15年戦争資料 @wiki

5-2 防護対策

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可
「原子力施設等の防災対策について」原子力安全委員会
第5章 災害応急対策の実施のための指針

5-2 防護対策



放射性物質又は放射線の異常な放出が発生した場合に、心理的負担や経済的負担も考慮しつつ、周辺住民等の被ばくをできるだけ低減するために講ずる措置を防護対策という。

防護対策には、屋内退避、コンクリート屋内退避、避難、安定ヨウ素剤予防服用、食物摂取制限等が考えられるが、ここでは、主な防護対策についての基本的な考え方を示す。防護対策の指標について参考とした資料を、付属資料7(未作成)に示す。

(1) 屋内退避について

屋内退避は、通常の行動に近いこと、その後の対応指示も含めて広報連絡が容易である等の利点があると同時に、建家の有する遮へい効果及び気密性等を考慮すれば防護対策上有効な方法である。特に予測線量が大きくない場合又は防災業務関係者の動員、指示及び周辺住民等の移動の際に、放射性物質が既に放出、拡散していることが予想される場合には、動揺、混乱等をもたらすおそれの高い避難措置よりも優先して考えるべきものである。ただし、屋内退避が長期にわたることが予想される場合には、気密性の低下等を考慮し、避難の実施も検討する必要がある。

(2) コンクリート屋内退避について

コンクリート屋内退避は、コンクリート建家の遮へい効果による外部全身被ばくの低減及び建家の気密性による吸入による内部被ばく等の低減が相当期待できることから、防護対策として重要視されるべきである。コンクリート屋内退避が必要となった場合に混乱を起こすことなく対応できるように、地域防災計画の作成に当たり、具体的対応策を検討しておく必要がある。

(3) 避難について

防護対策の中でも、避難は、放射性物質の大量の放出前に実施することが可能な場合には、被ばくの低減化の効果が最も大きい防護対策である。ただし、詳細な実施計画に従い実施したとしても、心理的な動揺、それによる混乱等のおそれが高く、特に慎重な配慮が必要であることを踏まえ、一般に多数の住民等の避難を考える場合には、対策の結果生ずる影響について実施の際に十分に検討する必要がある。避難による被ばくの低減化が有効であるのは、例えば、放射性物質の大量の放出までに十分な時間的余裕があり、長期間放出が予想され、しかも避難によらなければ相当な被ばくを避け得ない場合である。放射性物質の放出が短時間で終ると予測される場合は、必ずしも避難が最善の方策とは考えられない。

また、原子力施設から直接放出される中性子線及びガンマ線の影響が大きい場合は、放射線量が原子力施設からの距離のほぼ2乗に反比例して減少すること及びその影響を受ける範囲が限定されていることから、避難による混乱を考慮しても、避難は検討されるべき重要な手段である。

防護対策にあって、避難は輸送手段、経路、避難所の確保等種々の要素を考慮した上で、周辺住民等に適切かつ明確な指示を与えて実施すべきものであるので、既に各地方公共団体で取り組まれているとおり、地域の実情を踏まえた避難計画等を策定しておくことが重要である。この際、避難に当たっては自力避難が困難な災害時要援護者に対する配慮も必要である。

(4) 安定ヨウ素剤予防服用について

放射性ヨウ素は、人が吸入又は汚染された飲食物を摂取することにより、身体に取り込まれると、甲状腺に選択的に集積するため、放射線の内部被ばくによる甲状腺がん等の晩発性影響を発生させる可能性がある。この内部被ばくに対して、安定ヨウ素剤を予防的に服用することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を防ぐことができる。この際、安定ヨウ素剤の服用は、甲状腺以外の臓器への内部被ばくや希ガス等による外部被ばくに対して、放射線影響を防護する効果は全くないことに留意する。

この防護対策を実施するに当たっては、放射性物質の放出状況を踏まえ、屋内退避や避難等の防護対策とともに判断する必要があるが、その際、内部被ばくに対する屋内退避の有効性が当該建物の気密性に依存すること(付属資料8(未作成)参照)、及び、建物の気密性による内部被ばく低減効果は時間とともに低下することに留意する必要がある。なお、周辺住民等に対する防護対策としての安定ヨウ素剤の服用については、「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」(平成14年4月原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会)によるものとする。

(5) 飲食物摂取制限について

汚染された飲食物を摂取するまでには時間がかかり、通常、対策までに時間的余裕があると考えられるので、緊急時モニタリングの結果を参照して、摂取制限を決定する。

なお、摂取制限措置を実施する際には、代替飲食物の供給等について対策を講じておく必要がある。

(6) 立入制限措置について

放射性物質又は放射線による無用の被ばくを回避するとともに、周辺住民等の避難、防災業務関係者の活動及び応急対策用資機材等の輸送のために経路の確保等、応急対策の円滑な実施のために、立入制限区域を設定する必要がある。

(7) 防災業務関係者の防護措置

原子力災害の応急対策及び災害復旧に関係する者であって、ある程度の被ばくが予想される防災業務関係者については、直読式個人線量計(ポケット線量計、アラームメータ等)を、また、防災業務に応じて、被ばくを低減するための防護マスクを配布するとともに、安定ヨウ素剤を予防的に服用させる。さらに、輸送手段、連絡手段の確保が必要である。防災業務関係者の安定ヨウ素剤予防服用については「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」(平成14年4月原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会)によるものとする。

防災業務関係者の放射線防護に係る指標は、放射線業務従事者に対する考え方を参考にして、以下のとおりとすることを提案する。また、事故が発生した原子力事業所の放射線業務従事者については、法令に定められている線量限度を適用するものとする。なお、防災業務関係者の放射線防護に係る指標についての参考資料を、付属資料9(未作成)に示す。

  • (イ) 災害応急対策活動及び災害復旧活動を実施する防災業務関係者の被ばく線量は、実効線量で50mSvを上限とする。
  • (ロ) ただし、防災業務関係者のうち、事故現場において緊急作業を実施する者(例えば、当該原子力事業所の放射線業務従事者以外の職員はもとより、国から派遣される専門家、警察関係者、消防関係者、自衛隊員、緊急医療関係者等)が、災害の拡大の防止及び人命救助等緊急かつやむを得ない作業を実施する場合の被ばく線量は、実効線量で100mSvを上限とする。また、作業内容に応じて、必要があれば、眼の水晶体については等価線量で300mSv、皮膚については等価線量で1Svをあわせて上限として用いる。

なお、これらの防災業務関係者の放射線防護に係る指標は上限であり、防災活動に係る被ばく線量をできる限り少なくする努力が必要である。

特に女性については、上記指標にかかわらず、胎児防護の観点から、適切な配慮が必要である。

(8) 各種防護対策の解除

これまで述べてきた各種の防護対策の解除には慎重な配慮を要する。即ち放出源からの放出が終了したとしても影響を受けた区域は汚染されている可能性もあり、汚染物が影響を受けていない区域に搬出されるおそれなどがあるからである。したがって、緊急時モニタリング等による地域の調査等の措置が行われた後、専門家の判断にしたがって各種対策の解除を行うことが重要である。詳細については、「原子力緊急事態の解除を行う旨の公示等に係る技術的助言の基本的考え方について」(平成17年10月原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会)によるものとする。


目安箱バナー