15年戦争資料 @wiki

大山鳴動して鼠一匹の尖閣ビデオ 林田力

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可

大山鳴動して鼠一匹の尖閣ビデオ 林田力



【PJニュース 2010年11月8日】尖閣諸島沖で海上保安庁巡視船「よなくに」「みずき」と中国漁船の衝突状況を撮影したビデオが2010年11月5日未明、動画サイト「ユーチューブ」に投稿された。問題のビデオは政府が頑なに公開を拒んでいたために様々な憶測を呼んでいたが、流出ビデオを見れば大山鳴動して鼠一匹の感がある。

衝突は複数回起きているが、いずれも航行する中国漁船の進路を巡視船が妨げたために起きている。前原誠司・国土交通大臣(当時)は9月16日、ビデオを根拠に「どちらが体当たりしてきたか、どのような状況で、無謀な中国漁船が活動したかが一目瞭然」と述べた。しかし、ビデオを見る限り、「中国漁船が故意に体当たりした」との見方には無理がある。反対に航行の危険を引き起こした原因は進路に立ち塞がった巡視船側にあると見る方が自然である。

また、ビデオによって巡視船と中国漁船と大きさの違いも一目瞭然になった。中国漁船が自発的に巨大な巡視船に体当たりすることには無理がある。逆に巡視船にとっては漁船に衝突されても相対的に問題は少ない。故に巡視船が航行する中国漁船の進路に立ち塞がることも可能であった。
http://news.livedoor.com/article/detail/5123218/
http://www.pjnews.net/news/794/20101107_6
既に国会議員向けに限定公開されたビデオを視聴した田中康夫・新党日本代表も中国漁船の故意衝突説を疑問視する。田中議員は自己のブログに「『衝突』『追突』『接触』の何れと捉えるか、批判を恐れず申し上げれば主観の問題ではないか」と書いている。

海上保安庁の論理は停船命令に応じないから進路に立ち塞がり、強制的に停船させようとしたということになる。しかし、それは独り善がりな論理でしかない。中国政府の立場では「日本の海上保安庁の巡視船が釣魚島海域で中国側漁船を妨害し、追いかけ、遮り、包囲し、拿捕したこと自体が違法」である。

しかも、海上保安庁の論理は日本の市民にとっても排斥されるべき官憲の論理でしかない。任意の職務質問に応じないから、進路を妨害して衝突させ、公務執行妨害で逮捕するという警察の論理と同じである。この点で日本の市民は中国の市民と連帯できる筈である。

私はビデオ公開前から公務執行妨害が犯罪者を仕立て上げる常套手段であると指摘し、左派市民までナショナリズムに踊らされる愚かさを警告した(林田力「尖閣諸島沖衝突事件での海上保安庁認識の差」PJニュース2010年9月28日)。
http://news.livedoor.com/article/detail/5036422/
その正しさが流出ビデオによって裏付けられた形である。【つづく】



PJニュース 2010年11月8日】冷静に評価すればビデオ公開は日本政府ではなく、中国政府の立場を強化することになる。この点を踏まえれば、日本政府が何故、ビデオを一般公開しようとしなかったかが理解できる。ネット右翼などが批判していたように、中国の反発に遠慮したためではない。反対に「中国漁船が故意に体当たりした」との主張が崩れることを恐れたと考える方が合理的である。

ビデオの投稿者は右翼系と見られている。投稿者のアカウント「sengoku38」が仙谷・左派と読めるからである。仙谷由人官房長官を媚中派と批判することもネット右翼の特徴である。ネット右翼の論理では仙谷長官らがリードする首相官邸が日中友好を優先してビデオの公開を拒否するために投稿したとなる。しかし、実際は中国の主張を強め、日本の立場を弱めることになりそうである。「愛国」を唱えつつも実際の言動が日本の国益を損なってばかりな点は日本の右翼層の伝統的な特徴である。

一般に写真や録画、録音は事実を記録したものと思ってしまいがちである。だから「ビデオがある」と言われれば、その主張が正しいと思考停止してしまいがちである。ところが、実際のビデオには日本政府の主張を裏付けるものではなく、日本政府の主張はビデオから導き出される解釈の一つに過ぎなかった。それも、かなり強引で無理がある解釈であった。日本政府はビデオを観れば真実が露見するのに「ビデオがある」と主張する子どもだましの卑怯な戦術を使っていた。
http://news.livedoor.com/article/detail/5123217/
http://www.pjnews.net/news/794/20101107_7

ビデオ流出は情報がオープンになるという観点では好意的に評価できる。特に無責任なデマを打ち消すことができた点が大きい。ビデオ公開前までは衝突事件で海上保安庁職員が海に突き落とされ、殉職者が出たというデマがインターネット上では流布していた。ネット右翼などは反中感情を煽るためにデマを積極的に拡散していた。

中にはBBC中国語版に掲載されたニュース記事中の「事故没有造成人員傷亡」を「事故で死傷者が出た」と誤訳する悪質なデマもあった。中国語の「没有」(メイヨウ)は否定形である。否定文を肯定文に誤訳することは、第二外国語として中国語を習い始めた大学一年生でも考えられないミスである。ここにネット右翼の悪意を見ることができる。

このようにネット右翼のデマは稚拙極まりないものであったが、ビデオ流出によって息の根を絶つことができた。ネット右翼にとって真実は問題ではなく、嫌中感情を扇動できさえすればいい。だから、虚偽が露呈したデマには頬かむりして、新たなデマを量産し続ける。それ故にこそ、デマが虚偽であることを記録することは良心的なジャーナリズムの使命である。【了】



目安箱バナー