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公衆の放射線防護レベル緩和について国際放射線防護委員会ICRPの忠告(3月21日)について

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公衆の放射線防護レベル緩和について国際放射線防護委員会ICRPの忠告(3月21日)について


九州大学教授・副学長
吉岡斉(よしおか・ひとし)

2011年4月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


国際放射線防護委員会ICRPは3月21日、Claire Cousins議長らの名で、およびChristpher Clement科学事務局長の連名で、福島原発震災における放射線防護レベルの緩和に関するコメントを発表した。その骨子は、緊急時の放射線防護の「参考レベル」を20~100mSvとし、また事故終息後の汚染地域からの退去の「参考レベル」を1~20mSvとすることを忠告recommendする、というものである。

 日本の放射線防護関係者の中には、それを支持する者もいると聞く。しかし筆者はそれに賛成しがたい。筆者はICRPによる放射線の危険度(リスクと表現する者もいる)の見積りが過小評価であると思っているが、それについて今回議論する気はない。かりそめにICRPの評価が妥当だとしても、今回の忠告を日本政府が受け入れることは賢明ではないというのが筆者の意見である。

 その理由は、この忠告が暗黙の前提としているのが、局所的な少人数の被曝だという点である。そうした範囲内ではこの忠告は一定の説得力がある。しかるに福島原発震災は、巨大都市を巻き込んだ広域的な被曝をもたらすおそれが濃厚であり、そうした事態に対してICRPの考え方は危険である。

 日本政府は、ICRPの勧告に準拠して、国内の放射線防護基準を定めてきた。具体的には原子力安全委員会の原子力防災指針などに、そうした基準が示されている。そこにおける公衆の線量限度(平常時)は年間1mSvである。ちなみに放射線の危険度に関しては、ある集団が20000mSvを浴びると、その集団でのがん死が1名増加すると見積られている。これは言うまでもなく「直線仮説」に基づいた見積りである。これが正しいとすると、今回の福島原発震災による放射能が首都圏に飛来し、その住民3500万人が1mSvずつ被曝した場合、1750人のガン死者増加がもたらされる。これは相当に大きな数字である。

 他方、緊急時においては、平常時よりもはるかにゆるい基準が、公衆被曝に関して適用される。現行の基準では屋内退避の目安が累積10mSv、避難の目安が累積50mSvとなっている。これを首都圏に適用すると恐るべき結果が出てくる。首都圏の人口は3500万人である。この集団が一様に10mSvを浴びた場合、首都圏でのがん死の増加は17500名となる。50mSvでは87500名となる。このような大量死を容認するような基準の適用は妥当ではない。平常時と同じ年間1mSvを厳守することが望ましいだろう。

 ところがICRPの今回の忠告は、これよりもさらにゆるい20~100mSvという「参考レベル」を推奨している。これは地方の都市・農村を念頭に置いた基準であると考えられる。それをそのまま巨大都市に適用するのは大胆すぎる。同じように、恒久的な移住の基準を年間1~20mSvにしてはどうかというICRPの忠告も適切ではない。

 なお首都圏の基準と、福島第一原発周辺の基準を、ダブルスタンダードにして使い分けるのは、理論的にはありうる方式であるが、現実的には立地地域に犠牲を押しつけるものだという批判を浴びることは必至であり、実施困難である。一律に年間1mSvを適用するしか、取りうる方法は無いかもしれない。


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