15年戦争資料 @wiki

尖閣沖漁船衝突事件について(続続)‏ 河内謙策 2010/10/13

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可

尖閣沖漁船衝突事件について(続続)‏ 河内謙策 2010/10/13


 河内謙策と申します。(この情報を重複して受け取られた方は、失礼をお許しください。転載・転送は自由です。)

 私が様々なMLに投稿した「尖閣沖漁船衝突事件について」「尖閣沖漁船衝突事件について(続)」に対し、多くの方からコメントが寄せられましたが、そのうち私に対し批判・異論を提出された方に対し、私の提起した4大論点に沿って、以下のとおり再度の反論をさせていただきたいと思います。

 まず、今回の事件の真相について。

 私が、「日本の領海で不法操業した中国の漁船船長の公務執行妨害罪の成立は間違いない」と述べたので、私の論理の前提である、尖閣諸島は日本領である、という点についていくつかの疑問が提出されています。それらの中で、最近はHayariki様※1とテント村様※2から、私の論理の枠組みである「先占」論について、先占論は、「帝国主義的な植民地争奪戦のロジックであって、私たちが安易に主張すべき言葉ではない」(テント村のGさん)などという批判がなされています。

 しかし、領土・領海をめぐる争いについては、さまざまな国家の利害が激しく対立する以上、どうしても国際法による解決を考えざるをえないのです。国際法上は成立しないが、この見解が正しい、というのは、よほどのことがない限り、国際社会でいうべき見解ではないのです。また、「先占」論は、私の乏しい知識でも、国際法の論理として定着しています。したがって、「先占論」にもとづいて尖閣諸島が日本領であることを十分に根拠付けることができるのに、それを放棄して、国際社会では胡散臭く見られる「政治論」を持ち出すべきではないと考えます。※3

 なお、「尖閣沖漁船衝突事件について(続)」で、私は、「領土問題の国際法的決着というのは、政治的、あるいは道徳的問題と異なるのです。アメリカ『インディアン』に対する皆殺し政策が許されないとしても、アメリカ合衆国のアメリカ大陸に対する領有が否定されないことをお考えください」と書いたところ、市川守弘様※3から、前段の論理は問題ないが、アメリカ合衆国がアメリカインディアンを殺してアメリカ大陸の土地を手にいれたかのように述べるのは事実にも裁判例にも反する、国際法的には交渉により取得したものと見なさざるを得ない、という御指摘をいただきました。私の不勉強によるミスです。申し訳ありません。

※3 この議論はズラシですね。市川守弘様の論考の在り処を教えてください。

 尖閣諸島が日本領であるということについて疑問があるという方は、中国領と考えておられるのでしょうか、疑問がある、疑問があるというだけでは、卑怯です。自己の見解を明確にすべきです※4。また、中国領と考えておられるのならその根拠、中国が1971年まで沈黙を守っていたり、中華人民共和国や台湾で発行された地図に日本領になっていたり、魚釣島付近で遭難した中国漁民を救護した魚釣島民に対する中華民国総領事の1920年の感謝状に尖閣諸島が日本領であることを認めている等の事実をどう考えるか、積極的な見解の提示をお願いしたいと思います※5。

 次に、中国がなぜ大騒ぎして、日本に対し「力の外交」を展開しているか、ということについて。

 私は、この事件は、単純に尖閣諸島をめぐる事件と捉えるべきではない、中国は、「この事件を利用して一挙に北東アジアの覇権確立を意図している」と判断してきました※6。これに対しテント村のGさんは「河内さんが指摘する個々の中国艦船の外洋進出などは、それだけでは『侵略』でも『世界的視野での分析』でもない。私たちは、終わりなき対テロ戦争によって世界支配の政治―経済的な秩序をも維持しようとするアメリカの戦略との関係で、中国の行動を分析し、批判もしていかなければならないのである」と述べています。
 http://yo3only.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-a060.html

※6 『中国は「この事件を利用して一挙に北東アジアの覇権確立を意図している」と判断してきました』・・・このドグマは「頑張れ日本!全国行動委員会」代表の水島総氏の文章がより明示的です。

 しかし、Gさんの分析では、今度の事件をどうとらえるべきなのか、結論が提示されていないように見えます。また、Gさんの分析を言葉どおりにとると、中国の分析の前提はアメリカの戦略だということで中国それ自体の分析がなおざりになる危険があります。私見では、中国は中華帝国主義として、国際政治の独自のファクターとして登場し、アジアにおける覇権確立をめざしている、中国艦船の外洋進出も今回の事件もアジアの一部である北東アジアの覇権確立をめざす行動だからこそ、日本の民衆にとって考えられないような行動をとったのだ、と考えるのです※8。

※8 Gさんにもドグマがないとはいえませんが、河内謙策さんの単純ドグマに陥らなかっただけではないでしょうか。

 次に菅内閣の態度をどうみるか、ということについて。
 これについては、今回、あまり異論、批判がなかったので省略します。

 最後に、日本の平和活動家のとるべき態度について。

 石垣さまから「日中問題は、日中双方が日中平和友好条約(1972年締結)を確認すれば解決できることです」という主張がなされました。しかし、日中平和友好条約に書いてないことで紛争になれば、その紛争を解決する新しい協定なり、確認がなされる必要があることは当然です。今回の問題は、そういう問題だと思います。また、中国が覇権をめざして喧嘩を売ってきているときに友好が大事だ、というだけでは、中国に馬鹿にされますし、世界の国が「日本は平和国家なのか、単に馬鹿な国家だけではないのか」という疑惑を招きます※9。「中国という国は、一歩引いたら何歩も入ってくる国だ」というのは、非常に重い言葉だと思います。それは石垣様の考えておられる憲法9条を擁護することと矛盾することではないのです。きびしい国際政治の中で9条がどういう意味をもっているのか、積極的な提示がなければ、国民は9条に絶望するでしょう※10。

 テント村のGさんから「私たちは国家・マスコミが煽り立てる国家主義・民族主義を批判し、そして冷静に国家と同一化することのないグローバルな民衆連帯を築きあげる必要がある。それぞれの国家権力を打倒するのは、第一義的にそれぞれの労働者・大衆の事業である。私たちが平和運動を本当に再建するためには、安保―沖縄―天皇の構造に対抗し、国家の呪縛から切り離された国際連帯の闘いが必要であろう」という御批判をいただきました※11。

 上記のGさんの論理には論ずべき多くの論点があると思いますが、とりあえず3点の反論をさせていただきます。

 第一に、国家とか民族という問題が平和主義者にとって非常に難しい問題を含んでいるということはGさんも同意なされることだと思います。国家についていえば、歴史のある時点では、民衆が国家目的に自ら身をささげるほどになり、冷静に考えれば国家の指導者や支配階級に利用されるだけの存在に成り下がるからです。では、それに対して平和主義者はどういう態度をとるべきなのでしょうか。私は、できるだけ民衆とともに歩み、そのなかで民衆が軍事力や戦争賛美、排外主義万歳等の誤った考えに陥らないようにするしかない、と考えるのです。国家にとりこまれるな、国家から離れろ、というだけでは駄目だと思うのです。国家にとりこまれるな、国家から離れろ、というだけでは、民衆はそのような運動を見捨て、一部の人間の自己満足に終わってしまうでしょう※12。たしかに私のいう道は困難だと思いますが、第1次大戦に協力したガンジーなどの例も存在します。あのロシア革命を指導したレーニンが「大ロシア人の民族的誇りについて」のなかで「民族的誇りの感情は、われわれ大ロシア人の自覚したプロレタリアには縁のないものであろうか? もちろんそうではない!……われわれは、民族的誇りの感情にみちあふれている」と言ったことを連想します。※12-2

 第二に、Gさんの言葉を文字どおり受け止めると、各国の民衆は各国の国家権力とだけ闘い、それを他の国の民衆が支えあい・連帯しあうという関係になります。しかし、それは、おそらく20世紀初頭で終わりになった図式ではないでしょうか。今日においては、各国民衆の共同闘争によって各国共通のテーマを追求することが必要になっているし可能にもなっていると思うのです。たとえば私は過去において(拡大)東アジアの民衆に対し、東アジア共同体反対闘争を呼びかけましたし、今回の問題でも、中国覇権主義に反対する東アジア的規模での民衆の共同闘争を呼びかけるべきだと思うのです※13。

 第三に、Gさんは「安保―沖縄―天皇の構造に対抗」することを考えておられるようですが、「天皇」の位置づけは疑問です。1945年時点の天皇ではなく、21世紀の天皇を考える必要があると思います。また1930年代に日本共産党が安易に天皇制打倒をかかげた過ちを繰り返すことになりはしないでしょうか。更に、当面の運動をどう展開するのか、それとの関連でGさんの考えをもっと展開していただきたいと思います。

 私は、日本の平和運動は、過去、中国についてきびしい態度をとってこなかった、融和的態度をとったり、沈黙でやりすごそうとしたりした、その誤りを今こそ是正すべきである、と強く訴えているつもりですが、それについての反響は、はかばかしくありません※14。

 私は、21世紀になってからの私の関与した以下の事件、日本の平和運動の負の歴史に照らして主張しているのです。

▽2003年:中国でイラク戦争反対の運動がおこり、日本への連帯が呼びかけられたが、日本国際法律家協会等をのぞいて日本の平和運動は無視
▽2005年:中国の反日デモ、日本の平和運動ではピースボートを除いて沈黙
▽2008年:チベット弾圧が発生、日本の平和運動のほとんどの団体が沈黙・保留、しかし宗教者を含め、多くの民衆が発言・行動
▽2010年:劉暁波のノーベル平和賞受賞支援運動は、アムネスティ等を除いて取り組まず


私は、今回の事件に対し、日本の平和運動が正しく取り組まなければ、拉致問題の二の舞になって、日本の平和運動は国民から見放されるぞ!と厳しく言いたいのです※15。

10月2日のデモについて国民の右傾化を心配するメールはネットに現れましたが、私は国民の右傾化を心配するよりも、日本を思う人たちとの連帯を考えるべきだと思うのです。10月2日のデモについては、以下のサイトを見てください。※16
http://dogma.at.webry.info/201010/article_2.html※17
http://www.melma.com/backnumber_45206_4985751/※18

 菅内閣と中国政府・中国共産党の合作による幕引き劇が展開されています。ビデオを非公開にすることと、中国監視船の尖閣周辺からの一時退去が交換条件にされたようです。しかし、「一件落着」と考えるのは禁物です。尖閣諸島をめぐる事件は、近いうちに再燃することは間違いないでしょう。来年6月には台湾・香港から600隻の漁船が出て尖閣上陸が試みられる、という噂もあります。それに、『週刊現代』10月16日号が警鐘を乱打したように、北海道、先端技術、遺伝子情報まで中国の買占めが進行しています。アメリカにも中国にも毅然とした平和国家の創造をめざして、大きく足を踏み出す時期が来たのです。※19
(2010年10月13日記)


引用者注

※1 「Hayariki様」・・・なんで河内謙策様は論争相手にはリンクをつけないのでしょうか?
※2 「テント村様」・・・なんで河内謙策様は論争相手にはリンクをつけないのでしょうか?
※3-1 「万国公法」時代の国際法ですが、それを遵守した「先占論」においても、日本側の主張は絶対ではありません。中国側の主張にも弱点がありますが。史実を贔屓目に見ずに公正な目で見たものがあります。http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/2878.htmlなど半月城さんの論考など。
※4 「卑怯です」こういう脅迫は、「領土ナショナリズム」の定番ワザですね。1センチ1ミリまでもを際限なく争う「領土戦争」嗾けの常套句ですね。
※5 「中国が1971年まで沈黙を守っていたり」・・・日中国交回復以前ですね、それまで「交渉の場」はあったのでしょうか? 我が国に詳細な中国報道もなかったはずです。1920年の感謝状は台湾も日本国領であった時代です。中華民国政府が台湾を日本領と認めていながら、尖閣列島だけを「中華民国領」だというわけがありません。
※6 『中国は「この事件を利用して一挙に北東アジアの覇権確立を意図している」と判断してきました』・・・このドグマは「頑張れ日本!全国行動委員会」代表の水島総氏の文章がより明示的です。
http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/2833.html
※8 Gさんにもドグマがないとはいえませんが、河内謙策さんの単純ドグマに陥らなかっただけではないでしょうか。
※9 『世界の国が「日本は平和国家なのか、単に馬鹿な国家だけではないのか」という疑惑を招きます。』・・・これは1960年代からの憲法9条攻撃の定番ですね。
※10 『きびしい国際政治の中で9条がどういう意味をもっているのか、積極的な提示がなければ、国民は9条に絶望するでしょう』・・・・河内謙策さまからの積極的な呈示はないのですか?
※11 この長い引用はこちらのようです。http://yo3only.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-a060.html リンクは筆者の責務です。
※12 『国家にとりこまれるな、国家から離れろ、というだけでは、民衆はそのような運動を見捨て、一部の人間の自己満足に終わってしまうでしょう』 領土ナショナリズム狂想曲がなってる中ではその惧れは確かにありますね。ですから、平和主義者はその熱狂の火消しに廻るべきなのです。
※12-2 1990年代に「社会主義の理念が崩壊」して「国を愛する基本」に立ち返った河内謙策さんが、今更レーニンを引くのは何故ですか?
※13 『今回の問題でも、中国覇権主義に反対する東アジア的規模での民衆の共同闘争を呼びかけるべきだと思うのです』・・・「頑張れ日本!全国行動委員会」が既に呼びかけています。河内謙策様は参加しなかったのでしょうか?
※14 河内謙策様は、「日本の平和主義者の悪しき心を矯正するために神が使わしたmissionary」殿なのでしょうか?
※15 さてこれは事実といえるのでしょうか? 「守る会」「家族会」の制裁一辺倒の運動は今行き詰まっています。外交チャンネルをすべて破壊してしまったからです。北朝鮮とは、国交回復と併行して対話をすべきです。北朝鮮が好きだからではありません。
※16 河内謙策さんはなぜそのデモに参加しなかったのですか?
※17 サイト名は『東アジア黙示録』です。
※18 ここは宮崎正弘氏のメルマガです
※19 平和主義者は、「領土問題」という火種に対しては徹底して「火消し」に廻るべきです。河内謙策様は、その点まったく逆で風を煽って火勢を大きくしたいようです。


目安箱バナー