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新安保防衛懇報告(要約)

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新安保防衛懇報告(本文)

新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想―「平和創造国家」を目指して―(要約)

2010年8月
新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会

目次

本報告書において、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、日本がその平和と安全を守り、繁栄を維持するという基本目標を実現しつつ、地域と世界の平和と安全に貢献する国であることを目指すべきであること、別言すれば、日本が受動的な平和国家から能動的な「平和創造国家」へと成長することを提唱する。


第一章  安全保障戦略


第1節  目標

安全保障上の目標は、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定と繁栄、自由で開かれた国際システムの維持である。日本の安全と繁栄のためには、日本の経済力の維持・発展、経済活動、移動の自由などの保障が必要とされる。ここには日本国外に居住、滞在する日本人の安全を国際的連携の下で図ることも含む。日本周辺地域と世界の安定と繁栄について、市場へのアクセスとシーレーンの安全維持は、日本および世界共通の利益である。自由で開かれた国際システムの維持について、日本は国際秩序の維持と国際規範の遵守のため世界の主要国と協力を深める必要がある。また個人の自由と尊厳といった普遍的、基本的価値は守られなければならない。

第2節  日本をとりまく安全保障環境

グローバルな安全保障環境の趨勢としては、[1]経済的・社会的グローバル化、それに伴う国境を越える安全保障問題、平時と有事の中間のグレーゾーンにおける紛争の増加、[2](中国、インド、ロシア等)新興国の台頭、米国の圧倒的優越の相対的後退による世界的なパワーバランスの変化と国際公共財の劣化、[3]大量破壊兵器とその運搬手段の拡散の危険の増大、[4]地域紛争、破綻国家、国際テロ、国際犯罪等の問題の継続などが挙げられる。

こうした趨勢の下、日本の周辺地域と日本にとって重要なことは、米国の抑止力の変化、朝鮮半島情勢の不確実性の残存、中国の台頭に伴う域内パワーバランスの変化、中東・アフリカ地域から日本近海に至るシーレーンおよび沿岸諸国における不安定要因の継続といった課題にどう対処するかにある。

第3節  戦略と手段

こうした安全保障環境下、日本の地理的特性、その経済力・防衛力の特性および歴史的制約要因の特性を考えれば、 外交・安全保障の領域において日本がめざすべき国の「かたち」あるいはアイデンティティは「平和創造国家」と言える。これは、世界の平和と安定に貢献することが日本の安全を達成する道であるとの考えを基礎とし、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。

日本が、この平和創造国家のアイデンティティを基礎として、その安全保障目標を実現する戦略と手段としては、日本自身の取り組み、同盟国との協力、そして多層的な安全保障協力がある。こうした取り組みとしては、様々な外交手段の活用、防衛力の整備、省庁間・官民協力の積極的推進、同盟国との共通戦略目標の達成、グローバル・コモンズの安全確保、米国による拡大抑止の担保、パートナー国・新興国との協力・関与、多国間安全保障枠組み等における協力の推進などがある。軍事力の役割が多様化する中、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基盤的防衛力」概念は有効性を失った。また、安全保障環境と国際関係改善のための手段として防衛装備協力の活用等が有効であるとの理念の下、武器輸出三原則等による事実上の武器禁輸政策ではなく、新たな原則を打ち立てた上で防衛装備協力、防衛援助を進めるべきである。


第二章  防衛力のあり方


第1節  基本的考え方

近年の軍事科学技術の発展、事態生起までの猶予期間の短縮化等によって防衛力の特性が変化し、日本の防衛のためには、従来の装備や部隊の量・規模に着目した「静的抑止」に対し、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・適切な運用を行い、高い部隊運用能力を明示することによる「動的抑止」の重要性が高まっている。今日では、基盤的防衛力構想から脱却し、多様な事態が同時・複合的に生起する「複合事態」も想定して踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ている。

将来の変化に対応できるよう備えるため、本格的な武力侵攻対処のための最小限のノウハウ維持を考慮する必要はあるが、基盤的防衛力構想の名の下、これからの安全保障環境の変化の趨勢からみて重要度・緊要性の低い部隊、装備が温存されることがあってはならない。

16大綱が示した「多機能・弾力的・実効性を有する防衛力」を引き続き目指しつつ、多様な事態への対処能力に裏打ちされた、信頼性の高い、動的抑止力の構築に一層配意すべきである。

第2節  多様な事態への対応

今後自衛隊が直面する多様な事態には、[1]弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃、[2]特殊部隊・テロ・サイバー攻撃、[3]周辺海・空域および離島・島嶼の安全確保、[4]海外の邦人救出、[5]日本周辺の有事、[6]これらが複合的に起こる事態(複合事態)、[7]大規模災害・パンデミック、等が含まれる。

第3節  日本周辺地域の安定の確保

防衛省・自衛隊は、日米安保体制下での米軍との緊密な協力という前提の下、日本周辺地域の安定のために、[1]情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の強化、[2]韓国、オーストラリア等との防衛協力や多国間協力の促進、中国やロシア等との防衛交流・安保対話の充実、[3]ARFやADMMプラス等の地域安全保障枠組みへの積極参加、といった取組みが必要である。

第4節  グローバルな安全保障環境の改善

自衛隊は、国際平和協力活動を通じて、日本のプレゼンスを世界に示すべきであり、国内外で官民連携もしつつ、グローバルな安全保障環境の改善のため、[1]破綻国家・脆弱国家の支援、国際平和協力業務への参加の推進、[3]テロ・海賊等国際犯罪に対する取り組み、[3]大規模災害に対する取り組み、[4]PSIでの連携強化を含むWMD・弾道ミサイル拡散問題への取り組み、[5]グローバルな防衛協力・交流の促進を進めるべきである。また、日本の資金援助などによる防衛援助の選択肢を可能とすべきである。

第5節  防衛力の機能と体制

以上のような役割を踏まえ、日本の防衛力整備は具体的に、地域的およびグローバルな秩序の安定化、複合事態への米国と共同での実効的対処、平時から緊急事態への進展に合わせたシームレスな対応を目指すべきである。そのために自衛隊は、ISR能力、即応性、機動性、日米の相互運用性などの能力を強化する必要があり、高度な技術力と情報力に支えられた防衛力整備が求められる。その際、個々の装備品の更新を中心とした考え方でなく、自衛隊の持つ能力を客観的に評価し、最適な防衛力を構築する必要がある。

日米同盟における両国の役割分担の観点からは、自衛隊は米軍との相互補完性の強化を目指すべきであり、さらにPKO活動等自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要である。

自衛隊は多様で複合的な事態に的確に対応するため、統合の強化と拡大が必要である。また陸上・海上・航空それぞれの防衛力も、ISR能力等必要とされる能力を高める一方で、優先度の低い装備や態勢は見直す「選択と集中」が必要である。さらに、長距離輸送能力の強化をはじめとする国際任務に適合的な能力の増強、持続的な活動を可能にする部隊交代・後方支援態勢を確保すべきである。


第三章  防衛力を支える基盤の整備


第1節  人的基盤

防衛省は、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤に関する課題について早期に具体的な制度設計を行い、人的基盤の整備に着手すべきである。なお、制度設計にあたっては、複数の選択肢についてシミュレーションを行い比較するなど十分な評価に基づき、必要な人材を確保し、隊員のインセンティブを高める工夫をする必要がある。その際、特に注意すべきは、自衛隊の階級・年齢構成のバランス、民間活力の有効活用、自衛官の適切な採用と退職援護施策の充実といった点である。

第2節  物的基盤

国内の防衛生産・技術基盤をめぐる現在の行き詰まりを打破するためには、国内で維持すべき生産・技術分野について官民が共通の認識を持ち、選択と集中を進める必要がある。そのため政府は「防衛産業・技術戦略」を示すべきである。

同時に、国内防衛産業が国際的な技術革新の流れから取り残されないためには、装備品の国際共同開発・共同生産に参加できるようにする必要があり、国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう慎重にデザインした上で、武器禁輸政策を見直すことが必要である。

防衛省が、コストを抑制しながら装備品を取得し、維持整備していくため、総合取得改革を引き続き推進すべきである。特に装備品の調達に際しては、企業側にもメリットのある一括契約などの取り組みをさらに進めるべきである。

第3節  社会的基盤

自衛隊や日米同盟は、国民一般の支持と、防衛施設所在地域の住民の理解や支援なしには有効に機能しえない。国民の支持拡大のため、政府は国民への正確な情報、適切な説明を提供する責任がある。緊急事態において、特に緊急性の高い情報の伝達のあり方を、IT技術の進展も踏まえながら、不断に検討していく必要がある。

自衛隊の部隊の配置は、防衛上の考慮から不断に見直しを行う必要がある一方、地域住民の期待に応えることの意義は看過されるべきでない。防衛施設の存在は、施設が所在する地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組んでいく必要がある。また、これに関連して、地域住民にとって目に見える負担軽減策として、防衛施設の日米共同使用化に取り組むべきである。


第四章  安全保障戦略を支える基盤の整備


第1節  内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備

内閣の安全保障機構は、累次の制度改革を経て機能強化されている。今後の課題の一つは、武力攻撃事態などを想定した政府全体の総合的な演習を実施し、国家的な緊急事態に際して今の機構が十全に機能発揮するかを検証し、準備することである。もう一つは、内閣の安全保障機構が国家安全保障戦略を策定する態勢となるよう、実効性のある制度を整備することである。

内閣の情報機構も整備されてきているが、政府全体の情報を一元的に集約した上で分析するオール・ソース・アナリシスの強化や、内閣レベルでインテリジェンス・サイクルが効果的に稼働するような取り組みの強化が重要である。また、宇宙やサイバー空間の状況監視、対外人的情報収集(ヒューミント)などの能力強化に取り組むとともに、中長期的には安全保障を目的とした衛星システムの整備と海洋監視能力の向上が必要である。同時に、独自に収集した情報の保護や、他国との情報協力を進めるためにも、情報保全の強化を一層進めるべきであり、秘密保護法制が必要である。防衛大綱のような重要な政府の方針は継続的な見直し作業を要する。今回も採用された懇談会方式はやめ、内閣官房のような組織に有識者会議を常設し、対話を行いながら継続的に作業するのも一案である。また、安全保障をより広い視野でとらえた安全保障戦略の策定を期待したい。

第2節  国内外の統合的な協力体制の基盤整備

国内外の課題に取り組むため、政府部内の協力、中央・地方間の協力、官民の協力により、オール・ジャパン体制を構築していく必要がある。破綻国家の復興については、関係省庁が連携して取り組めるよう新たなフォーラムを設けるべきである。他国との信頼関係強化には、民間セクター主導の交流が重要となってきており、政府セクターの努力との協調関係を考えるべきである。国際平和協力活動の現場でも、NGOとの民軍協力を具体的に積み上げ、オール・ジャパンの平和構築能力を高めていくべきである。

日米安保体制をより一層円滑に機能させていくために改善すべき点には、自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈との関わりがある問題も含まれる。例えば、日本防衛事態に至る前の段階での米艦防護の問題や、米国領土に向かう弾道ミサイルの迎撃の問題は、いずれも従来の憲法解釈では認められていない。日米同盟にとって深刻な打撃となるような事態を発生させないため、政府が責任をもって正面から取り組むことが大切である。日本として何をなすべきかを考える、そういう政府の政治的意思が重要であり、自衛権に関する解釈の再検討はその上でなされるべきものである。

国際平和協力活動は多機能型へ進化しつつあり、冷戦終結直後に考え出された日本の国際平和協力の実施体制は時代の流れに適応できていない部分がある。PKO参加五原則の修正について積極的に検討すべきである。また、自衛隊の任務として、他国の要員の警護や他国部隊への後方支援を認めるべきであり、これらは憲法の禁ずる武力行使の問題とは無関係であり、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある。最後に、国際平和協力活動に関する基本法的な恒久法を持つことが極めて重要である。

第3節  知的基盤の充実・強化

安全保障の裾野が広がり、安全保障に関わる政府の意思決定過程に、研究者が登用される機会は今後増加すると考えられる。また、安全保障環境の改善のためには、軍・安全保障当局者に加え、研究者、NGO活動家等を交えた幅広い専門的知見の交換・共有が不可欠である。日本は安全保障分野で国際的に活躍しうる新たな人材供給に努めるべきである。安全保障分野のシンクタンクの国内外のネットワークが果たす役割も高まっており、シンクタンク等が安定的に活動できるようなあり方を検討する必要がある。

総理大臣は、危機対応時を含め、安全保障に関わる政府の考えや施策をタイムリーかつ明確に発言しなければならず、対外発信の補佐体制の強化が必要である。ホームページ等を通じた政府の情報発信も強化する必要がある。これまで、日本では民間部門が強い発信力を誇ってきた。今後もこうした知的基盤を維持・強化することが、日本の対外発信能力強化の鍵となる。


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