15年戦争資料 @wiki

16[CML 006005

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可

尖閣(釣魚)諸島と竹島一件

2010/10/16
[CML 006005]

半月城です。
 皆さんの尖閣(釣魚)諸島の領有権をめぐる論議を興味深く拝見しています。その論議
を読んで、私はふと元禄時代の「竹島一件」を思い出しました。ただし、竹島といっても
これは欝陵島のことです。現在の竹島=独島は江戸時代に松島と呼ばれていました。
 当時、竹島(欝陵島)は朝鮮の官撰地誌に載ってはいるものの、同島は倭寇の被害を防
ぐため無人島にされ、しかも百年以上も捨て置かれました。その間に鳥取藩の商人が入り
込み、70年間も継続して何の障害もなくアワビなどを採取しました。
 その商人、大谷・村川両家は幕府から竹島渡海免許というお墨付きを受けてアワビ採り
をしていました。さらに、ある時は悪天候で朝鮮へ漂流しましたが、朝鮮政府は取り調
べをおこなっても彼らの竹島における漁を問題視しませんでした。こんな場合、
皆さんは竹島(欝陵島)の領有権は日本、朝鮮のどちらにあるとお考えでしょうか?

 この状況は、時代はずれるものの尖閣(釣魚)諸島に似ています。尖閣(釣魚)諸島も
中国の古文書にそれなりの記載はあるものの、長年捨て置かれたのも同然でした。その間
に日本人が同島で経済活動をし、それを口実に日本政府は日清戦争中に中国に何の連絡も
なく日本領に編入してしまったのでした。

 竹島(欝陵島)では70年後に海禁を犯して密漁をおこなった朝鮮人漁民がいました。彼
らは季節風の関係で日本人より早く島に到着してアワビなどを先取りしました。そのため、
日本人漁民はほとんど漁にならず、大きな「被害」を受けました。翌1693年も同じ状況だ
ったので、たまりかねた大谷家は竹島(欝陵島)にいた朝鮮人 安龍福らを証人として連行
し、藩へ引き渡して善処を要望しました。
 これを機に、日朝間で竹島(欝陵島)の領有権論争「竹島一件」が始まりました。交渉
を担当した対馬藩は朝鮮へ安龍福らを送還すると同時に朝鮮人の入島禁止を要求しました。
これに対し、豊臣秀吉の侵略の記憶がまだ覚めやらぬ朝鮮政府は百年以上も捨て置いた島
のことで日本と事を構えるのを控え、対馬の要求を受け入れて竹島への渡航禁止を書簡で
約束しました。
 これで終われば、欝陵島は日本領になっていたのですが、朝鮮政府はその書簡で海禁政
策を説明し、「弊境の蔚(欝)陵島といえども、漁民が外洋に出るのを禁止している」と付
け加えました。朝鮮政府は竹島が蔚陵島であることを承知しながら、日朝友好のために一
島二名という苦肉の策をとったのでした。
 しかし、対馬藩はその妥協案に満足せず、「弊境の蔚陵島」の文言を除くよう執拗に要求
したため、交渉はもつれにもつれました。進退両難に陥った対馬藩は、藩主の後見人であ
る宗義真(元藩主)が江戸へ赴き、幕府の指示を仰ぐことになりました。
 幕府は、かつて竹島渡海免許を発行した史実などが継承されずに実状が把握できなかっ
たのか、鳥取藩などへ竹島渡海の経緯を尋ねました。鳥取藩は渡海事業の詳細や、竹島・
松島は同藩の所属でないと回答しましたが、この回答が幕府にとって決め手になりました。
 幕府は、竹島(欝陵島)へは町人がアワビを採りに行ったまでであり、無益な島である
ところに、この件がこじれて朝鮮と年来の通交が絶えてもどんなものだろうか、武威をも
って談判におよぶのも筋違いであると決断し、1696年に竹島(欝陵島)を朝鮮領であると
認め、日本人の渡航を禁止しました。
 余談ですが、この時まで幕府は松島(竹島=独島)の存在を知らなかったことは特筆に
値します。そのため、幕府は鳥取藩の回答に登場した松島に関心をもち、さらなる質問を
鳥取藩へおこなったくらいでした。

 このように竹島一件では、朝鮮は古文書に竹島(欝陵島)が記載されているということ
を根拠にして百年以上も捨て置いた島の領有権を主張し、紆余曲折の末にそれがとおりま
した。朝鮮の古文書が日本の70年来の実効支配に勝ったのでした。
 近世ではそれほど古文書の存在は重いものでした。といっても、私は尖閣(釣魚)諸島
問題においては中国が有利であるとか不利であるとか評価するつもりはありません。判断
は基本的に日中両国民が冷静におこなうべきです。

 現代の領土問題は、時には国際法により判断されることになりますが、一口に国際法と
いっても戦前と戦後ではその性格が大きく異なります。それを区別するために私は戦前の
国際法を明治時代の用語のままに万国公法と呼んでいます。
 万国公法について明治の元勲である木戸孝允は「万国公法は小国を奪う一道具」と喝破
しました。万国公法は、弱肉強食の時代に覇権を追い求めた大国が、貪欲に領土拡張をお
こなった際にお互いの利害調整をはかって積みあげた強者間の、いわば「狼どもの国際法」
でした。そのため、侵略戦争すら合法であることは周知の通りです。
 したがって、もしアヘン戦争を万国公法で裁いたら、イギリスの蛮行はもちろん合法と
判断されるでしょう。そうした万国公法、ならびにそれらを土台にした国際司法裁判所で
尖閣(釣魚)諸島問題など戦争に関連した領土問題を判断するのが適切なのかどうか、疑
問が残ります。

(半月城通信) http://www.han.org/a/half-moon/


目安箱バナー