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2007年勧告の「論説」

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2007年勧告の「論説」


論説

各位の援助なしでは成しえなかったであろう

国際放射線防護委員会のこの新勧告は, 世界中の研究者, 規制者及び利用者を含む8年にわたる検討の末, 2007年3月21日にドイツ, エッセンにおいて承認された。

委員会は, 規制当局あるいは助言機関に対し, 主に適切な放射線防護の基礎となしうる基本原則に関するガイダンスを提供することによってその勧告を提示する助言組織である。1928年の設立以来, 委員会は定期的に電離放射線の危険に対する防護に関する勧告を公表してきた。現在のシリーズの最初の報告 Publication 1は, 1958年に採択された勧告を含んでいる(ICRP, 1959)。より近年の勧告は Publication 26(ICRP,1977) 及び Publication 60 (ICRP,1991b) として刊行され, それぞれ1977年及び1990年に採択された勧告が含まれている。

放射線防護に責任のある国際組織及び各国の当局, それに利用者は, 委員会が公表するこれらの勧告と原則を防護対策の重要な基礎としてきた。このように, 放射線防護に関わる事実上すべての国際基準と各国の国内規則は, 委員会の勧告に基づいている。

現在, ほとんどの国の規則はPublication 60に記載された1990年勧告に基づいている。IAEA の国際基本安全基準のような国際基準, 種々の国際労働協定, 及びEUの放射線防護に関わる欧州指令書もこの勧告に基づいている。

Publication 26の中で, 委員会は, 放射線による確率的影響のリスクを定量化し, 正当化, 防護の最適化, 及び個人の線量制限の3原則を持つ線量制限体系を提案した。Publication 60において委員会は, その勧告を改訂し, 防護の基本原則を維持する一方で, その考え方を放射線
防護体系に拡張した。

Publication 60以降, 新たな科学的データが発表されており, 各種の生物学的及び物理学的な仮定と概念は依然として堅固ではあるものの, いくらかの更新が必要となっている。確定的影響の推定値は全体としては基本的には同じままである。放射線被ばくに起因するがんリスクの推定値は過去17年間で大きくは変わっていないが, これに対し, 遺伝性影響の推定リスクは現在では以前よりも低くなっている。新たなデータは, リスクをモデル化し, 損害を評価する上で, より強固な基礎を与えている。

2007年勧告は, 行為と介入というプロセスに基づいた以前のアプローチから, 放射線被ばく状況の特性に基づいたアプローチヘと発展している。放射線防護体系は原則としてあらゆる放射線被ばく状況に適用される。被ばく状況にかかわらず, 防護対策の範囲とレベルを決定するためにも, 同様の手法が用いられる。特に, 正当化と最適化の原則は世界的に適用されている。ICRPは, 最適化により重点を置くことによって, これまで介入として分類されてきたものに対する防護の履行が強化されるかもしれない, という意見である。

委員会の勧告に対して与えられる重要性を考慮して, また, 新勧告が十分にそして適切に各国の問題や懸念に取り組むことを確実にするために, 委員会はこれまでの勧告策定に用いられてきたよりも更にずっと開かれたプロセスを創始した。委員会が, 防護の最適化にあたって, 初めて利害関係者(stakeho1der)の視点や懸念を考慮する必要を表明していることは注目すべきである。

それゆえ, 委員会は政府機関や国際組織から専門家そして非政府組織に至る, 放射線防護に関わる広い範囲の利害関係者からの意見の提供を求めた。勧告案は多くの国際会議あるいは国内の会議において, また放射線防護に関心を持つ国際組織及び各国の組織によって議論された。

これらの組織の多くは新勧告策定プロジェクトをめぐり特別の活動も準備した。したがって, 例えば, 国際放射線防護学会(IRPA)は, 2000年と2004年の大会のために, また委員会が2006年に行った専門家との協議に関連して, 世界中の会員組織による検討の場を設けた。0ECD/NEAは7回の国際ワークショップを組織し, 勧告案原文の詳細な評価を4回行った(2003年, 2004年, 2006年及び2007年)。また欧州委員会は2006年にセミナーを開催し, 勧告の中の科学的な問題点につき討論を行った。国際原子力機関を筆頭とする国連の諸機関は, 国際基本安全基準改訂プロジェクトの主な入力情報としてICRP2007年勧告を用いつつあり, また同様に, 欧州委員会は欧州基本安全基準の改訂にあたっての主な入力情報として, 2007年勧告を用いている。

本勧告は2段階にわたる国際的な意見公募を経て策定された。この透明性と利害関係者の関与というその方針に従うことによって, ICRPはその勧告がより明確に理解され, また, より広く受け容れられることを期待している。この改訂された勧告には, 放射線防護の基本方針について根本的な変更を含まないが, 遭遇する多くの被ばく状況における防護体系の適用をより明確にし, 既に高い水準にある防護基準を改善する上で役立つであろう。

ICRPは, 多くの協議を含む, 長期にわたる, しかしながら有益な熟成の段階の終点に至ったことを喜ばしく思い, この2007年勧告を提出することを誇りに思う。広範囲にわたる意見募集は, はるかに改善された勧告をもたらした。当委員会は, 多くの時間と経験とを提供して我々が勧告を改善するのを支援して下さった数多くの組織, 専門家, そして公衆の個々の構成員に感謝の意を表する。各位の貢献は2007年勧告の将来の成功に極めて重要であった。

ICRP委員長
LARS-EPIK HOLM


参考文献
ICRP, 1959. Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. ICRP Publication 1. Pergamon Press, Oxford, UK
ICRP, 1977. Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. ICRP Publication 26, Ann. ICRP1 (3).
ICRP, 199lb. The 1990 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. ICRP Publication 60, Ann. ICRP21 (1-3).



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