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尖閣列島沖漁船衝突事件 加藤哲郎さん(一橋大学名誉教授、早稲田大学客員教授)の見方と考え方‏ higashimoto takashi 2010/10/12

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尖閣列島沖漁船衝突事件 加藤哲郎さん(一橋大学名誉教授、早稲田大学客員教授)の見方と考え方‏ higashimoto takashi 2010/10/12


以下、「加藤哲郎のネチズンカレッジ」2010年10月1日付より尖閣列島沖漁船衝突事件に関する加藤哲郎さん(一橋大学名誉教授、早稲田大学客員教授)の見方と考え方をご紹介させていただきたいと思います(加藤教授の論は転載者の判断で読みやすさのために適宜改行しています)。
http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml

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 夏の調査旅行から帰国して1週間は時差ボケが直らず、昼夜逆転生活。おまけに重い資料を積み込んだスーツケースをかついでのドイツ国内鉄道旅行が効いてか持病の腰痛が再発、しばらく寝たきりのテレビ三昧で、日本という閉ざされた情報空間の「空気」が読めてきました。もちろん日本のマスコミは、尖閣列島沖漁船衝突事件をめぐっての日中関係の悪化、「固有の領土への侵入」「菅政府の弱腰」「検察への政治介入」「中国政府の横暴」を大きく報じています。でも、どうも英語・独語メディアばかり見てきた流れでは違和感。中国で拘束された4人の日本人のうち3人が解放されたのは、「日本の主張を理解した国際世論の圧力」風の解説もありますが、本当でしょうか。

 一つは、尖閣列島は「日本固有の領土」で、それは国際法上も確立されたもの、だから中国人船員逮捕も「国内法に従い粛々と司法の手で」進めてきたという日本での話。ヨーロッパでのニュースでは、当初から「領土紛争」として扱われていました。試みに、Googleに英語でSENKAKUと打ち込んで出てくるニューヨーク・タイムズの記事。必ず「Senkaku/Diaoyu Islands」と、日本側呼称と中国側呼称を併記して ます。英独のテレビでも同じでした。より詳しいのは、英語版wikipediaのSENKAKU ISLANDSの項目。もちろん1895年以来の日本の主張も書いていますが、それには中国・台湾のDiaoyu Islandsについての主張が併論されています。つまり当事国以外にとっては、紛争・係争がある限り「領土問題」であり、日本の主 張が世界で認められているという前提で国際関係に立ち入ると、「日本海」と「東海」、「竹島」と「独島」、千島列島と同じような、国際政治の力学にさらされることになります。

 もちろん中国が台湾を自国の一部とみなし、ソ連やベトナムと領土をめぐる戦争まで踏み込み、周辺諸国とさまざまな紛争を抱えていることも、世界的には常識です。けれども、それらは平和的交渉で解決されることが望まれるだけで、実際には第3国にとっての地政学的距離や外交的・経済的利害によって動かされます。中国がいまや日本をしのぐGNP大国であり、ヨーロッパ経済にとっても危機脱出のための重要なパートナーであることや、3代世襲を世界に表明した北朝鮮と同じように一党独裁の「社会主義」を名乗る国であることも、当然顧慮されます。他方で、日本がドイツと同じく第二次世界戦争の敗戦国でありながら、EUの一員となったドイツとは異なり、戦後の近隣諸国との関係で多くの紛争を抱えていることもよく知られています。つまり、日本が「固有の領土」を強調すればするほど、ヤルタ会談・サンフランシスコ講話・沖縄返還からさかのぼり、日中戦争・「満州事変」・朝鮮植民地化から日露・日清戦争、台湾出兵・琉球処分にいたる日本の過去への国際的再点検が始まり、日本政府の歴史認識が試されることになります。

 世界からは「領土問題」として見られているという点を直視しないと、具体的問題での外交処理も難しくなるでしょう。つい先日中国から帰国した友人の話では、日本に詳しい中国知識人は、ウェブで全文がすぐ読める井上清『「尖閣」列島ーー釣魚諸島の史的解明』(初版1972/再刊1996)を参照し引用しているとのこと。かつての著名な歴史学者の著書で、「戦後歴史学」の責任も問われているのです。

 もう一つ、気になったのは、日本の外務大臣が強調する、アメリカ政府の「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象になる」という言明。クリントン国務長官の話で、アメリカ軍が尖閣列島を守ってくれる、沖縄海兵隊が「抑止力」、だから普天間基地辺野古移転日米合意を堅持し「思いやり予算」も今まで通りで、とエスカレートしていますが、実際には、クローリー国務次官補の言う「対話の促進および問題が速やかに解決されることを希望する」という部分が主眼で、むしろ「尖閣諸島の領有権についての米国の立場は示さない」という態度であったと考えられます。つまりPeace Philosophy Centreが詳しく解明しているように、「施政権」が日本にある限り日米安保の対象とするが、「主権=領土」の問題には立ち入らないと言明されたことになります。

この点に踏み込んだ、ウェブ上の岩上安身による孫崎亨長時間インタビューは秀逸。日米安保は2005年の「日米同盟:未来のための変革と再編」の戦略的合意で実質的に変質したという、孫崎『日米同盟の正体』(講談社現代新書)の延長上で、たとえ安保条約の適用範囲でも、尖閣列島で軍事紛争が起きても第一義的に日本の防衛に任され米軍は出動せず、戦争まで拡大すると今度は米国議会の承認を必要とする事案となる、と説得的に論じています。確かに外務省ホームページの訳文でも、「日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する」とあります。尖閣列島は「島嶼部」です。ここでも米国にとっての中国と日本の戦略的重要性がポイントで、菅首相や前原外相が頼りにするほどにはアメリカは守ってくれない、というわけです。11月沖縄知事選に向けて、現職仲井真知事が再選出馬にあたって普天間「県外移転」を正式に表明しました。第二次菅内閣は、発足したばかりで外憂内患、四面楚歌です。
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井上清著の『「尖閣」列島ーー釣魚諸島の史的解明』(初版1972/再刊1996)(※→WEB上に全文があります)はCML 005872で岡山の野田さんが「大変、説得力をもつ論文」という詞書を添えられて紹介の労をとってくださっていましたので、私も読みました。そして、領有権と先占権についての私のこれまでの考え方がきわめて視野の狭い見方であり、考え方であったことに気づかされました。故井上清教授は日本外務省と日本共産党の領有と先占の考え方について完膚なきまでに徹底批判しています。

■「尖閣」列島 ――釣魚諸島の史的解明(井上清 初版1972/再刊1996)
http://www.mahoroba.ne.jp/~tatsumi/dinoue0.html

先に中国側サイト(注1)で紹介されている井上教授の主張と「尖閣諸島問題」のホームページ及び「日本の領有は正当 尖閣諸島 問題解決の方向を考える」という赤旗の論評を読み比べて比較考証した際には気づかず、「尖閣諸島問題」の「中国の文献」(注2)の記述及び「尖閣諸島は明代・清代などの中国の文献に記述が見られますが、それは、当時、中国から琉球に向かう航路の目標としてこれらの島が知られていたことを示しているだけであり、中国側の文献にも中国の住民が歴史的に尖閣諸島に居住したことを示す記録はありません」という赤旗の論評(注3)の方に正しさを感じていたのですが、改めて故井上教授の上記論文の全文を熟読して井上教授の論の正しさを確認するに到りました。

尖閣諸島の領有に関する故井上教授の主張の要点は、下記の解釈の徹底さと正しさにあるように思います。

(1)『使琉球録』(1534に中国の福州から琉球の那覇に航した明の皇帝の冊封使陳侃著)の「乃属
琉球者」(乃チ琉球ニ属スル者ナリ)の解釈
(2)『重編使琉球録』(1562年に冊封使となった郭汝霖著)の「界琉球地方山也」(琉球地方ヲ界ス
ル山ナリ)の解釈
(3)『籌海図編(胡宗憲が編纂した1561年の序文のある巻一「沿海山沙図」の「福七」~「福八」に
出てくる「これらの島々が、福州南方の海に、台湾の基隆沖から東に連なるもので、釣魚諸島をふくんでいることは疑いない」という解釈
(4)『使琉球雑録』巻五(1683に入琉清朝の第2回目の冊封使汪楫の使録)の「中外ノ界ナリ」の解

(5)『中山傳信録』(1719年に入琉した使節徐葆光の著)の姑米山についての「琉球西南方界上鎮
山」の解釈

注1:日本人学者が考証 「釣魚島は古来より中国の領土」
http://j.peopledaily.com.cn/94689/94696/7142418.html
注2:『尖閣諸島問題』「中国の文献」 
http://www.geocities.jp/tanaka_kunitaka/senkaku/
注3:赤旗論評「日本の領有は正当 尖閣諸島 問題解決の方向を考える」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-09-20/2010092001_03_1.html

そうして故井上清教授の論の徹底性と正しさに学びながら、杉原さんがCML 005837で紹介されている「他国の手が及んでいない領土を先に発見したり、先占したりすることでそれを自国領だと宣言しうるという発想そのものを俎上にのせる必要がある」(『北方領土問題』、岩下明裕、中公新書)という考え方などにも学び、尖閣沖中国漁船衝突事件によって改めて、あるいはにわかにクローズアップされるようになった尖閣諸島の領有権の帰属の問題、また「先占」取得に関する現在の国際法法理は、国際社会における最高意思の主体を国家とみなす1648年以来現代まで続いているウェストファリア体制(国民国家体制)のパワー・ポリティクスに基づく法理といわなければならないものであること。17世紀以来のパワー・ポリティクスに基づく「国家主権」を結果的に優先させてきた古い時代の法理(その法理は、近現代の植民地主義・帝国主義の国際法上の法理としても当然通用してきたわけですが)に基づく国際法を根拠にして「先占」取得の正当性を主張するたとえば外務省や日本共産党の考え方はいまや時代錯誤の考え方というべきであり、早急に改められなければならない考え方というべきだろう、ということに気づかされました。

私の先のメール(CML 005758)における「先占」取得に関する国際法法理を支持する考え方は、まったく視野の狭いものでした。領有権と先占の問題について先のメールで述べた私の考え方は誤りであったことを認め、改めたいと思います。


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