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2007ed 1.緒言

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1.緒言



 (1)本章は国際放射線防護委員会(ICRP)とその勧告の歴史を扱う。この報告書の目的と構成を述べ,ICRPが電離放射線に対する防護のみに関心を持つ理由を示す。

1.1.委員会の歴史


 (2) 国際放射線防護委員会(以下,委員会という)は第2回国際放射線医学会議による決定に従い,国際放射線医学会議により,国際X線・ラジウム防護i委員会(IXRPC)という名称で1928年に設立された。委員会は1950年に改組され,現在のように名称が変更された。

 (3)委員会は独立したチャリティ団体であり,すなわち非営利組織である。委員会はその姉妹団体である国際放射線単位測定委員会(ICRU)とともに密接な作業を行い,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR),世界保健機関(WHO)及び国際原子力機関(IAEA)と公的な関係を持っている。また国際労働機関(ILO),国連環境計画(UNEP)及び他の国連機関と重要な関係を保っている。委員会がともに作業している他の組織には,欧州共同体の委員会(欧州委員会,EC),経済協力開発機構1の原子力機関(OECD/NEA),国際標準化機清(ISO),及び国際電気標準会議(IEC)がある。また委員会は,国際放射線防護学会(IRPA)との強力なつながりを通じて,放射線業界とも接触を保っている。委員会は更に,各国の組織により報告される進歩も考慮に入れている。


1.2.委員会勧告の発展


 (4) 委員会の最初の一般的勧告は1928年に発表され,医学用線源を使用する作業時間の制限による医療専門家の防護に関するものであった(IXRPC,1928)。現在,この制限は年約1000ミリシーベルト(mSv)の個人線量に相当すると推定される。初期の勧告は,当初定性的なやり方によるしきい値のある影響の回避に関するものであった。防護を定量化し,線量限度を定義する前に線量を測定するシステムが必要であった。1934年には,現在の職業被ばくの年線量限度の約10倍に相当する安全なしきい値の概念を暗に示す勧告がなされた(IXRPC,1934)。耐容の考え方が継続され,委員会は1951年に,低LET放射線に関し,現在では週約3mSvと推定することができる限度を提案した(ICRP,1951)。米国の放射線科医の間で悪性疾患が過剰に出現し,また日本の原爆被爆者に過剰な白血病の最初の疫学的証拠が初めて現れたことから,しきい値に関する支持は1954年までに減退した(ICRP,1955)。

 (5) 軍事と産業の両面における原子力エネルギー利用の展開に伴い,委員会は1950年代初頭,公衆の防護のための勧告を導入することになった。委員会の1956年勧告(ICRP,1957)では,週線量及び集積線量の限度が設定され,それは,作業者に対する50mSv,公衆に対する5mSvの年線量限度に相当した。現在,何を確率的影響と名付けるかは可能であるが,それらのタイプの影響についてしきい値の有無を実証することは不可能であることを考慮し,委員会の1954年勧告は「すべてのタイプの電離放射線に対する被ばくを可能な限り低いレベルに低減するため,あらゆる努力をすべきである」と助言した(ICRP,1955)。このことは,引き続いて,被ばくを「実際的に可能な限り低く維持する」(ICRP,1959),「容易に達成可能な限り低く維持する」(ICRP,1966),またその後「経済的及び社会的な考慮を行った上で合理的に達成可能な限り低く維持する」(ICRP,1973)という勧告として公式化された。

 (6)Publication 1(1959)の番号のついた現在のシリーズにおける委員会の最初の報告書は,1958年に承認された勧告を含んでいた。それに続く全般的な勧告は,Pzablication 6(1964),Publication 9(1966), Publication 26(1977),そしてPublication 60(1991b)として登場した。これらの全般的な勧告は,より専門化された課題に関する助言を提供する他の多くのPublicationsによって支えられている。

 (7)Publication 26で委員会は,初めて放射線の確率的影響のリスクを定量化し,また,正当化,防護の最適化,及び個人線量の制限という3原則を含む"線量制限体系"(ICRP,1977)を提案した。1990年に委員会は,1つには放射線被ばくのリスク推定値が上方修正されたため,また1つには,基本的な考え方を,線量制限体系から"放射線防護体系"へと拡張するために,勧告を大幅に改訂した(ICRP,1991b)。改訂後も,正当化,最適化及び個人線量制限の原則は残り,また様々なタイプの被ばく状況の相違を考慮するため,"行為"と"介入"の区別が導入された。更に,内在する経済的及び社会的判断から生じる可能性がある不公平を制限するため,拘束値による防護の最適化により重点を置いた。

 (8) 1956年に設定された作業者に対する年線量限度50mSv 1)は1990年まで維持されたが,この時点で,広島と長崎の原爆被爆者の寿命調査研究から推定された確率的影響に関するリスクの改訂(ICRP,1991b)に基づき,平均して年20 mSvに更に低減された。公衆構成員に対する年線量限度5mSvは,委員会のパリ声明(ICRP,1985b)において年平均1mSvに低減され,その後Publication 60(ICRP,1991b)では,この線量限度は"特殊な事情においては"5年間にわたって平均する可能性を持った年1mSvと与えられた。

 (9)Pzablication 60以降,放射線源による被ばくを管理するための追加のガイダンスを提供する一連の刊行物がある(全参考文献リストを参照)。1990年勧告を含めると,これらの報告書には様々な事情に対する個人線量を制限するための約30の異なった数値が指定されている。更に,これらの数値は多くの異なる方法で正当化されている(ICRP,2006b)。加えて委員会は,Publication 91で環境の防護に関する方針ガイダンスの策定も開始した(ICRP,2003b)。

 (10) 今回,委員会は,一連の改訂された勧告を採用し,同時に従来の勧告との安定性を1)以前の報告書で使用されている一部の用語と単位は,一貫性維持のため現在の用語に置き換えられている。維持することを決定した。

 (11) 委員会は,電離放射線の健康影響に関する膨大な数の文献を広範囲に見直したが,放射線防護体系の根本的な変更の必要性は示さなかった。したがって,改訂された勧告には変更よりも多くの継続性が存在する。一部の勧告は,それらが正常に機能し,かつ明確であることからそのまま残され,他の勧告は理解が進展したことから更新された。またいくつかの項目は欠けた部分があったため追加され,また一部の概念はより詳しいガイダンスが必要であったため,よりよく説明された。

 (12)本勧告は,様々なICRPの刊行物に公表されたこれまでの勧告を統合し,それに追加を行ったものである。1991年以降に出された方針ガイダンス中の既存の数値勧告は,特に指定のない限り引き続き有効である。したがって,本勧告は,Publication 60の勧告とその後の方針ガイダンスに適切に基づいた放射線防護規則の重大な変更を示唆するものと解釈すべきではない。本勧告は,放射線防護の最適化の重要性を繰り返し表明し,強化し,行為(現在,計画被ばく状況に含まれる)に関するこの要件の履行の成功経験を他の状況,すなわち緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況に拡張する。

 (13) 委員会は,様々な状況における最適化プロセスの適用に関する報告書によるこれらの勧告の追跡調査を計画している。

 (14)今回の統合された勧告は,委員会の方針の重要な側面を詳細に説明し,勧告に根拠を与える,次に示す一連の支援文書によって支えられている:

●放射線誘発がんのリスクの低線量における外挿(Publication 99;ICRP,2005d)。
●電離放射線に起因する健康リスクに関する生物学的及び疫学的情報:人の放射線防護のため の判断の要約(本勧告の付属書A)。
●放射線防護に用いられる諸量(本勧告の付属書B)。
●放射線防護の最適化(Publication 101;ICRP,2006a, Part2)。
●代表的個人の線量の評価(Pzablication 101;ICRP,2006a, Part 1)。
●環境に対する電離放射線のインパクト評価に関する枠組み(Publication 91;ICRP,2003b)。
●更に,委員会は,放射線防護の範囲に関するガイダンス(Publication 104;ICRP,2007a),及び医療行為における放射線防護に関するガイダンス(Publication 105;ICRP,2007b)も提供している。

 (15) 委員会の主な目的は,これまでもまた今後も引き続き,人間の放射線防護を達成することである。委員会は環境全般の防護について一般的な声明を出したことはないが,それにもかかわらず,これまでも他の種に対する潜在的インパクトを考慮してきた。委員会はPublication 60(ICRP,1991b)で,環境を通した放射性核種の移行が人間の放射線防護に直接影響するという理由で,人類の環境のみを考慮していると述べたことは事実である。しかし,委員会は,現在望ましいと考えられる程度に人を防護するために必要な環境管理基準は,他の種がリスクに曝されないことを保証するであろう,という意見も表明している。

 (16) 委員会は引き続き,計画被ばく状況の下では(計画被ばく状況の定義については5.2節参照),一般論としてその可能性が高いこと,また,したがって人の居住環境には相当高度な防護が提供されていることを信じている。しかし,人の防護に関する勧告がこれまで実施されてきておらず,あるいは人が存在していないその他の環境が存在し,また環境の影響を考慮する必要があるかもしれないようなその他の被ばく状況が発生するかもしれない。委員会はまた,一部の国の当局には,計画被ばく状況下でも環境が防護されていることを,直接,また明示的に実証する必要のあることも承知している。したがって,委員会は現在,被ばくと線量の間,及び線量と影響の間の関係,及びヒト以外の種に対するそのような影響の結果を,共通の科学的基盤の上で評価するために,より明確な枠組を開発する必要があると確信する。8章でこれを更に論じる。

 (17) 委員会の助言は,主に,放射線防護の責任を持つ規制当局,組織及び個人に向けられている。これまで,委員会の勧告は国及び地域の規制基準の一貫した根拠を提供する上で役立っており,また委員会はその勧告の安定性の維持に関心を払ってきている。委員会は適切な放射線防護の基盤となりうる基本原則のガイダンスを提供する。規制本文の提供を目標とはしていない。しかし,規制の本文は当委員会のガイダンスに基づいて作成すべきであり,また大枠でガイダンスと一致しているべきであると委員会は信ずる。

 (18) 委員会勧告と,国連のグループ内の該当する国際組織が共同提案し,IAEAが発行している電離放射線に対する防護と放射線源の安全に関する国際基本安全基準(通常,単に"BSS"と呼ばれる)の間には密接な関係がある。 IAEAの理事会は, BSSはICRPの勧告を考慮しなければならないと決定した。したがってBSSは常に, ICRPの新基本勧告の制定に追随してきた。例えば,1977年と1990年のICRP勧告はそれぞれ1982年と1996年に刊行された国際基本安全基準の改訂版の基礎になっている。

 (19) これまでの報告書と同様,今回の勧告は電離放射線に対する防護に限られている。委員会は電離放射線以外の放射線源に対する適切な管理の重要性を認識している。その種の線源に関しては,国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が勧告を提供している(ICNIRP,2004)。


1.2.1.線量に関係する諸量とその単位の進化


 (20) 最初の線量単位である"レントゲン"(r)は1928年に,その後ICRUとなる国際X線単位委員会によってX線に対して制定された(㎜UC,1928)。"線量"という用語が単位rの修正された定義とともに正式に使用されたのはICRUの1937年の勧告においてである(ICRU,1938)(*現在の単位記号はR)。ICRUは吸収線量の概念を提案し,1953年に,その名称と単位"ラド"を,空気以外の特定の物質に線量概念を広げるために正式に定義した(ICRU,1954)。

 (21) ICRUが使用した,様々な種類の放射線の生物効果比(RBE)を盛り込んだ最初の線量関係量は"レムで表されたRBE線量"であり,これはICRUの1956年勧告で規定されたラドによる吸収線量をRBEで重み付けした合計である。この線量関係量は, ICRUとICRPの共同作業の結果である線量当量に置き換えられた。この線量当量は,吸収線量,その放射線の線質係数,線量分布係数及びその他の必要な修正係数の積として定義された(ICRU,1962)。"レム"は線量当量の単位として維持された。更に,ICRUはその1962年勧告でもう1つの線量であるカーマを定義し,exposure doseの名称を単純な"exposure"(*和名は照射線量)に変更した。

 (22)委員会は1977年勧告(ICRP,1977)で,人体の様々な組織と臓器の線量当量の加重和を定義することにより確率的影響の制限のための新たな線量当量を導入した。ここで,加重係数は"組織加重係数"(ICRP,1977)と名付けられた(*従来は荷重係数。本勧告により表記変更)。委員会は1978年のストックホルム会議で,この新しい加重された線量等価量を"実効線量当量"と名付けた(ICRP,1978)。同時に,線量のSI単位が採用され,ラドは"グレイ"(Gy)に,レムは"シーベルト"(Sv)に置き換えられた。

 (23) 委員会は1990年勧告(ICRP,1991b)で,人体に関係する線量関係量を再定義した。防護の目的のため,ある組織又は臓器にわたって平均された吸収線量を基本量として定義した。更に,生物学的影響は線エネルギー付与だけに支配されないことを考慮し,委員会は,1977年勧告の線量当量の計算に用いられた線質係数の代わりに,低線量における確率的影響の誘発に対するRBEに基づいて選定された"放射線加重係数"を使用することを決定した。委員会は,この結果得られた量を線量当量と区別するため"等価線量"と名付けた。それに伴い,実効線量当量は"実効線量"と改名された。放射線の健康影響に関する新しい情報を考慮するため,組織加重係数に若干の修正も加えられた。

 (24)現在使用されている線量計測量とその単位の更なる説明は4章にある。


1.3.勧告の構成


 (25)2章は勧告の目的と適用範囲を扱う。3章は放射線防護の生物学的側面を扱い,4章では放射線防護で使用される諸量と単位について論じる。5章は人の放射線防護体系の概念的枠組みについて述べ,6章は3タイプの異なった被ばく状況に対する委員会勧告の履行について扱う。7章は患者などの医療被ばくを述べ,8章では環境の防護について論ずる。



1.4.参考文献



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