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第3節  戦略と手段

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第一章  安全保障戦略 目次 第二章  防衛力のあり方

新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想
―「平和創造国家」を目指して―

第一章  安全保障戦略(続)

第3節  戦略と手段




本節では、前節に概観した国際安全保障環境の分析を踏まえ、日本の安全保障目標を実現するための戦略および手段を検討する。

(1)日本の特性と「平和創造国家」としてのアイデンティティ

[1]自然環境および地理的特性
日本は南北に細長い列島で、長大な海岸線と多くの島嶼を有し、国土は狭く山が多く、国土の縦深性に乏しい。つまり、日本は軍事的に防衛しにくい地理的特性を持っている。また、日本は狭い国土に1億3,000万近い人口を抱える国であり、しかも人口の大部分は狭小な平野部に集中している。都市の生活は高度にシステム化されたライフ・ライン、情報通信等のインフラに依存している。さらに、日本は、地震、台風など自然災害の多い国であり、大規模テロ、感染症の爆発的流行(パンデミック)などにも脆弱である。

[2]経済力・防衛力の特性
日本の経済は、戦後、自由貿易体制の下で驚異的発展を遂げた。しかし、冷戦終結後、その経済力は、新興国の台頭などによって、相対的に低下する趨勢にある。また、少子高齢化も急速に進んでおり、防衛力に多くの資源を投入することはこれからも難しい。さらに、日本は、エネルギー、食糧等、多くの資源を海外に依存しており、これに起因する脆弱性はこれからも継続する。

日本は、第二次世界大戦における敗戦の経験から、戦後一貫して、抑制的防衛政策をとってきた。日本は平和憲法に基づき、他国の脅威にならない専守防衛政策をとり、国民もこれを基本的に支持してきた。また、日米安保体制の下、主として自衛隊が対外的な拒否的抑止力の機能を担い、懲罰的な抑止力については基本的に米軍に依存するという役割分担を維持してきた。さらに日本は、他の先進国には例を見ない事実上の武器禁輸政策を維持し、憲法解釈上、集団的自衛権は行使できないものとして、その安全保障政策、防衛政策を立案、実施してきた。ただし、こうした政策は、日本自身の選択によって変えることができる。

[3]歴史的制約要因の特性
戦後の日本は、協調的外交政策、あるいは政府開発援助(ODA)のような国際協力を通じて国際社会から高い評価を得てきた。これは、日本がグローバルな安全保障環境を改善するため主導的立場をとる上で、有利な条件である。しかし、ODAは近年、減少する傾向にあり、国際社会の高い評価が維持されるかどうかは、今後の日本の選択にかかっている。

一方、アジアの近隣諸国、特に中国、韓国とは、戦争や植民地支配の記憶についての「歴史問題」が継続している。これに起因する近隣諸国の警戒心が、特に安全保障に関する積極的な協力関係を構築する上で、一定の障碍となっていることは否定できない。「歴史問題」について、日中・日韓の歴史共同研究のような努力もなされているが、将来的な行方は、日本自身が過去とどう向き合うかに加え、相手国がどのように日本との関係を構築しようとするかにも依存するため、変化の振れ幅は大きい。

[4]「平和創造国家」としてのアイデンティティ
上に見たような日本の特性を考えれば、日本の外交・安全保障政策が基づくべきアイデンティティとは、国際社会に存在する様々な脅威やリスクを低減するために行動することによって、日本が国際社会における存在価値を高め、同盟、協調関係、さらにはもっと広く外交力を強化することによって、日本自身の防衛力と相まって、自国の安全保障目標を実現しようとする「平和創造国家」と表現することができるだろう。それは、世界の平和と安定に貢献することが、日本の安全と平和を達成する道である、との考えを基礎とし、国際紛争への政治的関与を最低限に抑制しようとした冷戦期の受動的な姿勢とは異なって、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。冷戦終結後の日本は漸進的にこうした方向に進んできたが、そうした変革は十分ではなかった。日本は、平和創造国家としてのアイデンティティに則って、持てる資源や手段を最も効果的に利用すべきである。

(2)日本自身の取り組み

[1]安全保障に関わる外交政策
今日、一国の安全保障の手段としては、政府による外交および軍事力といった伝統的な要素に加えて、経済力、文化的感化力といった要素が重要性を増し、それに伴って政府だけでなく非政府的主体の役割が拡大し、外交や軍事力も伝統的な形態、役割だけでなく、非伝統的な形態としてパブリック外交※4や非戦闘的機能も重視されるようになっている。さらに、外交・安全保障政策の場も、一国で行われる政策や二国間関係を基調としたものに加え、多国間関係、国際機関等での規範の形成や実行といった多層的、重層的な形態のものが顕著になっている。

今日のグローバル化と国際政治の緊密化を踏まえれば、いかなる国も自国のみによってその安全保障目標を実現することは困難であり、同盟、友好関係の促進、国際環境の全般的な改善策などを講じることが不可欠となっている。しかし、そのためには、自国がその安全のためにいかなる努力をし、どのような責任を負っているかを示すことが前提である。多様化する外交手段を適切に組み合わせ、最大の効果を得るためには、政府が高いレベルで安全保障戦略を検討し、定義する体制を整えることが肝要である。これについては第四章で詳述する。

※4  パブリック外交とは、政府対政府で行われる伝統的な外交とは異なり、働きかけの対象が相手国の一般国民である場合の外交を指す。世論や国民感情が外交関係に及ぼす影響が増大していることから、近年重視される傾向にある。


[2]防衛力整備
日本の安全保障目標の実現のため、日本独自で行うべき取り組みとして重要なのは、日本自身の防衛力を整備し、抑止力を発揮することである。米国の抑止力に一定程度依存していることは、日本の通常戦力による防衛努力を減じてもよいということを意味しない。それどころか、核兵器の役割を縮小させようとしている米国の核戦略の動向も踏まえれば、通常戦力の分野における日本独自の取り組みは重要性を増している。

防衛力のあり方の詳細については第二章において検討するが、概括的に言えば、冷戦終結後、各国の軍事力における非戦闘的役割は多様化しつつ増大し、信頼醸成、平和活動、災害対応など外交的、民生的役割が加わった。また、先進国を中心に、軍事力は同盟、友好関係を確認、増進する基幹的手段ともなった。日本の防衛力もこうした非戦闘的、非伝統的な役割を徐々に担うようになってきた。しかし、平和創造国家を目指す上では、この面で防衛力をさらに積極的に活用することが不可欠である。そのため、冷戦下において米国の核抑止力に依存しつつ日本に対する限定的な侵略を拒否する役割に特化した「基盤的防衛力」概念がもはや有効でないことを確認し、冷戦期から残されてきた時代に適さない慣行を見直すことが必要である。

[3]安全保障に関する省庁間連携と官民協力
日本一国の努力においても、防衛力のみでは十分ではなく、他の諸手段との連携、すなわち、政府内の各省庁の連携と、官民の間の協力が極めて重要である。現在の世界において、安全保障上の課題の大半は、外交・防衛以外の分野の動員なくして解決は困難であり、防衛力と警察や海上保安庁の警察力あるいは経済的な力とを組み合わせて取り組んでいかなければならない。

政府全体としては、安全保障と危機管理に関する情報力を引き続き強化すべきである。また、領海内における不法行為、大規模災害、重大事故などの危機管理事案のための態勢整備を引き続き図る必要がある。

ODAについては、予算額が過去13年間で半減するなど、日本の国際社会におけるプレゼンスは後退している。民間・政府関係機関の資金の活用も重要な課題であるが、ODAの役割はまだ大きく、厳しい財政事情の中でも一定の水準を確保し、メリハリをつけた上で、関係省庁一体となって効果的活用を図ることが肝要である。また、人間の安全保障の観点から、テロや海賊が生まれる社会・経済的な原因にも着目し、その状況を軽減するための戦略的なODAの活用を検討し、推進することが必要である。人間の安全保障に関する課題には、非政府組織(NGO)、民間企業による支援などを含め、官民が緊密に連携をとりながら取り組むことが求められる。その際、医療や教育など日本が重視してきた分野での援助を続けるとともに、場合によっては現地社会の治安・秩序維持能力を強化するために、軍隊・警察・司法等の治安部門の能力向上に対する取り組みも視野に入れるべきである。

(3)同盟国との協力

[1]共通の価値と戦略的利害の一致
日米同盟関係は、日本の安全保障にとって戦略的意義を持つだけでなく、広く地域と世界の平和と安定の柱ともなっており、また自由民主主義、法の支配、人権といった価値を共有する国同士の同盟として、日本外交の大きな支えとなっている※5。こうした事情を考えれば、日本として、今まで以上に主体的に、日本の安全と世界の平和のために取り組むことが重要であり、それが中長期的に米国との協力を強化し、日本単独では解決・対処できない問題について米国の支援を得る前提ともなる。

日米両国は、2005年2月の日米安全保障協議委員会(2+2)合意で、共通戦略目標を設定して以降、その実現に向けて努力を積み重ねてきた。日本は今後とも米国と不断に協議し、共通戦略目標達成のための役割と能力の実現に努めるべきである。

これまで日本は、開放的な国際経済システムや米国が支えてきたグローバル・コモンズ、たとえば海上・航空輸送路の安全から極めて大きな利益を享受してきた。これらの国際公共財が劣化することは、日本の安全と繁栄を著しく害することとなる。日本は、こうした観点からグローバル・コモンズの安全確保について米国を補完していく必要があり、長年にわたり日本周辺海・空域において行ってきた常続的監視といった役割はこれからもますます重要となる。

※5  日米安保体制とは、一般に日米安保条約およびその関連取り決め並びにこれらに基づく協力の実態を総称するものである。これに対し、日米同盟とは、一般に、日米安保体制を基盤として、日米両国がその基本的な価値並びに利益をともにする国として、安全保障面をはじめ政治および経済等の各分野で緊密に協調、協力していく関係を総称している。


[2]米国による拡大抑止
米国は、同盟国である日本に対して拡大抑止を提供している。それは通常戦力と核戦力の双方においてである。米国の日本に対する拡大抑止、特に核戦力による拡大抑止は、日本の安全のみならず地域全体の安定を維持するためにも重要である。それは究極的な目標である核兵器廃絶の理念と必ずしも矛盾しない。米国の拡大抑止のコミットメントについて、その実効性を保証するため、米国任せにはせず、日米間で緊密な協議を行う必要がある。

なお、「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則に関して、当面、日本の安全のためにこれを改めなければならないという情勢にはない。しかし、本来、日本の安全保障にとって最も大切なことは核兵器保有国に核兵器を「使わせないこと」であり、一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない。

日米同盟を通じた日本の安全保障の確保にとって、在日米軍の安定的な駐留は不可欠であり、日本による駐留経費の適切な負担は、これを支援する役割を果たすものである。また、沖縄に米軍基地が集中している現状は、日本国内の基地負担のあり方としてはバランスを欠いており、その負担の軽減努力を継続しなければならないものの、沖縄の地理的・戦略的な重要性に鑑みて、総合的に判断されるべき性質を持っている。

(4)多層的な安全保障協力

紛争の火種を早めに消すため大切なことは、主要国間の協調的な秩序の構築である。日本は、多層的な安全保障協力を通じて、グローバルな予防的関与や、国際公共財の強化、アジア太平洋地域における安定の確保、国際システムの維持に努めるべきである。

[1]パートナー国との協力
日本は、米国の同盟国を中心に韓国、オーストラリアといった域内の「志を共にする国」(like-minded countries)を安全保障協力のパートナー国として、協力を進めるべきである。米国の同盟国とは、安全保障面のみならず政治や経済の面でも利害や価値観を共有しやすく、また装備や運用面でも協力のための基礎的なプラットフォームを共有している。今後、第三章で言及する装備の共同開発なども含め、こうした協力を米国の同盟国に拡げていくことで、日本の安全保障上のパートナーを増やしていくことが必要である。

米国の同盟国・友好国あるいはパートナー国間のネットワークの強化も検討されるべきである。こうしたネットワークは米国のコミットメントを引き続き確保し、同盟国間の安全保障協力を促進する。北東アジアには、日米、米韓という二つの強固な同盟があるが、北朝鮮の核開発や挑発行為への対応を考えれば、日韓安全保障関係を強めることが日米韓のネットワークの強化の観点から望ましいし、また、日米韓以外に協力国を拡大することも検討してよい。

さらに、海上交通の確保の観点から、日本のシーレーンと関わりの深い米国の同盟国・パートナー国との協力関係を深めていくことや、域内にとどまらず、北大西洋条約機構(NATO)や欧州諸国とも協力や交流を積極的に進め、安全保障上の課題に共同して取り組んでいくことも必要である。

新興国であるインドとの安全保障上の協力も強化する必要がある。インドは日本と多くの価値を共有する重要なパートナー国である。またインドはインド洋において中東から日本に至るシーレーンに大きな影響力を及ぼす地域大国でもある。日本はインドと潜在的に多くの戦略的利益を共有している。核不拡散および軍縮についても、インドとの協力を通じて積極的に推進すべきである。

[2]地域の安定化にとって重要な新興国への関与
中国、ロシアのような、地域の安定にとって重要な新興国への関与を強化し、国際システムの維持・構築に積極的に参加する機会を増やすことが必要である。歴史に鑑みれば、新たに台頭した国が国際システムの現状に不満をもち、その結果、国際システムが不安定化するという事例は少なくない。これを避けるには、新興国が「責任ある大国」として国際システムを支える立場に立つことが自らの利益となるという状況を作り出す必要があり、そのために日本が努力すべきである。

国連安保理の常任理事国であり、核兵器を保有する軍事大国でもある隣国の中国やロシアとの関係は日本にとって重要である。両国との信頼関係を強め、両国が国際社会において責任ある行動をとり、また非伝統的安全保障の分野での協力を構築・発展するべく、積極的な関与を行うべきである。

[3]多国間安全保障枠組みの構築と活用
アジア太平洋地域では米国を中心とした同盟関係の比重が大きく、域内国同士または多国間の安全保障上の連携はこれまで限定的だった。その中で、地域における多国間の安全保障枠組みとして、ASEAN地域フォーラム(ARF)は重要であり、ARFは信頼醸成を超えて、「行動指向型」の予防外交メカニズムに踏み出す必要がある。2009年5月、米比の共催で実施された「民主導、軍支援」の災害救援実動演習は、その意味で、大いに歓迎される。日本としては、ASEAN+3、東アジアサミット(EAS)、日中韓サミットなども活用し、主要近隣諸国と安全保障問題を含めた率直な意見交換を進めていくとともに、日米韓、日米豪などの協力関係を基礎として、地域的な安全保障の枠組みを多層的に形成していく必要がある。

テロ、海賊、大規模自然災害、環境問題といった国境を越える非伝統的な脅威に対しては、こうした幾重にもある既存の多国間の枠組みを取捨選択しつつ利用し、また必要に応じて新たに作り上げたりしていく方が現実的である。たとえば、海上自衛隊に加え海上保安庁というアジア太平洋地域でも最高水準の海上勢力を有する日本は、海上安全保障に関する地域的多国間協力を進める責任を有しており、日本が主要な役割を担うアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)における協力をはじめ、ARFの会期間会合で開始された実務レベルの協力に積極的に参加するなど、取り組みの強化を図ることが重要である。

さらに、人間の安全保障の観点から、防災、保健等の分野についても、アジア太平洋地域におけるネットワーク強化を図るべきである。特に災害や感染症等に関する早期警戒システムを構築すること、コミュニティの防災能力の向上を図るような支援をすることも重要である。

[4]国連・グローバルレベルでの努力
日本は国連などのプラットフォームを使い、グローバルレベルでの安全保障環境の改善に努めるべきである。このレベルでまず重視されるべき課題は、脆弱な国家を国際的に支援し、その国家破綻を防ぐこと、また、破綻国家に対しては、包括的な平和構築支援の取り組みを国際社会が一致して行うことである。日本は紛争後の社会の復興に経済援助や教育支援が果たす役割を重視して積極的に貢献してきたが、その姿勢は継続されるべきである。また、紛争後の武装解除、動員解除、社会復帰(DDR)といった活動についてもこれまで以上に積極的に取り組むべきである。最近、治安部門改革(SSR)の重要性が注目され、軍隊だけでなく、警察、司法の専門家が参加する形の国際協力が一層求められるようになってきていることを考えれば、日本としても、各省庁が足並みを揃え、政府一体としての対応を強化していく必要がある。

日本が国連平和維持活動(PKO)を含めた国際平和協力活動に割ける資源は有限であるが、それを踏まえた上で積極的な参加を志向すべきであり、自衛隊のみならず政府全体の課題として取り組まなければならない。日本の長所や特性が活かせる効果的・効率的な派遣を行うよう努力すべきである。

次に、核兵器をはじめとするWMDの軍備管理・拡散防止の課題が挙げられる。オバマ大統領の呼びかけもあって核軍縮の機運が高まっている。米露両国の戦略核兵器削減合意に引き続き、全核兵器保有国が核兵器削減に向かうことが極めて重要であり、日本として呼びかけていく必要がある。ただし、核兵器を究極的に廃絶するまでの過程においては、通常兵器を含む米国の拡大抑止の信頼性が低下することのないよう、留意する必要がある。

WMDの拡散を防止するには、グローバルレベルで軍備管理レジームを強化していくことが重要であるが、現在NPTによる核不拡散体制は挑戦を受けて動揺しており、核管理体制の包括的な強化が求められている。日本は軍備管理レジームをより実効的なものにするため関係国・関係機関の連携を進めるなどの活動を強化すべきである。これらの活動を進めていく上で、日本が国連における意思決定に深く関わることが望ましい。国連が健全に機能していくことは国際システム維持のためにも重要であるとの観点から、安保理を含めた国連機構改革に積極的に取り組み、安保理の常任理事国となるよう、引き続き努力すべきである。また、日本人の国際機関への積極的な参加を勧めるような制度的な後押しも重要である。

[5]防衛装備協力・防衛援助
これまで日本は「武器を輸出しないことで平和に貢献する」という観点から、武器輸出三原則等により事実上の武器禁輸政策を維持してきた。しかし国際情勢を無視して日本だけが武器輸出を禁じることが世界平和に貢献するという考えは一面的であり、適切な防衛装備の協力や援助の効果を認識すべきである。

そもそもこれまで日本の装備政策のうち貿易管理に関する部分については、「武器輸出三原則等」などと総称されてきたが、これは誤解を与える表現であり、現状については、対米技術供与などの個別の例外措置を除くと事実上の武器禁輸状態となっていると解さざるを得ない。こうした現状は日本の装備政策を時代遅れにしつつある。日本政府が時々の状況に応じて表明した見解や答弁が積み重なり、原則的な武器禁輸政策となっていながら「武器輸出三原則等」といった表現をとってきたことに問題がある※6。

近年、紛争後の平和構築、人道支援・災害救援、テロや海賊等の非伝統的安全保障問題への対応等のための国際協力が拡大している。このような協力の手段として、防衛装備品・装備技術の活用は効果的であり、実際、インドネシア政府による海賊取締り目的のため、同国の海上警察への巡視船艇供与を武器輸出三原則等の例外として認めた事例がある。しかし、事実上の武器禁輸政策のため、個別案件ごとに例外を設ける必要があり、これらの課題に対する国際協力の促進の妨げとなっている。平和創造国家を目指す日本としては、こうした国際協力をむしろ促進すべきであり、この分野については、個別の案件毎に例外を設ける現状の方式を改め、原則輸出を可能とすべきである。

もちろん国際的に見ても装備の国際移転に関する管理体制は厳格となっており、こうした国際基準を遵守し、また、平和創造国家として武力紛争誘発の危険性を高めるような装備の輸出に対して厳格な規制を設けることは言うまでもない。

一般に、装備品の有効な供与によって相手国との紛争は比較的発生しにくくなり、むしろ友好関係が増進される。日本がテロ・海賊対策等のために装備品を有効に供与することは、相手国との二国間関係を増進し、かつ当該国および周辺地域の安定化にも資することによって日本をとりまく安全保障環境の改善にも貢献する。その点からも、このような政策は平和創造国家としての日本のあり方に合致しうるのである。防衛装備協力、防衛援助が国際安全保障環境の改善に資するという理念の下、新たな原則※7をうち立てた上で適切な協力と援助を進めていくべきである。

※6  1967年、佐藤内閣によって表明されたそもそもの武器輸出三原則は、[1]共産圏諸国、[2]国連決議による武器禁輸国、[3]国際紛争当事国又はそのおそれのある国、への武器禁輸を表明したものである。1976年、三木内閣は政府統一見解として、上記[1]~[3]へは武器禁輸とし、それ以外の国への武器輸出も“慎む”ものとするとした。その後、同年中には、通産大臣国会答弁において、武器技術も武器に準じて取り扱うこととされた。また、当初、“慎む”は必ずしも禁輸を意味しないとされたが、1981年、通産大臣国会答弁において、「“慎む”とは原則としてはだめだということ」との見解が示され、事実上対米武器技術供与等の個別の例外措置を除いて武器輸出は原則的に禁止されることになった。

※7  この原則には、軍を含む相手国当局への武器の輸出・供与を認めること、他国と共同で武器技術の共同研究開発を行うこと、それらの際には武器・武器技術について第三者への移転について日本の事前同意を得ることを確保すること、日本の資金援助によって開催する訓練やセミナーに軍人の参加を認めること等を含めることが考えられる。


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