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安定ヨウ素剤予防服用の考え方・用語集

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用語集



[ア]行


IAEA SS-109

国際原子力機関( IAEA ) が“ Intervention Criteria in a Nuclear or Radiation Emergency”と題して1994 年に出版したSafety Series の一つである。原子力事故や放射線事故時における緊急時計画と対応、及び介入の基本原則を述べている。 事故時に公衆を防護するための措置として、屋内退避、避難、ヨウ素剤投与、移住、飲食物の摂取制限等に対する考え方とそれらの措置を実施するための介入レベル(線量基準)について詳細に記述している。


ICRP Publ. 30

国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)の主委員会が1978 年7 月に採択し、その後に出版された“Limits for Intakes of Radionuclides by Workers”に関する報告書であり、Part1,2,3 から成る。内部被ばくに関する線量評価モデルとしてコンパートメントモデルを採用しており、呼吸器系、胃腸管、骨に関する線量算定モデルの他、放射性雲中のサブマージョンによる線量算定モデルを示している。また、95 の元素について、その体内動態(代謝、分布、残留等)及び年摂取限度、誘導空気中濃度を示している。なお、これらPart1,2,3 の補遺が別途、出版されている。


ICRP Publ. 56

国際放射線防護委員会(ICRP)の主委員会が1989 年4 月に採択し、その後に“ Age-dependent Doses to Members of the Public from Intake of Radionuclides: Part 1”と題して出版されたものである。公衆の内部被ばくを評価するため、経口摂取による体内動態モデルを見直し、より詳細なモデルを提示している。また、公衆の各年齢群(3 カ月、1 歳、5 歳、10 歳、15 歳、成人)の預託等価線量係数及び預託実効線量係数を示している。このような公衆に対する動態モデルや吸入摂取及び経口摂取による各年齢群毎の線量係数については、その後出版されたPubl.67,69,71,72 にも掲載されている。


ICRP Publ. 60

国際放射線防護委員会(ICRP)の主委員会が1990 年11 月に採択し、その後に出版された“ Recommendations of the International Commission on Radiological Protection, Adopted by the Commission on November 1990”である。国際放射線防護委員会(ICRP) は1950 年の発足以来、基本勧告としてPubl.1(1959) 、Publ.6(1964)、Publ.9(1966)、Publ.26(1978)を出版してきたが、今回の勧告はこれらに代わるものであり、放射線防護の基礎となる基本原則についての指針を示している。内容は、放射線防護に用いられる線量の計測、放射線の生物学的影響、放射線防護の概念的枠組み、被ばくの種類や介入レベルに関する防護の体系等で構成されている。


ICRP Publ. 66

国際放射線防護委員会(ICRP)の主委員会が1993 年9 月に採択し、その後に出版された“Human Respiratory Tract Model for Radiological Protection”である。人の呼吸気道モデルを被ばく評価の観点から詳述したものであり、Publ.30 の呼吸器系モデルに代わるものである。放射性物質の吸入による被ばくを評価するため、呼吸気道を5つの領域に分割して各領域への物質沈着モデルを構築するとともに、クリアランスモデルにより血液への吸収、リンパ組織への移行、胃腸管への移行を示し、線量算定モデルを構築している。また、放射線作業者と公衆(3 カ月、1 歳、5 歳、10歳、15 歳、成人)について、肺機能に関するデータ、呼吸率等のデータを示している。


安定ヨウ素剤

原子力防災資機材の一つであり、甲状腺への放射性ヨウ素の選択的集積を抑制するために服用する。ここでは、原子力災害時に備え準備されている医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水に溶解し、単シロップを適当量添加したものや医薬品ヨウ化カリウムの丸薬を用いる。なお、安定ヨウ素剤の安定とは、放射性に対する用語で、放射性崩壊をしないということを意味している。


疫学調査

病気の発生原因やその対策を推論するために、疾病を集団として調査すること。疫学調査は、患者発見のために各種検査を利用する調査で、この調査によって病気あるいは症例と、考えられる原因との間の因果関係を明らかにし、治療の方法の確立に役立てることができる。疫学調査では、その症例を発見して治療することよりも、その疾患についての有病性、発生年、さらにいくつかの関連要因の推移について調査することを目的とする。放射線被ばく影響調査にもこの手法が応用される。


NCRP Rep No 80

米国放射線防護測定審議会(National Council on Radiation Protection and Measurements:NCRP) が1985 年に“Induction of Thyroid Cancer by Ionizing Radiation”と題して発表された勧告書である。X 線やγ線による外部被ばく及び甲状腺に沈着した放射性物質により誘発される甲状腺ガンのリスクを、リスクモデル、発がんモデル、放射性ヨウ素を用いた治療経験、動物実験データ等を広く集め、詳細に検討したものである。


FDA

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)。薬品の承認等を行う政府付属機関。


[カ]行


回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量

回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量は、防護措置を行わない場合に予測される線量から、防護措置を行った場合の予測される線量を差し引いた線量である。放射線防護措置のリスク・ベネフィットバランスを考慮する場合、回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量により得られる便益と防護措置に伴う損失のバランスを図る必要がある。

放射性ヨウ素の放出に対する防護措置の一つとして、安定ヨウ素剤予防服用がある。放射性ヨウ素の吸入前又は直後に、安定ヨウ素剤を予防的に服用すると、放射性ヨウ素の甲状腺への集積の90%以上を抑制できる。吸入後8時間では、40%を抑制できる。

放射性ヨウ素の吸入による甲状腺等価線量の回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量は、例えば緊急時モニタリングにより求めた大気中の放射性ヨウ素濃度から計算された甲状腺等価線量に、安定ヨウ素剤服用により回避できる上記の90%以上あるいは40%を乗じることにより求めることができる。


確定的影響

個人がある線量(しきい線量)を超えて被ばくした場合に現れる身体的影響であり、低い線量では影響のないことがはっきりしている。しきい線量を超えると線量の増加とともに発生率が増加し、また、影響の程度すなわち重篤度も増加する。さらに高い線量に達すると被ばくしたすべての人に影響が現れる。例えば、皮膚障害、白内障、組織障害、個体死等がある。


核燃料施設

核燃料物質の加工、再処理、使用、廃棄などを行う施設を総称して核燃料施設という。(1) 加工施設とは、核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために、これを物理的又は化学的方法により処理するための施設をいう。
(2) 再処理施設とは、原子炉に燃料として使用した核燃料物質から核燃料物質その他の有用物質を分離するために、使用済燃料を化学的方法により処理するための施設をいう。


核分裂反応

原子核とほかの粒子(例えば原子核、中性子、陽子、光子等)との衝突によって起こる原子核反応(散乱、吸収、分裂等)の一つが核分裂反応である。これは主としてウラン、トリウム、プルトニウムのような重い原子核が同じ程度の質量をもつ2つ以上の原子核に分裂する現象である。1核分裂当たり約200MeV程度のエネルギーが放出されるので原子力として利用される。核分裂のときに2~3個の中性子やγ線、β線を放出することが多い。核分裂しやすい物質は中性子により核分裂反応の連鎖が起こる可能性がある。原子炉における基本的な核反応である。


確率的影響

被ばくにより必ず発生する影響ではなく、被ばく線量が多くなるほど発生する確率が増加するものをいい、がんや遺伝的影響(被ばく者の生殖腺が遺伝的疾患を有し、子孫に影響が現れること)をいう。

これらの影響の起こる確率が線量と比例関係にあり、しきい線量が存在しないと仮定されている影響である。


希ガス

周期表の0族元素ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)の総称である。地表及び大気中に含まれる量が非常に少ないので、このように呼ばれる。いずれも無味無臭、無色で、1原子分子の気体(常温)である。融点、沸点は低い。原子最外殻に非常に安定な電子配置を持つため化学的に極めて不活性で、元素相互または他の元素と化合しにくい。このため不活性ガスとも呼ばれる。


吸収線量

物質によって吸収された電離放射線エネルギーであり、記号Dで表され、微少体積要素(dv)中の物質に吸収されたエネルギー(dE)についてD=dE/dvで定義される

単位質量(kg)の物質に吸収された放射線のエネルギー(J)の単位で表され、この単位にグレイ(Gy)という呼び名が与えられている。従来の単位1rad は、0.01Gy に当たる。

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム
(SPEEDIネットワークシステム)

このシステムは、地形の影響を考慮して、放出源情報、気象情報等を基にして、放射性プルームの移動拡散の状況を計算し、希ガスからの外部被ばくによる線量、ヨウ素の吸入による甲状腺等価線量等をコンピュータの画面上に図示することができる。

このシステムでは、緊急事態が発生したサイトに係る情報(放出核種、放出量等)、各地方公共団体の連続モニタのシステムの気象観測情報、気象庁のアメダス情報等を入力することにより、6時間先までの風向・風速の統計的予測等の処理と、それに基づく放射性プルームの移動拡散の状況を計算する。緊急時には、文部科学省からの指示により計算結果の2次元表示等を行い、原子力災害対策本部等の関係機関においてこれらを活用することができる。


緊急時モニタリング

原子力施設において、放射性物質又は放射線の異常な放出あるいはそのおそれがある場合に、周辺環境の放射性物質又は放射線に関する情報を得るために特別に実施される環境モニタリングを「緊急時モニタリング」といい、原子力災害時に、迅速に行う第 1 段階のモニタリングと周辺環境に対する全般的影響を評価する第 2 段階のモニタリングからなる。


緊急被ばく医療

放射線による被ばくや放射線物質による汚染のために、医療的な処置が必要となった者に対する医療のこと。平成13年6月の原子力安全委員会の報告書「緊急被ばく医療のあり方について」において、被ばく医療の基本理念、緊急被ばく医療体制、医療情報とネットワーク、搬送体制、被ばく医療に係る人材育成等について示されている。


原子力災害対策特別措置法

平成11 年12 月公布。平成11 年9月30 日に発生したウラン加工工場の臨界事故を契機に制定され、原子力災害に対する対策の強化を図ることを目的としている。

臨界事故の反省を踏まえて、初期対応の迅速化、国、地方公共団体及び原子力事業者との連携強化、国の対応機能の強化や原子力事業者の責務の明確化等を柱としている。これにより、原子力災害の予防に関する原子力事業者の責務、原子力緊急事態における内閣総理大臣による原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等、原子力災害に関する事項について特別な措置が講じられることになる。


原子力施設等の防災対策について(防災指針)

原子力施設等の防災活動をより円滑に実施できるよう原子力防災対策の技術的、専門的事項について、原子力安全委員会が、取りまとめたもの。平成12 年5 月には、原子力災害対策特別措置法との整合性を踏まえ改訂された。また、平成13 年3 月には、ICRP1990 年勧告の取入れに伴い改訂された。さらに、平成13 年6 月には、緊急
被ばく医療をより実効性のあるものとするため改訂された。


原子力施設等防災専門部会(防災部会)

原子力安全委員会に設置された専門部会のひとつ。緊急被ばく医療に対する検討の重要性等をも踏まえ、原子力施設等における災害対策に関する課題について、より的確かつ総合的に対応するため、従来の原子力発電所等周辺防災対策専門部会を再編し、平成13 年6 月に設置された。


高カリウム血症

カリウムを含む電解質液などの経静脈的過剰投与、カリウムの排泄障害、あるいはカリウムの細胞外への異常な移動等により生ずる血清カリウム濃度高値の状態。血清カリウム濃度 5.0 mEq/L)を超える状態。


交叉刺激

一つのホルモンは本来、ある固有の組織に特異的な機能変化をもたらすが、ホルモンの種類によっては、ホルモン間やその受容体の間での共通構造をもつために複数の組織の機能変化をもたらすことがあり、これを交叉刺激という。


甲状腺

内分泌腺の一つ。喉頭の前下部、気管の両側に位置し、色調は帯黄赤色を帯び馬蹄鉄状の形をしている。身体の発育及び新陳代謝に関係あるホルモンを分泌する。甲状腺ホルモンの原料がヨウ素であり、このホルモンが欠乏すると、発育障害や粘液水腫を起こし、過剰になると甲状腺機能亢進症を起こす。甲状腺はヨウ素を多く含んでおり、放射性ヨウ素が体内に取り込まれると、他の臓器に比べ選択的に甲状腺に集積する。


甲状腺過形成

甲状腺の大きさが増す状態で通常は甲状腺細胞の複製や肥大に起因する。下垂体から過分泌される甲状腺刺激ホルモンに甲状腺が刺激され、甲状腺腺細胞のホルモン合成が盛んになり、甲状腺が腫大している病態をいう。ヨウ素欠乏時などにみられる。


甲状腺がん

病理学的には、乳頭腺癌、濾胞腺癌、未分化癌、髄様癌に分類される。放射性物質シンチグラムの欠損像や結節の触診、軟X線による石灰沈着像、細胞診等で診断する。


甲状腺機能亢進症

代謝亢進と甲状腺ホルモンの血清レベルの上昇を特徴とする。いくつかの特定の疾患を包括する臨床状態をいう。


甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモン欠乏の特徴的な臨床反応。種々の原因で起こるが、一般的なものは、通常慢性甲状腺炎に続発する自己免疫性疾患である。び慢性あるいは結節性甲状腺腫より外に固い甲状腺腫や、または、後年に疾患が進行して、廃絶した、萎縮し線維化した甲状腺となる場合もある。


甲状腺シンチグラフィー

シンチグラフィーとは、人体などに放射性同位元素(RI)で標識した化合物をトレーサとして投与し、それが集積した臓器や組織の放射能を外部から測定し、その分布を写真黒化の濃淡あるいはカラー画像として表示する検査法である。放射能はシンチレーション計数管又は、ガンマカメラにより測定する。得られた画像をシンチグラムという。甲状腺シンチグラフィーは、甲状腺に選択的に取り込まれる放射性ヨウ素を経口投与し、経時的に頸部を撮像することで甲状腺の機能や形態を調べ、病気の診断を行う。現在はベータ線を放出するヨウ素-131 にかわり、γ線のみのヨウ素-123 が使用されている。


甲状腺濾胞細胞

甲状腺組織で甲状腺ホルモンを合成する上皮細胞である。


甲状腺ホルモン

内分泌腺の一つの甲状腺から分泌されるホルモン。2つのチロシン残基にヨウ素を3又は4個含む化学構造が特徴であり、身体の発育及び新陳代謝に必要なホルモンである。


国際原子力機関(IAEA)

国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)は、国際原子力機関の憲章に定められた(1)世界平和・健康および繁栄のための原子力の貢献の促進増大と(2)軍事転用されないための保障措置の実施という2つの大きな目的に基づいて1957年7 月に設立された。国際原子力機関の組織機構は、総会、理事会、事務局からなっており、1999 年11 月現在の加盟国は、131 か国である。憲章に定められた国際原子力機関の任務は7項目あり、これら任務を果たすため、(1)開発途上国への技術協力、原子力発電の安全対策等、原子力の平和利用を促進するために必要な支援活動を行うとともに、(2)国際原子力機関憲章および核兵器不拡散条約(NPT)に基づき国際原子力機関と関係国とが保障措置協定を締結し、これによって軍事転用されないように保障措置を実施している。


国際放射線防護委員会(ICRP)

専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う国際組織である。この組織の前身は1928 年に作られた国際X 線ラジウム防護委員会(IXRPC)であり、1950 年に現在の名称となった。ICRP が出す勧告は現在も国際原子力機関(IAEA)の安全基準、世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎にされている。ICRP は、主委員会と4つの専門委員会(放射線影響、誘導限度、医療放射線防護、勧告の実務適用)からなる。


[サ]行


再燃

ここでは、一時おさまっていた病巣が、再び悪化することをいう。


しきい線量

線量効果関係(被ばく線量と、それによって引き起こされる生体への影響との関係)において、ある線量以下では影響が生ぜず、その線量を超えて被ばくすると、はじめて影響が発現するとき、その線量を「しきい(閾)線量」(閾線量、Threshold Dose)という。しきい線量の値は、身体の被ばく部位、問題とする影響の種類や被ばくの受け方(1回、短時間;連続、など)によって様々である。

放射線防護のために、被ばく線量を制限する基準の一つとして「線量限度(Dose Limits)」が定められている。この「線量限度」の値は、確定的影響(別掲)に対してはその「しきい線量」以下になるように、また確率的影響(別掲)に対しては、閾値の存在の有無やその値などが現時点では科学的に確認されていないので、「しきい値のない直線線量効果関係」を仮定した上で、影響のリスクが社会的に受け入れられるように十分に低い値に設定されている。


若年者

18歳未満の者を指す。


JCO 事故

平成11 年9月30 日に、(株)ジェー・シー・オー東海事業所のウラン転換試験棟において発生した臨界事故。原因は、本来であれば溶解塔で硝酸と加えて溶解すべきところを、1バッチ(硝酸ウラニル溶液約6.5 L)以下で制限して管理すべき沈殿槽に、7バッチのウラン溶液を注入したことによる。事故現場で作業をしていた3名が重篤な被ばくを受けた他(うち2名が死亡)、住民への避難要請、屋内退避要請が一時行われるなど我が国での原子力事故としては前例のない大事故となった。


ジュ-リング疱疹状皮膚炎

かゆみの強い水疱、丘疹、蕁麻疹様病変の群発で特徴づけられている慢性の皮疹。ヨウ化カリによるパッチテストで皮疹を誘発し診断していたが、現在では、蛍光抗体法で、表皮真皮境界部にIgA の沈着を証明することで診断される。この疾患を有する者は、ヨウ素対し過敏である


生涯リスク

将来に渡って疾病発症に結びつくリスク要因は、日常生活の中でもいろいろ考えられるが、リスク源にさらされることによって、被る害が生涯の間に現れる確率を生涯リスクという。放射線被ばくの場合、被ばくによって発生するがんは、長い潜伏期を経て生涯にわたって現れるため、生涯リスクは放射線被ばくによって一生の間に発生(がんによる障害の発生あるいはがんによって死亡)する確率ということができる。


腎不全(症)

腎臓への循環不全、腎内血管病変、腎実質病変、尿路閉塞などの原因で、腎臓の機能が低下した臨床状態をいう。水分やカリウムや老廃物などの排泄障害により、様々な症状を呈する。


髄様癌

髄様(充実性)癌は散発性(通常一側性)あるいは家族性(両側性が多い)に発症する。染色体10 番目のRet 遺伝子異常に起因することが多い。病理学的には、甲状腺傍濾胞上皮細胞(C 細胞)の増殖がみられる。この細胞は血清カルシウムとリン酸(PO4)の低下作用をもつホルモンであるカルシトニンを過剰分泌するが、血清カルシウムとリン酸(PO4)の濃度を変えるほど高濃度に存在することは稀である。コンゴーレッドに染まる特徴的なアミロイド沈着もある。


生物学的半減期

生体中または特定の組織、器官に存在する特定の物質(放射性核種も含む)の量が、代謝、排泄などの生物学的過程によって初めの量の1/2にまで減少する時間をいう。この減少は、指数関数的またはそれに近い割合で起こる。したがって、放射性核種が摂取された場合の体内又は組織、器官内存在量は、放射性壊変と生物学的過程とにより減少する。

この二つの過程により初めの放射性核種の量が1/2にまで減少する時間を実効半減
期といい、次式で示される。
1/T=1/Tr+1/Tb
ここで、Tは、実効半減期、Trは、物理学的半減期、Tbは、生物学的半減期である。


世界保健機関(WHO)

世界保健機関(WHO)は、1946 年の国際保健会議で採択されたWHO 憲章に基づいて1948 年に国連の専門機関の一つとして設立され、その目的は、世界の全ての人々の健康の保護、増進のため国際保健活動を計画、実施、調整することであり、1998 年現在の加盟国は191 か国である。WHO の原子力分野の国際協力・支援活動としては、世界8 か所のWHO 放射線緊急時対策支援センターの活動と、チェルノブイリ事故の健康影響に関するWHO 国際プログラムとがある。前者では、放射線障害についての指導・訓練・医療措置の実施、大規模事故時の緊急医療対策確立への支援、放射線影響の病理学的または疫学的調査等が行われ、また後者では、チェルノブイリ事故の健康影響についての調査協力の促進、疫学的調査その他の専門的調査による長期の低レベル放射線を含む放射線影響の把握、データベースの開発・充実、得られた知識の放射線緊急時医療対策への活用等が行われている。


腺腫様甲状腺腫

甲状腺の過形成や低形成、嚢脆化など多様な病理学的所見を呈する良性疾患である。病因は不明であるが、一般的に甲状腺機能低下症を伴わない甲状腺の腫大である。初期には、柔らかく、左右対称で、平滑な甲状腺腫の存在に基づいて診断する。後期になると、多発性結節や嚢腫が現れることがある。


先天性筋強直症

先天性筋強直症(トムゼン病)は、稀な常染色体優性筋強直症であり、通常幼児期に発症する。いくつかの家系で、この疾患は骨格筋塩素チャンネル遺伝因子を含む染色体7の領域に結びつけられている。無痛性筋硬直は手、脚、眼瞼で最も顕著で、運動で改善する。脱力は通常ごくわずかである。筋肉が肥大することがある。

診断は通常、特徴的な身体的外観、握ったこぶしがまっすぐに開くことができないこと、直接筋叩打後の筋収縮持続によって決定される。筋強直は筋電図検査で、典型的な「急降下爆撃機」様の音を起こす。


絨毛由来性性腺刺激ホルモン

胎盤絨毛から合成・分泌される性ホルモンで、エストロゲンとプロゲステロンがある。


[タ]行


胎盤
妊娠の際、子宮内にできる円盤状の組織塊をいう。胎児がへその緒を介して物質交換を行うとともに、胎盤ホルモンを分泌して妊娠の維持に重要な役割をする。


チェルノブイリ原子力発電所事故

1986年4月26日、旧ソ連のウクライナ共和国キエフ市北方約130kmのチェルノブイリ原子力発電所4号機(黒鉛減速軽水冷却沸騰水型:RBMK型、1000MWe)で発生した原子炉事故。急速な反応度投入事故の結果として発生した蒸気爆発で炉心の一部が破損し、黒鉛火災が起こり、建物の一部が吹き飛んで大量の放射性物質が環境に放出された。この事故により、消火活動に当たった者のうち、31名の死亡、203人が急性放射線障害で入院し、発電所から半径30km以内の住民13万5000人が避難した。放射性物質は国境を越えて隣接するヨーロッパ諸国にもおよび、広い範囲に放射能汚染を引き起こした。


低補体性血管炎

血管壁に炎症を認め、自己抗体などによる免疫複合体形成により、低補体血症を伴う血管炎を生じる疾患。全身性エリテマトーデスなどの膠原病に多く伴う。低補体性血管炎を有する者で、ヨウ素に過敏であることがある。


デオキシリボ核酸(DNA)

デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid:DNA)は、遺伝子の本体で、デオキシリボースを含む核酸。ウイルスの一部およびすべての生物の細胞中に存在し,真核生物では主に核中にある。アデニン・グアニン・シトシン・チミンの 4 種の塩基を含み,その配列順序に遺伝情報が含まれる。1953 年ワトソンとクリックとが,デオキシリボ核酸の分子モデルとして二重螺旋(らせん)構造を提案し,分子生物学を大きく発展させた。


[ナ]行


乳頭腺癌

乳頭腺癌は甲状腺癌の中で最も多く、全甲状腺がんの80~90%を占めている。女性は男性の2~3 倍羅患しやすい。青年層の羅患頻度が高いが、高齢層ではより悪性である。放射線照射歴のある患者に多く発生し、リンパ行性に転移する。これら分化癌はTSH 依存性のことが多く、乳頭腺癌の多くは濾胞性要素を含んでいる。最近検査の進歩で潜在する微小がんの発見が増加している。


[ハ]行


被ばく

身体が放射線にさらされることをいう。被ばくの形態には、身体の外にある放射性物質やX線発生装置から放射線を受ける「外部被ばく」と放射性物質の付着した食物を食べたり、空気中に存在する放射性物質を呼吸により身体の中に取り込み、それから放出される放射線を身体の内部から受ける「内部被ばく」の2種類がある。外部被ばくは、放射線を受けているときだけに限られるが、内部被ばくは放射性物質が体内に存在するかぎり被ばくが続く。被ばくには、原子力施設で働く人の職業上の被ばく、一般公衆の日常生活での被ばく、すなわち宇宙や大地、食物からの自然放射線、病院での医療、あるいは原子力施設から放出された放射性物質等に由来する人工放射線による被ばくがある。


米国放射線防護審議会(NCRP)

米国議会から公認された非営利法人団体であり、放射線防護と測定に関する勧告、ガイダンスの公表、および情報収集、評価を行っている。NCRPの特徴は、政府機関、産業界、財団等より寄付を受けているが、その報告は、科学的基盤にたった公正なもので、永年の信頼を確立している。


副作用
治療・予防・診断などのために用いた医薬品の本来の効果と異なる作用。人体に有害な作用であることが多い。


物理的多重防護壁

原子力施設の安全性確保の基本的考え方の一つで、原子力施設の安全対策が多段的に構成されていることをいう。原子力施設の基本的設計思想とされている。多重防護は、次の3段階からなっている。第一段階としては、安全確保のための設計の考え方であって、異常の発生を防止するため、安全上余裕のある設計、誤操作や誤動作を防止する設計、自然災害に対処できる設計が採用されている。第二段階としては、事故拡大防止の考え方であって、万一異常が発生しても事故への拡大を防止するため、異常を早く発見できる設計、原子炉を緊急に停止できる設計が採用されている。第三段階としては、放射性物質の放出防止の考え方で、万一事故が発生しても放射性物質の異常な放出を防止するための格納容器やECCS(緊急炉心冷却装置)が備えられている。


防災業務関係者

周辺住民に対する広報・指示伝達、周辺住民の避難誘導、交通整理、放射線モニタリング、医療措置、原子力施設内において災害に発展する事態を防止する措置等の災害応急対策活動を実施する者、及び放射性汚染物の除去等の災害復旧活動を実施する者をいう。


放射性ヨウ素

原子炉施設において、原子力災害が発生した場合には、気体状のクリプトン、キセノン等の希ガスとともに、揮発性の放射性ヨウ素が周辺環境へ放出することが想定される。この場合、放出される放射性ヨウ素のうち周辺環境に影響を与える核種は、ヨウ素-131、ヨウ素-132、ヨウ素-133、ヨウ素-134、ヨウ素-135、である。なお、ヨウ素は、そのかなりのものが液層に残ること及びチャコールフィルタにより除去できることが知られている。

ちなみに、ヨウ素-131、1 mg は、4.6 ×10+12 Bq である。
また、元素状ヨウ素-131 の吸入による小児(1才児)甲状腺等価線量の線量係数(ICRP Publ.71)は、3.2×10-3 mSv/Bq である。


放射線の内部被ばくによる甲状腺がん

チェルノブイリ原子力発電所事故後に多発している放射線の内部被ばくによると考えられる甲状腺がんは、乳幼児をはじめ若年被ばくであり、病理組織学的に乳頭腺癌が多い。一般に、放射線による誘発がんは、自然発生がんの発症を促進すると考えられ、放射線の内部被ばくによる甲状腺がんでもその影響は同じと考えられる。放射線被ばくが原因で、特異的な甲状腺がん発症の性差が生じるとは考えられていない。また、男女間で、甲状腺細胞の放射線感受性が異なるという知見も得られていない。


[マ]行


慢性甲状腺炎

自己免疫因子が原因と考えられるリンパ球浸潤を伴う甲状腺の慢性炎症で女性に多い。慢性リンパ球性甲状腺炎(自己免疫甲状腺炎)ともいう。


未分化癌

未分化癌は甲状腺癌の約3%前後で、主に高齢者にみられ、女性の方が男性よりも若干多い。この腫瘍の特徴は、甲状腺の急速な有痛性の腫大で、約80%の患者が診断後1 年以内に死亡し、最も予後の不良な甲状腺癌である。


[ヤ]行


薬疹

経口及び非経口的薬物投与後の皮膚及び粘膜の皮疹。ほとんどの薬疹の機構は良く知られていないが、多くはアレルギー性しくみによるものである。薬物に特異的な抗体や特異的に感作されたリンパ球が、初回の薬物暴露の後、概ね4~5日間持続する。その後の薬物に対する再暴露は、数分のうちに丘疹となって現れることもある。他の反応には、薬物の蓄積、薬物の薬理学的作用、遺伝的因子との相互作用などがある。


ヨウ化カリウム

ヨウ素の化合物。ヨウ素は、3’,5’-cyclic AMP を介する甲状腺刺激ホルモンの作用を減弱させることにより、体循環への甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、甲状腺機能亢進症状を軽減させる。一方、甲状腺機能低下の場合には、ヨウ素が補給され機能が亢進する。また、ヨウ素は気管支粘膜の分泌促進、粘液の粘度を低下させることにより、去痰作用を現す。さらに、梅毒患者の肉芽組織に対する選択的な作用により、第三期梅毒患者のゴム腫の吸収促進に用いられる。


予防

ここでいう予防とは、安定ヨウ素剤を服用することにより、放射線誘発による甲状腺がんの発生確率を低減させ、がんを積極的に予防することと、放射性ヨウ素の吸入前に安定ヨウ素剤を予防的に服用するという両方の意味で用いている。


[ラ]行


罹患率

病気に新しくかかることを罹患といい、特定の期間中にある集団が新たに病気になった人数を割合として示したもの。


リスク・ベネフィットバランス

ある行為を採用することにより、得られる便益とそれに伴うリスク(危険率)等とを比較し、その行為を採用することが適切か否かを判断する場合の手法として用いられる。


臨界

ウランなどの核分裂性物質は、中性子が当たると核分裂反応を起こし、大きなエネルギーを生み出すとともに、2,3個の新たな中性子を放出する。このため、一定量以上の核分裂性物質がある条件下で集まると、生まれた中性子が核分裂性物質に当り次々と核分裂反応を起こす。これを臨界といい、この核分裂が持続している状態を臨界状態という。


濾胞腺癌

濾胞腺癌は、甲状腺がんの約5~10%を占め、高齢者に比較的多い。乳頭腺癌よりも悪性で、血行性に遠隔転移する場合が多い。男性よりも女性に多い。


出典

(1)ATOMICA(原子力百科事典):(財)高度情報科学技術研究機構 原子力PAデータベースセンター、科学技術振興事業団 受託出版課 2001年
(2)メルクマニュアル 第17版 日本語版:日経BP社、東京、1999年


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