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山下俊一vs近藤誠 被曝「大丈夫の境界はどこか

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長崎大・山下俊一教授の『語録』
AsahiShimbun Weekly AERA '11.6.13 p25~27

山下俊一vs近藤誠 被曝「大丈夫の境界はどこか」




(リード)
「年間100ミリシーベルト以下なら影響はでていない」と説く被曝医療の世界的権威。片や、「放射線に安全な値なし」と訴える著名ながんの専門医。いま、最も心配な問題を、あなたはどう考えるか。じっくり読んで、判断材料にしてほしい。

山下俊一・長峨大学教授
リスク「ゼロ」とは言えないが明らかな影響出てない


山下俊一 長崎大学教授
1952年生まれ。世界保健機関(WHO)緊急被ばく医療協力研究センター長、日本甲状腺学会理事長。長崎の被爆者の治療や研究の経験を生かし、91年からチェルノブイリ原発事故の医療支援を続けている。福島原発の事故後は、福島県知事の要請で放射線健康リスク管理アドバイザーとして現地の被曝医療に従事。住民への説明会は20回を超え、これまで約1万人が参加した。


(100ミリシーベルト以下なら健康への影響はない?)


――「1年間に浴びる放射線量が100ミリシーベルト以下なら健康への影響はない」というのは本当なのですか。

「『影響はない』ということではなく『影響があるか疫学調査で証明されていないのでわからない』ということです」

――その根拠は?

「広島と長崎への原爆投下では数ヵ月間で市民の3人にー人が爆弾被災と急性放射線障害で死亡しました。1950年の国勢調査で把握した12万人の被爆者を対象に追跡調査がいまも放射線影響研究所で続いています。被曝線量は居た場所から正確に推定されています。1回の被爆でがんによる死亡がどれだけ増
えたか。5~200ミリシーベルト被曝した集団でみると2%増えています。しかし、5~125ミリシーベルトだと1.5%増えたと推定できたものの、それ以下の5~100ミリシーベルトでは差がなくなりました」

――統計学的に「100ミリシーベルト以下」は何とも言えない、ということですか。

「発がんリスクをゼロとはみなせませんが、正確に言えるのは『12万人を調べた緒果、100ミリシーベルト以下の被曝だと明らかな影響はでてこなかった』ということです」

危険素因の「スニップ」


――ただ、危険が証明されていないとしても、危険がないということにはなりません。

「その通りです。薬の効きやすい人と、そうでない人がいるように、同じ放射線量を浴びてもがんになりやすい人と、なりにくい人がいます。がんのなりやすさを決める『遺伝子多型スニップ』と呼ばれる発がん素因の存在がわかっています」

――放射線の影響にも感受性があるということですか。

「チェルノブイリ事故のあと、甲状腺がんになった事故当時の乳幼児や子どもの数は6千人になりました。事故直後から放射性ヨウ素に汚染された牛乳や食べ物を摂り続けて内部被曝を受けた当時0~10歳の子どもたちが中心です。大きな都市では規制されましたが、田舎では自宅に牧場や畑を持つ家が多く無防備でした。これまでに15人が死亡しました。同じ地域にいて、甲状腺がんを発症した人としない人の遺伝子を調べた結果、発症した人にはがんを引き起こしやすいスニップを持っている人が多いことがわかりました」

――チェルノブイリは、いまも被曝に苦しんでいるのですか。

「放射性セシウムの半減期は30年。まだ25年なので体への影響を判断するには不十分ですが、周囲にいまなお住む550万人が、放射性セシウムの内部被曝によってがんになりやすくなったということはありません」

――子どもの白血病は他のがんより低い線量でなりやすいとも言われていますが、チェルノブイリで増えてはいないのですか。

「高いというデータはでていません。原爆と原発事故では外部被曝レベルが違うことが大きい。同じ線量を被曝しても、少量ずつよりも一度に浴びた方が影響が大きいことも生物実験などからわかっています。子どもの甲状腺がんも、事故の翌年以降生まれた子どもたちには増加はありません」


心配なら避難を


――住民説明会では、妊娠中の娘を心配する親に「心配なら避難した方がいい。恥じることではない」と言葉をかけています。子どもへの影響は、やはり心配した方がいいのですか。

「放射線がなぜ人体に影響するかというとゲノム(DNA)に傷がつくからです。最近のゲノム研究の結果から、増殖している細胞のゲノムにはふだんから傷ができているが、放射線があたることによって傷の数が増えることがわかりました。ゲノムの傷は自然に修復されますが、より活発に増殖している細胞では傷が残ってしまうこともあります。子どもの場合、新陳代謝が大人より速いため細胞分裂している細胞の数が多く、その緒果、ゲノムについた傷が残ってしまう場合が増えると予想できます。15歳未満の子どもでは致死的ながんのリスクは大人の2~3倍とみられています。ただこれも1OOミリシーベルト以下の線量では健康への影響を示すデータはでていません」

――でも、いくら「健康への影響は考えなくていいレベルだ」と言われても、子どもへの影響を心配しない親はいません。

「母親が感性に走るのは当然です。私は被爆2世なので、本当に放射線の影響がないのだろうかという思いから、ずっとかかわってきました。住民への説明に入ったのも、放射線の影響はわからないことが多いけれど、わかっていることを正確に伝えることが重要だと考えたからです。放射線の専門家は大勢いますが、健康への影響や防護の分野となると別です」

――原発事故直後の説明会では「甲状腺がんにならないように首にタオルを巻いた方がいいのか」といった質問もでていました。

「恐怖感を抑えるには知識が必要なんです。放射線の人体への影響度合いを表す単位として『シーベルト』が使われますが、直接測定できる数値ではないのを知っていますか。平均的なデータから類推した線量です。データに信用性が乏しいと国際機関で認められていない調査などを根拠にし、危険を煽る人がいるのは残念でなりません。無知や誤解は差別を生みます。広島・長崎でどれだけ多くの人が、いわれのない差別に長年苦しみ続けたか。福島を絶対に、そうしてはなりません」

――非常時というのは、ふつうは短期。なのに福島では、あと何年も続きます。

「『子どもへの影響が怖い』と大きな不安を感じる人は避難すべきです。それに乳幼児や子どもへの配慮は、もっとされるべきだと思います。『疎開』やサマースクールなど、教育環境を維持しながら福島から少しでも離れて被曝線量を減らす方法はたくさんある。それを検討すべきだし、提案していきたい」

聞き手 編集部 岡本進


近藤誠・慶応大学講師
「しきい値」なし 低線量でもがんになる


近藤誠 慶応夫医学部放射線科講師
1948年生まれ。乳がんの乳房温存療法に早くから着目し、著書『患者よ、がんと闘うな』で注目を集める。がんの多くは、悪性ではない「がんもどき」と主張し、がん検診の在り方や、がん治療における、抗がん剤の使いすぎ、過剰な手術などについて問題提起を続ける。最近では「抗がん剤は効かない」という主張で、論議を巻き起こした。6月下旬に新著『放射線被ぱく CT検査でがんになる』(亜紀書房)を刊行予定。


(しきい値はない)


政府は「人体に影響が出る可能性が生じるのは100ミリシーベルトで、それ以下は直ちに影響はない」と説明しています。年間20ミリシーベルト以上被曝する恐れがある地域が計画的避難の対象となりました。

しかし、私はこれまでの研究から、何ミリシーベルトだから大丈夫ということは言えないと考えています。被曝量に直線的に比例して発がん率は増えていきます。何ミリシーベルトだから安全という「しきい値」はありません。低線量の被曝でもがんになる人はなります。

10ミリ毎に発がん率増


確かに歴史的にみると、10
0ミリシーベルト以下の放射線の影響が長い間はっきりしなかったのは事実です。以前は200ミリシーベルト以下の発がん性ははっきりしなかった。1990年ぐらいになると、1OOミリシーベルト以上では発がん性があることがわかってきた。

これは、主に広島・長崎の原爆被爆者のデータによるものです。低線量の放射線の場合、それががん細胞になり、発がんするまでには、20年、30年とかかるケースが多いのです。だから低線量の被曝について研究が充実してきたのは、最近です。2003年の広島・長崎についての報告では、何ミリシーベルト以上だけが発がんするという「しきい値」はなく、放射線を浴びた量と発がん率は単純に比例するということを示唆するデータがでてきました。

さらに日本を含む世界15ヵ国の原子力施設の作業従事者40万人を調べた別の調査によると、全体の90%が50ミリシーベルト以下の被曝量だったにもかかわらず、積算線量が10ミリシーベルト増えるごとに、発がん死亡率がO・97%ずつ増加することがわかりました。

なぜ、低線量の被曝でもがんになるのでしょうか。まず、放射線と発がんの関係を考えてみましょう。

放射線は遺伝子を傷つけます。遺伝子の実体はDNAですが、鎖のようになっていて、2本がねじりあって存在しています。

1本が切れても修復できますが、2本切れてしまうと、つながらないことがあります。これが変異遺伝子です。高線量ならもちろん、1ミリシーベルトの低線量の被曝であっても、変異遺伝子が少しずつ、たまっていくことがわかっている。これが一定量になれば、発がんするのです。

学間ではなく決断


私は「発がんバケツ」という説明をしているのですが、体全体をバケツとすると、たばこや農薬、大気汚染でも、変異遺伝子ができます。これがたまって、バケツがあふれると発がんする。たばこは発がん性があるとわかっていて勝手に吸ってますが、原発の近隣は望まないのに放射性物質が降ってきてしまう。

これがどの段階でいわゆる1センチとか10センチの腫瘍になるのかは体質によって、人それぞれです。死亡するかは、がんができた場所にもよります。小さくても、膵臓など極めて致死率が高いがんもある。特に放射線の影響が出やすいのは、白血病(骨髄)、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんとされています。乳がんはこの中でもリスクが高いと考えます。また、若い人は細胞分裂がさかんだから、放射線の影響を受けやすい。小さい子どもほど大きいでしょう。

20ミリシーベルトくらいでは人間の体はびくともしないと言っている学者もいます。これは分子生物学の成果を無視しています、ーミリシーベルト程度の放射線でもDNA鎖が壊されるのは実証されています。ICRP(国際放射線防護委員会)のいう20ミリシーベルトも根拠はありません。その数字は、学問ではなく「決断」なのです。

放射線治療は、こうした放射線の特質を利用して、2千ミリシーベルト相当とか3千ミリシーベルト相当の放射線を局所にあてます。例えば、乳がんは25回やるので、5万ミリシーベルト相当をあてます。そして、10年、20年して、この放射線で発がんすることがあります。実際、私の患者も別のがん治療で亡くなっています。ただ、治療しなければ死んでしまうのであれば、リスクを検討したうえで、放射線を使うのです。

また、被曝量だけいうなら、東京など遠隔地に住んでいる人にとっては、CT検査のほうが何十倍も危険です。法的根拠もないのに80歳の高齢者に20ミリシーベルトを基準に計画避難をさせるというのもおかしい。放射線によるリスクを正しく説明し、情報をきちんと開示したうえで、それぞれの判断にゆだねるのがいいと私は考えます。

聞き手 編集部 三橋麻子


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