15年戦争資料 @wiki

rabe11月22日

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pipopipo555jp

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十一月二十二日

靴屋め。くたばっちまえ ! 空襲警報が鳴ると、そらきた、とばかり、かみさんや子ども、じいさん、ばあさん、それから何だかしらないが一族郎党ひきつれて逃げこんでくるくせに、防空壕が八十センチ近くも水に浸ったとなると、水汲みだといっても知らん顔。顔も出しやしない。いまに見てろ!

ローゼンから電話。空き家になった大使館で十時にここに残っているドイツ人たちで、今後の身の振り方を話し合いたい由。その前にと、うちのメンバーをかき集めた。防空壕の水を汲み出さなければ。さっきあんなふうに書いたが、靴屋のことは水に流そう。かみさんと三人の子ども、それから六、七人の親戚がかけつけてせっせと水を汲み出しはじめたのだ。とうとう水はなくなった。ところが、なんと西側の壁が崩れているではないか。がっくりした。

空襲の間にドイツ大使館でローゼンと話す。それはそうと、ローゼンはあいかわらずここにいる。私の取りなしは効果がなかったのだ。

十七時に、国際委員会の会議。南京の非戦闘員のための中立区域設置の件。私は「代表」に選ばれてしまった。辞退したが押し切られた。良いことをするのだ、受けることにしよう。どうか、無事つとまるように。責任重大だ。

ドイツ大使が船で帰る直前、委員会の事務局長のスマイス教授を紹介することができた。大使は委員会から日本大使にあてた電報を読んで同意してくれた。これはアメリカ大使館の無線を通じて、上海のアメリカ総領事館から発信される。イギリスとアメリカの大使にはすでに承認してもらった。話し合った結果、上海の日本大使館に届くまで、電報の内容は公開しないことになった。これが無駄にならないよう、祈るばかりだ。フランスの委員はいない。それはここにフランス人がいないからで、イタリア人も同じだ。英語の電報の内容は要約すると次のようになる。

デンマーク、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国の各国民によって構成される当委員会は、国民政府と日本政府に対し、南京市内ないしはその近郊で戦いが勃発した場合にそなえて、難民のために安全区の設置を提案する。

国際委員会は、次の点を国民政府に保証してもらうことを約束する。軍事交通局を含むあらゆる軍事施設を「安全区」から撤退させ、非武装地帯とし、ピストルを装備した民団警官のみを置く。また、その場合、すべての兵士およびあらゆる階級、身分の士官の立ち入りは禁止される。国際委員会は、これらが遵守され、滞りなく遂行されるよう配慮する。

国際委員会は、日本政府が人道的理由から安全区を尊重するべく配慮してくれるよう願っている。そのような慈悲深い措置こそ、責任ある日中両国政府の名誉となると信ずる。国民政府との交渉をできるだけ早く成立させ、難民保護のために必要な準備を整えられるよう、日本当局のすみやかな回答を切望する。

会議から帰ると、ボーイの張が待っていて、医者を呼んでほしいという。かみさんの具合が悪いらしい。ヒルシュベルク先生の診察の結果、数日前流産したことがわかった。すぐに鼓楼病院につれて行かなければ。



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