15年戦争資料 @wiki

第三章  防衛力を支える基盤の整備

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可
第二章  防衛力のあり方 目次 第四章  安全保障戦略を支える基盤の整備

新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想
―「平和創造国家」を目指して―

第三章  防衛力を支える基盤の整備



本章は、日本の目指すべき防衛力を支えるために、どのような基盤整備をすべきかについて述べる。安全保障と防衛は国家行政の根本に位置付けられるべき分野であり、それに充当されるべき資源は、国際情勢の判断の下、最も高度な政治決断により、適切な規模を確保すべきである。一方、日本をとりまく少子高齢化等の趨勢からすれば、防衛予算が大きく伸びるとの想定を置いて今後の防衛力を考えることはあまり現実的ではない。むしろ防衛分野に投入される資源に制約があるからこそ、防衛力を支える様々な基盤について、従来の政策の延長で考えることをやめ、中長期的な観点から課題に取り組まなければならない。

本章は、防衛力を支える基盤として、人的、物的、社会的基盤の課題と、今後整備すべき方向を提案する。なお、防衛省では、「防衛省改革に関する防衛大臣指示」に基づき、その改革の検討が開始されたところであり、本章の記述に関わる諸改革が進められることを期待する。

第1節  人的基盤


自衛隊の周辺海・空域の警戒監視、海外展開への所要、事態への即応性といった要求がますます高まるなか、人件費が44~45%を占める防衛関係費全体の抑制もあり、自衛隊の部隊活動を支える燃料、装備品の維持整備費等、いわゆる活動経費が圧迫されている。これは望ましいことではない。しかし、単なる人員削減による人件費の抑制は答えとならない。自衛隊が複合事態に実効的に対処できる態勢を維持するには人的戦力の確保は決定的に重要だからである。人的戦力にはメリハリをつけ、第一線への充当を重視していく必要がある。

防衛力の人的側面の問題については、すでに防衛省で新たな安全保障環境等に対応した人的基盤の拡充の観点から検討され、2007年に報告書がまとめられている。そこでは人的基盤に関する主要な問題に関し、「任期制」か「非任期制」かについては「非任期制」中心、大学卒や部内選抜により昇任する幹部を中心にして曹から昇任する初級幹部を抑制、幹部自衛官を対象とした早期退職制度の導入、幹部と曹士の二本立ての俸給表の導入を基本方針としている。防衛省は、それぞれの課題について現在の状況を踏まえた再検討を含めて早期に具体的な制度設計を行い、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤の整備に着手すべきである。なお、制度設計にあたっては、非任期制の割合、早期退職制度の対象など、複数の選択肢についてシミュレーションを行い比較するなど十分な評価に基づくこと、陸・海・空の人的戦力の構成、特性に合わせて、必要な人材を確保すること、隊員のインセンティブを高める工夫をすることが必要である。その際、以下の諸点については、特に注意する必要がある。

第一は自衛隊の階級・年齢構成のバランスである。米国、英国等の軍隊と比較して、自衛隊では、自衛官の定年延長、高年齢の曹の幹部登用などの結果、現場指揮官クラスの尉官を含む幹部の平均年齢が高くなっており、自衛官全体で見ても高齢化が進んでいる。複合事態にシームレスに対処する上で、自衛隊は、精強性(そのためには若く体力のある隊員が必要)と技術、熟練、専門性(たとえば、サイバー防衛等)をうまくバランスさせた人的基盤を整備しなければならない。そうした制度設計においては、自衛官のこのような特性を適切に評価しつつ、早期退職制度等の活用により、適切な階級・年齢構成を実現することが重要である。また、早期退職制度の導入に際しては、早期退職を迫られる隊員が安心して職務に専念できるよう、地方自治体、民間の防災関係業務等、自衛官としての知識や経験を活かすことのできる再就職先の確保について、政府として特段の配慮を行う必要がある。

第二は民間活力の有効活用である。ますます複雑化する安全保障環境のなか、自衛隊のみで国の防衛を全うできるものではない。職務に危険が伴うなど特殊性が高い一方で給与水準の比較的高い自衛官は、自衛官にしかできない仕事、任務にあたるべきであり、人事・会計・施設管理等の管理業務、装備の維持整備等については、経費効率を考えつつ民間活力の有効利用をさらに進める必要がある。民間活用に当たっては、若年の自衛官退職者の技能を活かせるよう、公平かつ透明な再就職制度を設けることが必要である。また、この関連で、必ずしも自衛官でなくともできる仕事については、自衛官に準ずる身分を新設し、現役自衛官をこれに移し、事務官・技官に準じた処遇をする等、人材を効率的かつ安定的に活用することも考えられる。

第三に、自衛官の採用にあたっては、少子高齢化時代における若手人材の有効活用の観点から、景気の動向にできるだけ左右されないよう、資格や学歴取得等、適切な採用、退職援護施策の充実を検討する必要がある。また、募集・援護業務について、たとえば、任期制士などを経て警察・消防・海上保安官・その他公務員へと転身するための支援を充実させるなど、国としての取り組みが求められる。

なお、定年退職、早期退職を問わず、崇高な宣誓の下、国の防衛に従事した自衛官に対しては、国として、相応の栄誉をもって報いるべきである。こうした観点から、退官後の制服着用や呼称、叙勲等のあり方についても、政府として真剣に検討すべきである。


第2節 物的基盤


日本国内に有力な防衛産業が存在し、日本の防衛生産と防衛技術を支えていることは、日本の防衛力を維持・発展させる上で欠かすことのできない物的基盤である。

防衛装備品は、高性能化の進展と開発コストの上昇、さらに日本の場合には市場が国内に限定されていることから、一般に、高価格となる傾向にある。厳しい財政状況下、高コストが調達数量の減少を招き、それが単価増を招く、そういう負のスパイラルに日本の防衛の物的基盤が陥ることは望ましくない。こういうリスクを見据え、日本としては、国内の防衛生産・技術基盤を健全に維持するため、その方策を検討していかなければならない。

[1]防衛産業・技術戦略の確立

防衛装備品の調達は、過去、装備品を可能な限り国産化することと、国内における確実な供給・運用支援基盤を維持することに重点を置いて行われてきたが、このことが防衛産業の高コスト体質の温存を許してきたと言えないこともない。また、防衛関係費が頭打ちで推移する中、将来展望が描けずに防衛生産から撤退する企業も増えつつある。

日本の防衛生産・技術基盤をめぐる行き詰まりを打破するためには、従来の発想を捨て、国内で維持すべき生産・技術分野について官民が共通の認識を持った上で、歩調を合わせて重点投資を行う、選択と集中が必要となる。

そのため政府は「防衛産業・技術戦略」を示さなければならない。その目的は、日本の安全保障上、外国にゆだねるべきでない分野を特定し、重点投資分野を明確化することである。同戦略に基づき、国内防衛産業は、長期的な視点で投資、研究開発、人材育成に努めることができるようになる。同時に、同戦略は、民需の分野で発達した技術の成果を取り入れる民需からのスピンオンの可能性等にも目配りした効率的な防衛力整備に資するものとなるべきである。

また、同戦略の前提として、選択と集中にあたり、国産か輸入かという二者択一ではなく、国際共同開発・共同生産という第三の道を選択肢に加える必要がある。この点については、次項[2]で詳述する。さらに、国内防衛産業は国際的競争にさらされてこなかったため、どの防衛技術に日本の優位性があるのかが現状でははっきりしないという課題にも取り組む必要がある。日本の防衛技術と民生技術を合わせたトータルな技術力を総点検する、いわば「棚卸し」作業として、長期的視点から「将来の技術マップ」を作成する必要がある。

[2]国際共同開発・共同生産の活用

日本ではこれまで、ごく一部の例外を除き、防衛装備品の調達については、国産か輸入か、どちらかの選択肢しかなかった。その一方、防衛産業をめぐる世界的潮流に目を転じれば、諸外国においては防衛産業の再編と巨大化が進み、装備品の国際共同開発・生産も一般的となっている。

しかし、日本は、武器輸出三原則等に基づく事実上の武器禁輸政策によって、国内防衛産業としてもこうした流れに乗ることができず、実際、日本は、米国以外の友好国との国際共同開発・生産、あるいは国と国の間の国際共同開発に至る前の民間レベルの先行的な共同技術開発等への参画すら検討できないでいる。そのため、国内防衛産業は、最先端技術にアクセスできず、国際的な技術革新の流れから取り残されるリスクにさらされている※12。

日本はこれまで日米の共同開発・共同生産等を武器輸出三原則等の例外として認めてきた。しかし、日本の安全保障における防衛生産・技術基盤の重要性に鑑みれば、武器輸出三原則等の下での武器禁輸政策については、見直すことが必要である。共同開発・共同生産の活用を進めれば、先端技術へのアクセス、装備品の開発コスト低減等のメリットがある。また、共同開発・共同生産は、日米同盟の深化、米国以外の国々との安全保障協力関係の深化にもつながる。科学技術分野の進歩には極めてめざましいものがあり、仮に日本が現在、優位性を持つ技術領域であっても、時機を逸すれば、世界的な技術革新の波に乗り遅れ、取り返しのつかないことになりかねない。共同開発・共同生産についての見直しの決断は、できるだけ早く行われることが望ましい※13。

国際共同開発・共同生産に踏み込むことは、日本の技術が入った装備品が他国でも使われる可能性があることを意味する。それは、単に共同開発のパートナーをどのように選ぶかだけではなく、第三国への移転をどう認めるかという問題に関わる。日本はこれまで、武器の移転は全面的に禁止するという姿勢で臨んできており、どの国に対して武器の移転を容認するかを考えないできた。武器禁輸政策の見直しに当たっては、本政策の見直しが国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう、慎重にデザインすることが求められる。そこで重要なことは、移転された武器の厳格な管理をはじめ、いかなる要件を満たす国に武器の移転を認めるかである。そうした要件としては、価値の共有、軍備管理・軍縮の推進等が考えられる※14。

なお付言するならば、米国以外の国々との共同開発・共同生産を進める場合には、相互に機密性の高い情報をやりとりする可能性があるため、それらの国々との間で相互の秘密保護のあり方などについても早急に検討する必要がある。

※12  日本が国際共同開発・共同生産に参画する場合、最先端技術へのアクセスなどのメリットが期待できる一方、国産を断念することによるシステム・インテグレーション技術の保持困難などのデメリットも生じ得る。しかし、国際共同開発・共同生産を選択肢として考慮できない現状では、ライセンス国産を含む国産との比較でどちらがよいかを事案毎に検証することさえできない。

※13  このほか、日本が外国から輸入品を購入する場合に、その購入の見返りとして、日本製構成品の採用を求めるといった形態のオフセット取引についても、従来は、武器禁輸政策の下、最終的に自衛隊が調達する装備品も含め、実行されてこなかった。また、他のライセンス供与国からの求めに応じて、日本で製造したライセンス品をライセンス供与国に輸出することなども同様に行われてこなかった。こうした不合理な点も改善が必要である。

※14  弾道ミサイル防衛(BMD)関連の日米共同生産に係る第三国移転問題は、武器輸出三原則等の問題ではないものの、どの国に武器を移転してもよいかということを決めなければならないという点で、同じ性質の問題である。これはBMD関連の日米共同開発が生産段階に移行するよりも先に、早期に決断しなければならない問題である。


[3]装備品取得改革の推進

国内の防衛生産・技術基盤の維持を図る上で、装備品の唯一の顧客である防衛省が「賢い消費者」として振る舞い、開発・生産や維持整備を担う各企業と共存する関係を築くことは極めて大きな意味を持つ。

防衛省が、先進技術を活かした装備を、コストを抑制しながら取得し、維持整備していくため、省内で進めている総合取得改革を引き続き推進すべきであり、装備品の構想から廃棄に至るまでのライフサイクルを通じたコスト管理を進めていく必要がある。また、その際には、企業側にコスト抑制させるインセンティブを与えることも重要である。

装備品の構想から開発、調達までの過程では、統合プロジェクトチーム(IPT)※15の設置により、要求性能のみに固執するのではなく、費用対効果の観点等からの適切性といった様々な見地からの一体的な検討を推進することが有効である。

装備品の調達に際しては、企業側にもメリットのある一括契約などの取り組みをさらに進めるべきである。防衛装備品に関しては基本的に最長5年間の国庫債務負担行為によって調達されているが、調達の優先順位が高く、かつ、長期の一括契約によって大幅なコスト抑制効果が期待されるような装備品については、5年を超える国庫債務負担行為も含めた契約のあり方を検討すべきである。ただし、その検討に際しては、防衛予算の硬直化をもたらす恐れ、技術革新が生じた場合にかえって非効率となる恐れなど、財政規律の視点から問題がないかについても慎重な考慮が必要である。

また、装備品の維持整備に関しては、今後の防衛力整備の方向性として重視すべき、装備品の高い運用水準を実現するとともに、維持コストの抑制を図らなければならない。維持整備に携わる企業との契約形態を改め、維持整備の作業量に応じて対価を付与するのではなく、運用のパフォーマンスの達成に対して対価を付与する形態(PBL:Performance Based Logistics)の方法を導入することも積極的に検討すべきである。

※15  防衛省で検討されている統合プロジェクトチーム(IPT)とは、装備品の要求性能とコストのトレードオフの徹底を図るために、装備品の構想段階から設置される、防衛省の内部部局、幕僚監部、装備施設本部、技術研究本部の関係部署で構成する組織横断的な会議体を指す。


第3節  社会的基盤


自衛隊や日米同盟は、国民一般の支持と、防衛施設所在地域の住民の理解や支援なしには有効に機能しえない。このため、防衛力を支える社会的基盤として、国民の支持拡大、防衛施設所在地域との協力が非常に重要となる。

[1]国民の支持拡大

自衛隊は有事の際に日本を防衛する組織であり、この点について国民からの理解は得られていると思われる。ただし、国民の間で安全保障に関する議論が深まりを見せているとまでは言えない。政府は正確な情報、適切な説明を提供する責任があるのはもちろんだが、有事法制を整備した時のように、基本的な安全保障政策において、野党を含めより多くの国民の意見を一致に近づけるよう努めなければならない。重要なのは、国民とのねばり強い対話を通じてコンセンサスを作り上げる、絶え間ない努力である。

また、長年にわたって国内外での災害救援・人道支援活動、PKO等が実績を上げてきたことにより、自衛隊に対する国民の支持は高まっている。他方で、有事の際には国民の協力や負担が必要となることもまた否定しえない事実である。特に、広い意味での国民保護の観点での政府の施策は、整備されて日が浅く、実績も少ないことから、国民の理解・支持が定着しているとは言い難く、政府としても広報の強化が必要である。

緊急事態において、国民に対する迅速な情報提供は必須であるが、台風情報や地震速報と同様にミサイル警報等も試行錯誤を経ながら定着しつつある。特に緊急性の高い情報の迅速かつ信頼性の高い伝達のあり方を、IT技術の進展も踏まえながら、今後も不断に検討していく必要がある。

[2]防衛施設所在地域との協力

平時において、自衛隊の部隊は、隊員の採用・再就職、隊員家族への支援などについて、基地・駐屯地所在地域との関係に多くを依存しており、地域からの協力が得られなければ、部隊の存立そのものが危うくなると言っても過言ではない。そのような意味で、地域住民との関係は、防衛力を支える重要な社会的基盤となっている。

全国の自衛隊の部隊は、訓練場所の確保を含めた防衛上の考慮から適切に配置されるべきものであり、その観点からの配置の見直しは不断に行う必要がある。一方で、過疎地域に置かれた自衛隊の基地・駐屯地の存在は、各種災害への対応等、地域住民の安心・安全の要となっているし、地方の高齢化が進む中、若者を地方に再配分するという機能も果たしている。そうした地域住民の期待に応えることの意義は看過されるべきではないだろう。なお、部隊の配置がいかなるものであろうとも、部隊が任務を果たすためには、事態に即して部隊を集中するための機動性とそれを担保する輸送力の充実を必要とすることも忘れてはならない。

反面、防衛施設の存在は、施設が所在する地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、歴史的経緯に起因する過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組んでいく必要がある。

また、これに関連して、日米による防衛施設の共同使用化を進めていくことの重要性を指摘することができる。施設の日米共同使用により、自衛隊と米軍の関係強化を図ることができるのはもちろんだが、さらに米軍と地域住民の間に自衛隊が介在するような関係を構築すれば、両者の文化の相違(日米の文化の違い、軍人と一般市民の文化の違い)をより適切に調整できるようになることが期待できる。地域住民にとって目に見える負担軽減策として、日米両政府が共同使用の問題に積極的に取り組むべきことを提言したい。


第二章  防衛力のあり方 目次 第四章  安全保障戦略を支える基盤の整備

目安箱バナー