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【正論】中国海洋パワー 西太平洋を影響下に置く行動だ 平松茂雄

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【正論】中国海洋パワー 西太平洋を影響下に置く行動だ 平松茂雄

2010.5.21 03:34

 東シナ海と西太平洋のわが国周辺海域で、軍事訓練・演習を実施した中国海軍の艦載ヘリコプターが海上自衛隊の艦艇に異常接近したり、東シナ海で測量中の海上保安庁の測量船を中国海洋調査船が追跡するなどの出来事が相次いだ。

 これらの背景には、日本が実効支配する尖閣諸島を含む東シナ海の排他的経済水域(EEZ)を勢力範囲に取り込もうとするばかりでなく、さらに沖縄南方、わが国最南端の領土である沖ノ鳥島周辺海域に至る西太平洋に中国の勢力圏を確立して、この海域で支配的であった米国の海軍力を排斥する中国軍の意図がある。

 日本政府の抗議に中国側は「この海域は中国の排他的経済水域であるから、正常な訓練であり、国際法に基づいた合法的な行動である」と説明した。また中国海軍元幹部は「これまで自国の海を守らなかったことが異常だった」と述べて、中国の海洋調査船が海上保安庁の測量船を追跡して排除したことの合法性を強調した。


有効な措置をとらぬ日本

 中国の海洋調査船が追跡した海域は、東シナ海の排他的経済水域の日本側海域である。中国は日中中間線を認めていないが、日本の船を追い出す行為はこれが初めてだ。これまで、特に1990年代後半に、東シナ海の日本側海域で中国海洋調査船が頻繁に侵入して調査活動を実施してきたが、わが国政府は抗議するだけで、中国の活動を停止させるための何ら有効な措置をとらなかった、そのこともあって主客が転倒、日中の立場は逆転しつつある。

 中国は今世紀に入り、沖ノ鳥島周辺のわが国の排他的経済水域に侵入して違法な調査活動を続けてきた。2004年には沖ノ鳥島が日本の領土であることは認めるが、排他的経済水域を設定できない「岩」であるとの認識を示し、堂々と調査活動を続けた。

【正論】中国海洋パワー 西太平洋を影響下に置く行動だ 平松茂雄 (2/3ページ)
2010.5.21 03:34

 そして昨年6月に、5隻の艦隊が沖ノ鳥島の北東海域に出現して訓練を実施した。今年3月には6隻の艦隊、4月には前述の10隻の艦隊が同西方海域で軍事訓練、対艦演習を実施した。同様の訓練・演習が続けられそうだ。

 では、中国はなぜ沖ノ鳥島周辺海域に進出するのか。目的は2つ考えられる。1つは悲願の「台湾統一」に際して、軍事力を行使する場合に、米国海軍の空母機動部隊と原子力潜水艦をこの海域で阻止することにある。もう1つは、米国の覇権に挑戦し、将来の太平洋への全面的な進出に備えて、西太平洋を影響の下に置くことにある。そのために、中国はいわゆる第1列島線から第2列島線の間の広範な海域に進出し、軍事行動を前提とした海洋調査活動、あるいは軍事訓練・演習を行って存在感を高めているのである。

 中国の西太平洋進出を突き詰めて考えれば、ガス田開発や潜水艦増強の背景もすべて見えてくる。中国海軍には、青島、寧波、湛江にそれぞれ司令部を置く北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊の3つの艦隊がある。


日米安保体制は無力化

 東アジア・西太平洋では、北海艦隊と東海艦隊が太平洋に出るには、東シナ海から沖縄本島と宮古島との間の水域を通ることになるが、そのまま南進すると沖ノ鳥島の西方海域に出る。

 その途中の東シナ海のど真ん中には、中国がこの30年来開発してきた平湖と春暁の石油ガス田群がある。この海域は、単に資源開発だけでなく、中国の2つの艦隊が西太平洋に出て行く重要な通り道に位置している。というより、その通り道に中国は石油ガス田を設置して、艦隊の通航を守っているのである。

 一方、南海艦隊の本来の任務は南シナ海の防衛にあるが、海南島から真東に進んで、台湾とフィリピンの間のバシー海峡を抜けると、沖ノ鳥島の西方海域に出る。この海域で、中国海軍の3つの艦隊は合流することになる。


【正論】中国海洋パワー 西太平洋を影響下に置く行動だ 平松茂雄 (3/3ページ)
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 中国にとって、日本の周辺海域がいかに重要な海域であるかということが分かる。だが、わが国にはそうした認識が欠落している。中国の艦船が公海を通ることは国際法理上やむを得ないと事実上中国の行動を容認し、中国から日本を守るための措置を講じようとしない。

 このまま放置して、中国海軍が東シナ海から西太平洋に展開する既成事実が積み重なれば、米軍の行動は著しく制約され、日米安保体制は無力化する。そうなれば日本のシーレーンの要にある台湾が中国に統一されるばかりか、日本は中国の属国と化すであろう。

 冷戦時代に、米国海軍は日本周辺海域で情報収集するソ連漁船の活動を妨害し、ソ連潜水艦を執拗(しつよう)に追跡して東アジア・西太平洋の安全を確保した。海上自衛隊も米海軍に協力して懸命に活動した。今、わが国がなすべきは、その先例を臆(おく)することなく実行することである。(ひらまつ しげお=中国軍事専門家)



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