー化,すなわち線源関連と個人関連。
●防護原則の正確な記述:正当化,防護の最適化,線量限度の適用。
●防護対策又は評価を必要とする個人線量のレベルの記述(線量限度,線量拘束値及び参考レベル)。
●線源のセキュリティ及び緊急時への備えと対応のための要件を含む,放射線源の安全のための条件の明確な説明。

 (41) 本勧告の中に記述され,上記に要約された放射線防護体系の履行は,監視され,かつ評価されるべきである。また,経験から学ぶこと及び改善の範囲を確認することを目的として,定期的に見直すことが重要である。

 (42) 委員会は本勧告の中で,線源関連の防護において同じ概念のアプローチを使用し,また線源のタイプ,被ばく状況,又は被ばくした個人にかかわらず防護の最適化を強調している。防護の最適化の中で,線量又はリスクにおける線源関連の制限が適用されている。原則として,そのような制限のレベルを超える線量を意味する防護の選択肢は排除すべきである。これまで委員会は,行為についてのこれらの制限に対して"拘束値"という用語を使用してきた。委員会は一貫性を維持するという理由で,計画被ばく状況に関しては引き続きこの用語を使用するが,これは計画被ばく状況が通常の行為の実施を含んでいるからである。しかし,委員会は,"拘束値"という言葉が多くの言語では厳格な限度として解釈されていると認識している。そのような意味は,拘束値の適用は地域の事情に依存せざるを得ないので,決して委員会の意図するところではなかった。

 (43) 防護対策のレベルは,委員会の勧告全般(表8,6.5節参照)又は最良事例などに含まれる包括的な考察に基づいて選定されることがある。何らかの特定の事情が重なった場合,特に緊急時被ばく状況又は現存被ばく状況においては,包括的な考察から選定された防護のレベルをすぐ満足できるような実行可能な防護選択肢がないケースがありうるかもしれない。したがって,拘束値を限度の1つのかたちとして厳密に解釈すると,最適化のプロセスの結果を深刻かつ悪い方向にゆがめてしまうことがあるかもしれない。この理由から,委員会は,緊急時被ばく状況又は現存被ばく状況において,これを上回る被ばくが起きることを許す計画の策定は不適切であると判断され,またそれ以下では防護の最適化を履行すべきであるような線量又はリスクについての制限のため"参考レベル"という用語を用いることを提案する。しかし委員会は,計画被ばく状況とその他の2つの被ばく状況の間の名称の相違は,防護体系の適用において何ら基本的な相違を意味しないということを強調したい。計画被ばく状況,緊急時被ばく状況,及び現存被ばく状況における最適化の原則の適用に関する更なるガイダンスは,6章に提供されている。


2.3.勧告の適用範囲


 (44)委員会の放射線防護体系は,その大きさと起源にかかわりなく,あらゆる線源からのすべての放射線被ばくに適用される。"放射線"という用語は電離放射線を意味するために用いられている。委員会は一般的な意味での"放射線被ばく"(又は略して"被ばく")という用語を,放射線又は放射性核種に被ばくするプロセスという意味で用いてきており,被ばくの重大さは,その結果として生じる放射線量によって決まる(ICRP,1991b)。"線源"という用語は,被ばくの原因を示すために用いられ,必ずしも物理的な放射線源ではない(5.1節を参照)。一般に,勧告を適用する目的に対しては,線源とは,1つのまとまった全体として,それに対して放射線防護が最適化できる実体である。

 (45)委員会は,勧告をできる限り広く,かつ首尾一貫して適用できるように目指してきた。特に,委員会の勧告は自然線源と人工線源の両方の被ばくを取り扱っている。勧告は,被ばくの源か又は個人が受けた線量を生じる被ばく経路のどちらかを,ある合理的な手段で制御できる状況にのみ全体的に適用できる。そのような状況における線源を,制御可能な線源という。

 (46)線源は多数ある可能性があり,ある個人は複数の線源からの放射線に被ばくするかもしれない。線量が確定的影響(有害な組織反応)のしきい値より下であるとすると,その状況に起因する追加線量とそれに応じた確率的影響の確率の増加との間の想定される比例関係によって,全被ばくの各成分を独立に扱い,放射線防護にとって重要な成分を選択することが可能となる。更に,これらの成分を様々な目的に関連したグループに再分割することが可能である。

注 「行為」と「介入」

 (47) これまで委員会は,線量を加える行為と線量を減らす介入とを区別していた(ICRP,1991b)。委員会は,今回,放射線被ばくが計画被ばく状況,緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況として発生することがある状況を特徴付けるために,状況に基づいたアプローチを用いる;つまり委員会は,1組の基本的な防護原則をこれらのすべての状況に適用する(5.6節参照)。

 (48) しかし"行為"という用語は放射線防護において広く使用されるようになっている。委員会は,今後もこの用語を,放射線被ばくあるいは放射線被ばくのリスクの増加を生じさせる活動を意味する用語として引き続き使用するであろう。

 (49)行為は,企業,取引,産業,又はその他の生産的な活動,というような活動でありうる。それはまた,政府の事業や慈善事業でもありうる。行為の概念には,その行為が導入しあるいは維持している放射線源が,その線源への対策により直接に制御できることが暗に含まれている。

 (50) "介入"という用語も放射線防護において広く使用されるようになり,被ばくを低減するために対策が講じられるような状況を記述するために国及び国際的な基準に組み入れられてきた。委員会は,この用語の使用を,被ばくを低減する防護"対策"の記述に限定し,一方で,"緊急時被ばく"又は"現存被ばく"という用語を,被ばくを低減するためにそのような防護対策を必要とする放射線の被ばく状況を記述するために使用することがより適切であると信じる。



2.4.除外及び免除


 (51) 委員会勧告があらゆるレベルとタイプの放射線被ばくに関わっているという事実は,その適用のために法体系又は規制体系を確立する際に,すべての被ばく,すべての線源,及びすべての人間の行動を同じように考慮することが可能あるいは必要であることを意味していない。むしろ,ある特定の線源又は被ばく状況を規制する上での管理へのなじみやすさ,及びその線源又は状況に関連する被ばく/リスクのレベルに応じて,段階的な責任の負担を予測しなければならない。

 (52) 放射線防護管理の範囲を区別する2つの明確な概念が存在する。すなわち,(i)規制手段で制御することになじまない(規制できない)という根拠に通常基づいた,特定の被ばく状況の放射線防護の法規制からの"除外",及び(ii)多くの場合制御のための努力が関連するリスクに比べて大きすぎる(規制の必要がない)と判断されるという根拠で,そのような管理が是認されないとみなされるような状況に対する,一部又はすべての放射線防護の規制要件からの"免除"である。放射線防護に関する法体系は,第1に,法体系の範囲内に含めるべきものと,法体系の範囲外とし,したがって法律とその規則から除外すべきものを定めるべきである。第2に,法体系は,規制対策が不当であるという理由で,一部又はすべての規制要件から免除すべきものを定めるべきである。この目的のため,法的枠組みは,規制当局がある被ばく状況を,特定の規制要件,特に届出及び認可,あるいは被ばく評価と検査などの行政的な性質を持つ規制要件から免除することを許すべきである。除外は管理体系の適用範囲を定めることと強く関連しているが,適用範囲を決める1つの仕組みにすぎないので,十分ではないかもしれない。一方,免除は,ある線源又は行為を規制管理の一部又はすべてに従う必要はないと決定する規制当局の権限に関係している。除外と免除の区別は絶対的なものではない;各国の規制当局は,特定の線源又は状況を免除あるいは除外するかどうかについて,異なる決定を下すかもしれない。

 (53)放射線防護法令から除外できるかもしれない被ばくには,制御できない被ばくと,その大きさにかかわらず本質的に制御することになじまない被ばくが含まれる。制御できない被ばくとは,体内に取り込まれた放射性核種のカリウム40による被ばくのような,いかなる考え得る事情の下でも規制対策で制限できない被ばくである。制御になじまない被ばくとは,地表面における宇宙線による被ばくのように,制御が明らかに実際的でない被ばくである。どの被ばくが制御になじまないかの決定には立法者の判断が必要であり,その判断は文化的な感じ方に影響されることがある。例えば,自然起源の放射性物質による被ばくの規制に対する態度は国により極めて多様である。

(54) 除外と免除に関する更なるガイダンスは,Publication 104(ICRP,2007a)に提供されている。


2.5. 参考文献


ICRP, 1991b. The 1990 Recommendations of the International 
Commission on Radiological Protection. ICRP Publlcation 60.
Ann.1CRP 21(1-3).

ICRP, 1999a. Protection of the public in situations of 
prolonged radiation exposure. ICRP Publicadon 82. 
Ann. ICRP 29(1-2).

ICRP, 2005d. Low dose extrapolation of radiation-related 
cancer risk. ICRP Publication 99. Ann. ICRP 35(4).

ICRP, 2007a. Scope of radiological protection control measures. 
ICRP Publication 104. Ann. ICRP 37(5).

UNESCO, 2005. The Precautionary Principle. United Nations
Educational, Scientific and Cultura1 Organization, Paris,
France. lCRP 





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