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ヨウ素を含む製剤の服用による副作用

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4.ヨウ素を含む製剤の服用による副作用



4-1 ヨウ素に対する過敏症


ヨウ素過敏症は、ヨウ素に対する特異体質を有する者に起こるアレルギー反応である。服用直後から数時間後に発症する急性反応で、発熱、関節痛、浮腫、蕁麻疹様皮疹が生じ、重篤になるとショックに陥ることがある。

また、ヨウ素を含む造影剤によるアレルギー反応は、造影剤過敏症として知られている。

さらに、低補体性血管炎(Hypocomplementemic Vasculitis)はヨウ素に過敏である場合があり、ジューリング疱疹状皮膚炎(Dermatitis Herpetiformis Duhring)は、ヨウ素に過敏であると考えられている(※35,36)。

ヨウ素に対する過敏症を有する者が、ヨウ素を含む製剤を服用すると、アレルギー反応を引き起こす。

4-2 甲状腺機能異常症


(1) 血中甲状腺ホルモンの濃度の上昇による甲状腺機能亢進症や、その低下による甲状腺機能低下症では、ヨウ素を含む製剤を長期連用すると、それぞれの病状が悪化するおそれがある(※37,38)。

(2) 慢性甲状腺炎を有する者等で、甲状腺機能異常が認められない者が、ヨウ素を含む製剤を長期連用することにより、甲状腺機能亢進症や低下症という甲状腺機能異常症を生じることがある。

  • 甲状腺の過形成、多発結節性の腺腫様甲状腺腫を有する者が、ヨウ素を含む製剤を長期連用すると甲状腺機能亢進症を呈することがある。しかし、この病態は、日常的にヨウ素を過剰摂取している者には稀である。また、慢性甲状腺炎の経過中に一過性に甲状腺機能亢進症を呈する例があるが、これはヨウ素の過剰な摂取の継続によるものとの見解もある。

  • 甲状腺機能が正常な慢性甲状腺炎に対して、ヨウ素を含む製剤を長期連用すると、甲状腺機能低下症に陥ることがある。

  • 新生児にヨウ素を含む製剤を大量服用又は長期連用させると、甲状腺機能低下症を発症させることがある。

  • 妊婦にヨウ素を含む製剤を大量服用又は長期連用させると、胎盤を通して胎児の甲状腺にヨウ素が移行することにより、胎児の甲状腺機能低下症を発症させることがある。特に新生児及び妊娠後期の胎児における甲状腺機能低下症は一過性であっても、その後、知能の発達に影響を及ぼすことがある (※39,40)。

  • 無機ヨウ素の有機化に先天的に異常がある者は、ヨウ素を長期にわたって摂取すると、甲状腺が肥大することがある(海岸性甲状腺腫)。

一方、健康な者が、ヨウ素を含む製剤を大量服用又は長期連用すると、一過性の甲状腺過形成や機能低下を生じることがある(※41)。

4-3 その他の副作用


  • 肺結核を有する者がヨウ素を含む製剤を服用すると、ヨウ素は結核組織に集まりやすく、再燃させるおそれがある
  • 薬疹(ヨウ素にきび)、耳下腺炎(ヨウ素おたふく)、鼻炎等があるが、いずれも極めて稀である
  • 嘔吐、下痢等の胃腸症状が認められることがある
  • カリウムを含む製剤を用いる時は、腎不全症、先天性筋強直症、高カリウム血症を有する者で血清カリウム濃度の上昇による病状の悪化をきたすことがある

4-4 事例に基づく副作用のリスク評価


IAEA SS-109(14)においては、米国での経験をもとに、一日当りヨウ素量300 mg の服用に対する皮膚掻痒、紅斑などの軽症も含めた副作用の発生確率は10-6~10-7と推定している。この中には、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などの副作用が含まれている。ヨウ素予防服用に伴う死亡リスクは3×10-9であると推定されている。

また、チェルノブイリ事故後、甲状腺への放射性ヨウ素の集積を低減するため、ヨウ化カリウムを安定ヨウ素剤として服用したポーランドにおいて得られた経験に基づけば、成人に重篤な副作用が発生する確率は4×10-7、軽度または中程度の副作用が発生する確率は6×10-4である。安定ヨウ素剤を服用した若年者については、重篤な副作用は報告されていない(※42)。同時に、嘔吐・下痢等の胃腸症状等が観察されたが、服用による副作用なのか、または、不安とパニック等の影響なのか、その原因については、明らかにされていない(※42)。

4-5 原子力災害時における安定ヨウ素剤服用による副作用についての考え方


我が国では、従来より、甲状腺機能亢進症治療の手術前に、ヨウ素を含む製剤が使用されてきたが、生命に危険を及ぼす重篤な副作用の報告は殆どない。

また、チェルノブイリ事故時に安定ヨウ素剤の服用を実施したポーランドでは、成人での生命に危険を及ぼす重篤な副作用は極めて低頻度であり、若年者での重篤な副作用は報告されていない(※14,42)。同時に、服用後、頭痛、胃痛、下痢、嘔吐、息切れ、皮膚掻痒などが報告されているが、これらの症状の原因は、安定ヨウ素剤の副作用によるものかは不明である。

安定ヨウ素剤の服用に当たっては、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑制する効果を最大に導き出すとともに、生命に危険を及ぼす重篤な副作用は稀にしか発生しないと推測されているものの、副作用を可能な限り低減する努力が必要である。

このため、
  • 安定ヨウ素剤の服用に係る決定を行う場合には、服用による利益と不利益を十分に考慮すること
  • 安定ヨウ素剤の大量服用又は長期連用では副作用の発生のおそれがあることに配慮すること
  • 安定ヨウ素剤の服用により、生命に危険を及ぼす重篤な副作用のおそれがある者に対しては、安定ヨウ素剤を服用させないよう配慮すること
  • 新生児並びに妊娠後期の胎児については将来的に知能の発達に悪影響を及ぼす可能性があるので、安定ヨウ素剤の大量服用又は長期連用を避けるよう十分に注意すること

等が必要である。

また、安定ヨウ素剤の服用に当たっては、副作用の発生頻度を低減させる方法の一つとして、周辺住民等を対象に副作用についての情報を普段から提供しておくことも重要である。


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