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第一章  安全保障戦略

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はじめに 目次 第一章 第3節  戦略と手段

新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想
―「平和創造国家」を目指して―

第一章  安全保障戦略



冷戦の終結は、世界システムとしては二極体制の終焉を意味し、欧州では東欧諸国の民主化、東西ドイツの統一、欧州統合の進展、アジア太平洋地域では中国とベトナムの市場経済化の進展、そして北朝鮮の国際規範への挑戦をもたらした。2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロは、冷戦後の問題が解決しないうちに、対テロ戦争という新しく、しかも困難な問題を追加するものであった。この新たな時代において、日本が自らの安全を確保し、また世界と相和して生きるためにどうすればよいのか。

国家は、一般に、自国の独立、安全、繁栄、好ましい国際環境といった諸目標の実現を図ろうとする。そのために多くの国は、自国が達成しようとする目標を明確化し、自国が置かれている国際環境を精密に分析した上で、目標達成のための手段とその利用方策を検討する。こうした考察の総体を安全保障戦略と呼ぶことができよう。本章では、日本がこれからとるべき安全保障戦略として、安全保障上の目標を定義し、現在から2020年前後を目処に日本の置かれるであろう国際環境について分析を加えた上で、日本がいかなる手段を用意し、その利用を図るべきかについて基本的方針を論じる。

第1節  目標


[1]日本の安全と繁栄

安全保障の最も基本的な課題は、日本の主権、領土および国民の安全(日本の安全)を守ることである。

日本の安全はまた、日本人の享受する豊かさ、日本人のもつ価値意識などと完全に切り離すこともできない。日本の安全と繁栄のためには、日本の領域と排他的経済水域において利用可能な資源を適切に利用し、日本の科学技術力、産業競争力に裏付けされた経済力を維持・発展する必要がある。また資源と市場が限られた日本が自由で豊かな生活を維持するためには、開かれた国際システムの下、経済活動、移動の自由などが保障される必要がある。

日本国外に居住、滞在する日本人の安全を図ることも安全保障上の要請である。もちろん、世界は、今日でも、主権国家システムを基本とし、他国の主権下にある日本人に対し国内と同様の保護、安全を保障することは難しい。しかし、他国、さらには国際機関、非国家主体とも連携し、危険に遭遇する国外の日本人の安全を図れるよう、常に準備をしておく必要がある。

[2]日本周辺地域と世界の安定と繁栄

日本の周辺地域の安定は日本の安全を確保する上で基本的条件である。また交通、通信技術等の発達によって、今日では、世界のいかなる地域の事象も日本に何らかの影響を与える可能性があり、そうした観点から、世界各地における紛争を防止し、あるいはこれに対処して、そのリスクを抑えることも、日本の安全保障の重要な要素となる。

周辺地域と世界全体の安定は日本国民の生活基盤を守るためにも重要である。また資源調達、食糧安定供給に必須の市場へのアクセス、海上輸送交通路(シーレーン)の安全維持などは、日本を含む周辺地域と世界共通の利益である。平和な経済交流は日本の繁栄の基礎であり、日本の貿易相手国・地域の安定と繁栄は日本にとって重要な目標である。

[3]自由で開かれた国際システムの維持

第二次世界大戦後、日本の享受してきた安全と繁栄は、自由で開かれた国際システムに依拠してきた。資源や市場を海外に依存する日本にとって、自由貿易体制の維持は死活的課題であり、国際社会における国際的ルール、取り決めの遵守もまた同様である。特に安全保障においては、武力による現状変更を行わないという規範が定着しなければ、日本と世界の安全と平和を守るコストは極めて高くなる。そのためにも世界の主要国が国際秩序の維持のために協力を深めることが必要である。

自由で開かれた国際システム維持のためには、個人の自由と尊厳といった普遍的、基本的価値が守られなければならない。その意味で、統治能力の欠如した破綻・脆弱国家は国際システムそのものに対する脅威となりうる。こうした国家においては生命・財産の保障といったごく基本的で普遍的な価値が守られていない。個々人の自由と尊厳が守られる社会を実現するためにも、「人間の安全保障」※1の観点から、より自由で開かれた国際システムの形成が望まれる。

※1  グローバル化の進行および紛争の多発化に伴い生ずる貧困、環境破壊、薬物、国際組織犯罪、感染症、紛争、難民流出、対人地雷等の脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現するために、国家よりもむしろ人間中心の視点を重視する取り組みを統合し、強化しようとする考え方。


第2節  日本をとりまく安全保障環境


(1)グローバルな安全保障環境

[1]グローバル化と国家間紛争パラダイムの変化
世界の安全保障環境の趨勢についての第一の特徴は、経済的・社会的グローバル化であり、その加速度的な進行は今後も継続するであろう。グローバル化のもたらす相互依存関係の進展によって、主要国間の大規模戦争の蓋然性は低くなっている。一方、グローバル化は、これまで一国内で対処できた脅威を拡散させ、地理的距離に関係なく、世界全体に深刻な影響を引き起こす原因ともなっている。

こうした脅威は、基本的に国境を越える(transnational)性質のものである。9.11同時多発テロをはじめ、大量破壊兵器(WMD)の拡散、海賊問題などは、全て国境を越えた問題であり、当面、根絶されそうにない。また近年、地球規模の気候変動、環境汚染、大規模な自然災害、感染症、宇宙・サイバー空間への攻撃なども安全保障上の脅威となっている。こうした国境を越える安全保障上の問題は、自国の中だけで平和を維持することをほとんど不可能とする問題であり、しかもこれらの問題はこれからも確実に増加する趨勢にある。

またグローバル化によって主要国間の戦争の蓋然性は大幅に低下したとはいえ、軍事的な競争、対立、紛争がなくなったわけではない。明白な戦争ではなく、主権、領土、資源、エネルギー等について「平時と有事の中間領域」に位置する紛争は、むしろ増大する傾向にある。そうしたグレーゾーンに端を発した紛争が主要国を巻き込み当事者の意図を超えた対立となる危険性についても十分認識しておく必要がある。

[2]パワーバランスの変化と国際公共財の劣化
世界の安全保障環境の趨勢についての第二の特徴は、世界的なパワーバランスの変化である。冷戦終結以降、米国は、軍事力、経済力、国際社会における合意形成能力など、あらゆる分野において、圧倒的な力をもつ唯一の超大国と見なされた。しかし、アフガニスタン、イラクにおける戦争以降、その安定化と戦後統治には予想以上のコストがかかり、また国際的な亀裂を招くこととなった。さらに2008年には、住宅金融バブルの崩壊に端を発した米国発の金融危機が世界を席巻した。この結果、米国の軍事的、経済的優越は圧倒的なものと見なされなくなりつつあり、米国は超大国であるが、他国を無視できるような圧倒的力を持っているわけではないというのが米国も含めた一般的認識となっている。

その一方、グローバル化は中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国(emerging powers)の台頭をもたらし、2008年の経済危機以降、これらの国々の存在感はおしなべて高くなっている。2008年にはじまったG20首脳会合はそうした変化の象徴的存在であり、かつてのように先進資本主義国だけで国際秩序を運営することは困難となっている。こうした多極化に向かう動きはこれからも継続するであろう。新興国は、先進国、さらには世界の他の多くの国々とともに、グローバル化のメリットを享受し、グローバル化のもたらす脅威に協力して対処しようとしている。しかし、これらの国々の中には、先進資本主義国と違う利益、違う価値観をもった国や、経済成長、域内大国の動向、近隣諸国間の信頼の不足等を背景として軍事力の増強を試みている国もある。

米国の圧倒的優越性の低下、パワーバランスの変化は、かつて米国が中心となって提供した国際公共財の劣化をもたらしている。「グローバル・コモンズ」と呼ばれる国際公共空間は、公海と排他的経済水域とその上空空域などを指し、近年では、宇宙、サイバー空間を含むと観念されるようになってきている。これまで米国は、その圧倒的な力によってグローバル・コモンズをコントロールし、世界にその利用の自由を提供してきた。しかし、新興国の台頭とともに、複数の国がグローバル・コモンズの一部を囲い込む能力、具体的に言えば、自国付近の海・空域への兵力展開を妨害する能力、衛星破壊能力、サイバー攻撃能力等を獲得・強化しつつあり、グローバル・コモンズの開放性が劣化するリスクが出現している。

[3]大量破壊兵器と運搬手段の拡散
世界の安全保障環境の趨勢についての第三の特徴は、WMDとその運搬手段拡散の危険が安全保障上の課題として重要性を増しているということである※2。

冷戦終結後、米露の戦略核戦力は大幅に削減され、世界規模の核戦争の危険は遠のいた。しかし、北朝鮮は複数回、核爆発実験を実施した。イランは核兵器開発を疑われており、国際原子力機関(IAEA)、欧米諸国による核開発計画中止の要求を拒否している。南アフリカ、イラク、リビアのように、WMD保有計画が発覚し、強制的に放棄させられるか、自発的に放棄した国もある。また2010年の核セキュリティ・サミットで指摘されたとおり、核兵器あるいは核物質がテロ組織、破綻国家の手に入り、実際に使用されることになれば、これは、全世界にとって深刻な脅威となる。近い将来、これが現実のものとなる可能性は否定できない。

2009年、オバマ米大統領はプラハで「核兵器なき世界」を提唱し、米ロは2010年、新しい戦略核兵器削減条約に調印した。また2010年5月の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では核不拡散について全会一致で最終文書が採択され、基本的な行動計画が合意された。これは核不拡散と核軍縮に向けた好ましい徴候であるが、同時に核拡散問題がいかに深刻かを示すものでもある。実際、他のすべての核兵器国が核軍縮の努力を行っている一方で、中国は核戦力を増強している。またインドとパキスタンは核実験を行い、核兵器を保有している。イスラエルも核兵器保有を疑われている。このように「核兵器なき世界」への道は困難な課題を抱えており、これからもその解決は決して楽観できない。

化学兵器については、国際的な制限、廃棄体制は、冷戦後、強化される傾向にある。生物兵器についても制限強化に向けた取り組みが行われている。しかし、ミサイル能力の向上、拡散や国際テロ活動ともあいまって、こうした兵器が市民社会に対する脅威となる可能性は依然として存在し、今後、核兵器の役割縮小が図られる中、これらの兵器の使用をいかに抑止していくかは、安全保障上の大きな課題であり続けるだろう。また将来、原子力発電所の急速な増加が予想されることからすれば、核物質と核廃棄物の管理はこれからますます大きな課題となる。

※2 WMDとは核兵器・生物兵器・化学兵器を指し、運搬手段とはそれらを搭載可能な弾道ミサイル・巡航ミサイル等を指す。


[4]地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪
世界の安全保障環境の趨勢についての第四の特徴は、国際安全保障上の課題としての地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪の重要性である。冷戦後、民族、宗教対立に起因する内戦型の地域紛争、あるいは統治機構が事実上崩壊した破綻国家に安全保障上の関心が集まるようになった。近い将来、こうした地域紛争、破綻国家に関わる問題がなくなることはありえない。

破綻国家は、アルカイダに聖域を提供した1990年代のスーダンや現在のアフガニスタンの事例に見られるように、国際テロの温床となることがある。2001年の9.11同時多発テロは、米国から遠く離れた破綻国家が米国の心臓部の安全と直結していることを明らかにした。破綻国家はまた、麻薬、人身売買といった国際犯罪、海賊などの聖域ともなっている。その意味で、破綻国家は非伝統的安全保障上の大きな課題である。また、一般に、地域紛争、国家破綻は、治安の悪化や大量の難民の発生を伴う。1990年代、旧ユーゴスラビア、ソマリア、ルワンダなどで対応に苦慮した経験に鑑み、国際社会は、紛争が起こったとき、あるいは国家が破綻したとき、協力してこれに関与することの重要性を理解するようになっている。そのときには、現地の一般住民の生存、生活の安全に焦点を当てた人間の安全保障が重要な課題となる。

(2)日本の周辺地域および重要地域の安全保障環境

日本は太平洋の北西、アジアの東端に位置する。上に述べたグローバルな国際環境変化は当然、日本にも影響を及ぼし、さらに、日本を取り巻く周辺地域および日本にとって重要な地域においても、日本の安全保障に直接的な関わりを持つ課題をもたらす。

特に日本周辺の東アジア地域は、朝鮮半島、台湾海峡、北方領土問題等、未処理の主権・領土問題や冷戦の遺構がいまだに残存する一方、政治、経済、社会は大きく変化し、域内の経済的交流が深化して、地域の結びつきが強まっており、総体として協調と対立の要因が併存する特徴をもつ。この地域ではまた、資源エネルギー問題、環境問題などが急速に重要性を増しており、それが一国内にとどまらない影響を持つ。その結果、東アジアでは協力が主流とはいえ、対立も起こりうる。こうした構造が近い将来、解消されるとは考えにくい。この地域ではこれからも対立的要因が存続し、場合によっては増大する可能性が存在する。

[1]米国の抑止力の変化
第二次世界大戦後、米国は米軍のプレゼンスおよびコミットメント、巨大な経済力、緊密な人的、知的ネットワークの構築などによってこの地域の安定に欠かせない存在となり、冷戦終結後も、アジア太平洋地域に引き続き深くコミットする意向を示してきている。現在の米国は、日本、韓国、オーストラリアといった伝統的な同盟国との協力関係を基礎とすることに加え、主要な東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との協調、中国、インドなど新興国との対話の増進、アジア太平洋経済協力(APEC)や北朝鮮に関する六者会合など地域的多国間枠組みの重視の方針を打ち出している。多極化に向かう動きへのこのような対応は今後も継続していくであろう。

安全保障の面で、米国は、核兵器の脅威に対しては核による抑止を堅持する一方、核兵器の役割を低減させるとしている。それに伴い、ミサイル防衛を含めた通常兵力の役割が大きくなると考えられる。また、アフガニスタン等における現在の戦争における勝利、核テロや大量破壊兵器の拡散防止を主たる安全保障上の課題と位置づけ、「アンチ・アクセス能力」を獲得しつつある国家に対する対応を表明している。

こうした米国のアジア太平洋地域での政策およびプレゼンスは引き続き、地域の安定要因としての役割を果たす趨勢にある。ただし、この地域における米国の力の優越は絶対的なものではなく、その意思決定は地域諸国との関係や米国の利害に左右される程度が増大するであろう。その意味で、将来、同盟国に対する米国の安全保障上の期待が高まることが予想され、日本を含めた地域諸国が地域の安定を維持する意思と能力を持つかがこれまで以上に重要となる。

[2]不確実性の残存と域内パワーバランスの変化
この地域における不確実性はこれからも継続あるいは増大する可能性が大きい。北朝鮮は、冷戦終結後、ロシア、中国との関係を後退させ、孤立した独裁体制を維持してきた。北朝鮮の経済は困難な状況にあると見られるが、大規模な軍事力を維持し続けており、また国際社会の圧力、制裁にもかかわらず、核・弾道ミサイル開発を続け、瀬戸際外交を繰り返している。さらに北朝鮮は極端な情報統制下にあるため、その意思決定については不確実性が極めて高い。北朝鮮の核・弾道ミサイル開発、あるいは特殊部隊による活動は、日本を含めた北東アジア地域にとって直接的な脅威である。また北朝鮮の指導者交代は内部的混乱をもたらす可能性もあり、朝鮮半島情勢の不安定化も懸念される。

中国はすでに世界経済の安定を左右する大国となり、国際社会において一定の役割を果たすようになった。安全保障においても、中国は、北朝鮮に関する六者会合を主催するなど、国際社会に対する責任を分担する傾向が見られる。また、中台関係には一定の改善が見られ、台湾海峡における軍事的緊張は低下した。国際社会は中国が今後とも一層、その経済規模に見合った「責任ある大国」として国際秩序運営の責任を引き受けることを強く期待している。

その一方、地域と日本にとって懸念される傾向もある。中国は、1990年代以降、その軍事力を急速に近代化し、海・空戦力やミサイル、宇宙活動、海洋活動、IT能力を質的に向上させ、台湾との軍事バランスは、全体として中国側に有利な方向に変化している。こうした軍事力の近代化に伴い、中国の海洋活動は、東シナ海、南シナ海を越えて太平洋にまで広がり、日本近海でも活発化している。その背景には、領土・領海の防衛のため可能な限り遠方の海域で敵の作戦を阻止すること、台湾の独立を抑止・阻止すること、海洋権益を獲得・維持・保護すること、海上交通を保護することといった狙い※3があると見られる。こうした中国の積極的な海洋進出はこれからも続くものと予想される。

中国の軍事力については、こうした能力の拡充に加え、その能力、意図に関する不透明性・不確実性が問題である。中国は「国防白書」の公表などを通じてこうした批判に対応しているが、公表された国防費の規模は国際的信用を得ておらず、武器調達の全体計画も明らかでなく、周辺諸国をはじめ、国際社会の不安を解消することには成功しているとは言えない。

中国と政治、経済、社会、文化的に深い関係をもち、また地理的に近接する日本にとって、中国の経済的発展は、軍事力の強化とともに、安全保障上、様々な意味で極めて重要な課題である。中国の政治的、経済的発展は日本にとって極めて重要な利益であり、両国の協力関係は、「戦略的互恵関係」を基本として、これからも増進されるべきである。

ロシアはソ連邦解体以降、軍事力を大幅に縮小したが、大国としてその国際的地位の確保を図っており、極東地域においても、核兵器を含む相当規模の軍事力を保持している。国防費も増加傾向にあり、核戦力、通常兵力の近代化も進行している。ロシアの軍事技術、軍の機動力、統合運用能力は非常に高いと見られているが、他方、ロシアは、人口の減少と低い平均寿命、民生分野での経済技術基盤の脆弱性といった問題を抱えている。

日露関係は、北方領土問題交渉が続けられる一方、サハリン・プロジェクトなどエネルギー分野で一定の協力も見られる。しかし、近年、ロシアは、日本周辺においても、近接飛行を含む軍事訓練等の活動を活発化し、北方領土周辺での活動も目立つようになっている。ロシアの極東における軍事的潜在力には引き続き注目が必要である。

※3  米国「4年毎の国防計画見直し」(QDR)は、「アクセス拒否環境下における攻撃の抑止・打破」の項でイラン・北朝鮮に次いで中国の軍事力の近代化を紹介している。また、これとは別の文脈で「強固なアクセス拒否能力を有する相手」という表現を使用し、これに対抗する能力の重要性を指摘している。


[3]シーレーンおよび沿岸諸国の不安定要因の継続
資源・エネルギーの乏しい日本にとって、シーレーンとその周辺の地域は安全保障上の重要地域と言える。日本は石油エネルギーの多くをインド洋経由の海上輸送に頼っている。このため、ペルシャ湾から、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡、台湾東岸、日本近海に至るシーレーンとその周辺諸国の安定は、日本にとって極めて重要であり、これは将来においても変わらない。

この地域はまた、新興国として発展する国々と地域紛争、破綻国家、国際テロ等の諸問題を抱える国々を含む。インドネシアは一時の混乱を克服し、政治的安定と経済成長の好循環に入っている。インドは独自の核戦力を有する南アジアの大国である。また、インドは高い経済的潜在力を持っており、新興国としてその存在感はますます高まっている。さらに、日本との関係を見ても、日印安全保障共同宣言等の安全保障協力の進展、原子力協力交渉の開始といった連携強化が見られる。パキスタンは核兵器保有国であるが、その国内体制は脆弱であり、アフガニスタンの安定のためにも、その安定は国際社会の大きな課題となっている。

中東湾岸諸国、アフリカ東沿岸地域は日本の海洋安全保障、エネルギー供給に重要な地域であり、この地域の平和と安定を維持し、日本との友好協力関係を増進することは日本の重要な利益である。イランの核疑惑、イラクの戦後復興、ソマリアとその周辺海域の治安等は、日本自身の課題であると認識する必要がある。


はじめに 目次 第一章 第3節  戦略と手段

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