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付録2 初期被ばく医療の放射線測定におけるスクリーニングレベル

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付録2 初期被ばく医療の放射線測定におけるスクリーニングレベル



1.スクリーニングレベル


 初期被ばく医療のフローチャートにおけるスクリーニングレベルは、次の4つの項目からなっています。

      (1)体表面汚染密度:40Bq/cm2
      (2)全身推定線量:100mSv
      (3)鼻腔汚染:1 KBq
      (4)甲状腺131I:3KBq

以下、順に根拠を説明します。

(1)体表面汚染密度:40Bq/cm2について


 呼吸により放射性の131Iを含む放射性プルームからの空気を吸入した場合、その131Iによる甲状腺の線量が0.1Sv(10レム)になるとして、そのような放射能濃度の空気にさらされた(その程度は、“濃度×時間”で表される。)とき、体表面に付着すると予想される放射能の表面汚染密度をスクリーニングレベルとしています。これは、次の考えから導かれています。

 一日当たりの幼児の呼吸率を8×106cm3 (原子力委員会“発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する評価指針”、昭和51年)とし、幼児の甲状腺質量(m)を4グラム(同)とします。幼児が空気中濃度χ(μCi/cm3)の131Iを含む放射性プルームにT時間さらされたとします。このときの吸入摂取量は、(8×106/24) χTμCiとなります。

 ICRP publ.2にしたがって、吸入したヨウ素が甲状腺に達する割合をfa=0.23、有効吸収エネルギーε=0.23MeV、実効半減期Teff=7.6日として、幼児の甲状腺線量D(レム)を計算すると、

    D=8×106/24χT× fa×51.2ε/m×Teff/0.693=2.5×106χ T(レム)

となります。甲状腺線量を10レムとすれば、2.5×106χT=10です。したがって、幼児の甲状腺に10レムの線量を与えることに相当する空気中131濃度の時間積分値は、χT =4×10-6(μCi/cm3 )・hとなります.

 次に、いろいろな表面に対する放射性ヨウ素の沈着速度Vgは、およそ0.1~1cm/sの範囲にあって1)、人の体表面、衣服等についてもこの値を用います。甲状腺線量10レムを被ばくしたときの表面汚染密度のレベル(σ)は、上記のχTとVgとの積で与えられます。言い換えれば

    σ=4×10-6×3600[(μCi/cm3)・S]×Vg(cm/s)
     =1.4×10-3~1.4×40-2μCi/cm2

となります。したがって、小さい方に近い値10-3μCi/cm2すなわち40Bq/cm2をとって体表面汚染密度のスクリーニングレベルとしています。

 なお、ICRP Publ.71によれば、1歳児が131Iを1Bq吸入摂取した場合、甲状腺に3.2×10-6(Sv/Bq)の線量を与えます。また、活動時の呼吸率を0.31×106cm3/hとしています。したがって、甲状腺に0.1Svの線量を与えるχTは、

    (0.31×106)×3.2×10-6χT=0.1

より、χT=0.1(Bq/cm3)・hです。これより、

    σ=0.1×3600[(Bq/cm3)・s]× Vg(cm/s)
     =36~360Bq/cm2

であり、ICRP Publ.2(旧いモデル)に基づいて導出された40Bq/cm2の数字と比べても整合しています。

 汚染拡大防止等管理上の観点からも、40Bq/cm2を体表面汚染密度のスクリーニングレベルとしています。すなわち、β、γ放射線による40Bq/cm2の表面汚染は、職業上の被ばく防護の分野では、管理区域内の人が触れる物の表面の表面汚染密度限度です。また、この1/10のレベルを超えているものは、みだりに管理区域から持ち出してはならないことになっています。しかし、被ばく線量からは、次に記すようにさほど重要ではありません。

 まず、傷のない健常な皮膚からの131Iの経皮吸収がもとになって、体内に取り込まれた131Iが甲状腺に集まり、甲状腺の被ばくを起こすことが考えられます。汚染は、入浴や皮膚の代謝交換によって除かれると考えられます。いま、1歳児の体表面積の1/3が汚染し、その汚染が3日間続いたと仮定します。次のパラメータを用いて甲状腺線量を計算します。

    体表面積(1歳児)4,000cm2(ICRP Publ.23,p.20による)
    単位取り込み量(1Bq)当たりの甲状腺線量(1歳児、Sv)
            3.2×10-6Sv/Bq(ICRP Publ,71)
    経皮吸収2)   0.08%・h-1

 1歳児の体表面積の1/3が40Bq/cm2の表面密度で汚染し、その汚染が3日間続いたとした場合の甲状腺線量は、

    40(Bq/cm2)×4,000(cm2)×(1/3)×0.08×10-2(h-1)×72(h)×3.2
    ×10-6(Sv/Bq)
    =0.01Sv

で比較的小さな線量です。

 次に、40Bq/cm2の表面密度の131Iによる皮膚線量率は、約6×10-5Sv/(7mg/cm2の感受性層の深さの場合)3)ですので、皮膚がこの表面密度で3日間汚染していたとした場合の皮膚線量は、

    6×10-5(Sv/h)×72(h)=0.004Sv

で、確定的影響である一過性紅斑が起きる3~5Svに比べて遥かに小さい線量です。

 しかしながら、はじめにも述べたように被ばくおよび汚染管理上の観点から40Bq/cm2の体表面汚染をスクリーニングレベルとして選んでいます。

(2)全身推定線量:100mSvについて


 ICRP Publ.28“作業者の緊急被ばくと事故被ばくに対処するための諸原則と一般的手順”の(8)項に“体外被ばくによる線量がどれくらいかの推定ができたならばただちに、その異常状態に対処するのに必要な措置のレベルを大まかに決めることができる。もしその体外被ばくが該当する年線量当量限度以上の線量であるがその2倍を超えないと推定されるならば、その措置は主として管理的なものである。その場合、その異常被ばくの状況を調査し、必要ならば何らかの確認のための物理的測定を行うべきである。”と述べられています。また、全身に異常被ばくした作業者の医療処置に関して、(30)項で、“1回の異常被ばくで全身に10ラド以下の吸収線量を受けたと思われる作業者に対しては特別な医療処置は必要とせず主に管理上の措置が必要である(8 項参照)。”と述べています。

 これらのことから、全身の被ばく10ラドを受けたおそれがある全身推定線量100mSvがスクリーニングレベルとして選ばれています(X、γ線については、1ラドは10mSvです。)。

(3)鼻腔汚染:1KBqについて


 経験的に鼻腔汚染の40倍の放射能が吸入による131Iの摂取量になる4)として、それによる甲状腺線量が100mSv(10レム)に対応するように選ばれています。いま、ICRP Publ.71によれば、1歳児の場合1Bq吸入のときの甲状腺線量は3.2×10-6(Sv/Bq) と与えられているので、甲状腺線量0.1Svに対する摂取量は0.1(Sv)/[3.2×10-6(Sv/Bq)]となります。鼻腔汚染は、摂取量の1/40と仮定して、

    0.1(Sv)/[3.2×10-6(Sv/Bq)×40]=0.78KBq

になります。したがって、鼻腔汚染のスクリーニングレベルとしては、これを1桁にまるめて1KBqをとっています。

(4)甲状腺131I:3KBq


 甲状腺等価線量100mSvを与える131Iの甲状腺残留量を3KBqとしたことは、次のような仮定と計算によって導かれます。

 吸入された131Iは、いくらかの時間が経ってから甲状腺に集まるとともに尿中から体外に排出されます。ここでは、吸入後の131Iの人体内における挙動について、ICRP Publ.66に示された呼吸気道モデルおよびICRP Publ.71の体内動態モデルを反映した内部被ばく線量計算コードIDEC(Internal Dose Easy Calculation Code)5)を用いて、ICRPが一般公衆を対象とした線量評価のためのディフォルト値として用意した計算条件に基づいて計算を行いました。

 その結果、スクリーニングレベルである131による甲状腺線量100mSvに相当する吸入摂取量は、 年齢によって異なり、また甲状腺100mSvに相当する131Iを吸入したときの甲状腺中の131I残留量の時間的経過をグラフおよび表で示せば、図4-3および表4-7の通りになります。

 吸入摂取から0.2日(約5時間)経過後に甲状腺計測を実施するとすれば、131Iによる甲状腺線量が最も厳しい値となる1歳児において131Iの甲状腺残留量が3KBqとなることから、甲状腺のスクリーニングレベル0.1Svに対応する頸部甲状腺部位のスクリーニングレベルとして、131の甲状腺残留量3KBqが選ばれています。

吸入からの経過日数
図4-3:甲状腺等価線量が100mSvに相当するヨウ素131を摂取した場合の甲状腺ヨウ素残留量



表4-7:甲状腺等価線量が100mSvに相当するヨウ素131を摂取した場合の甲状腺ヨウ素残留量(Bq)




参考文献

1. Sehmel,G.A.:Particle and Gas Dry Deposition :A Review, Atmospheric Environment,Vol.14,983-1011,Pergamon Press(1980).
2. Harrison,j.:The Fate of Radioiodine applied to Human Skin, Health Physics,9,p. 993(1963).
3. 龍福 廣、中戸喜寄、備後一義、立田初巳、福田整司、南賢太郎:点積分核法によるβ線皮膚線量の評価、JAERIM7354(1977).
4. 日本保健物理学会:内部被ばくに関する個人モニタリングの指針、p.59(1980).
5. 河合勝雄、遠藤章、桑原潤、山口武憲、水下誠一:ICRPの内部被ばく線量評価法に基づく空気中濃度の試算、JAERI-Data/cade 2000-001(2000)



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