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「沖縄戦」展示を史実を正確に反映したものに改めるよう求める要請

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国立歴史民俗博物館における「沖縄戦」展示を、歴史研究にもとづき 史実を正確に反映したものに改めるよう求める要請


2010年3月15日
国立歴史民俗博物館
館長 平川 南 殿
             沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会
            大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会
                    大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会
                           子どもと教科書全国ネット21
                             日本出版労働組合連合会
                       連絡先;子どもと教科書全国ネット21
             〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-6-1 小宮山ビル201
                    ℡:03-3265-7606 Fax:03-3239-8590

国立歴史民俗博物館における「沖縄戦」展示を、歴史研究にもとづき
史実を正確に反映したものに改めるよう求める要請

国立歴史民俗博物館が、歴史の学習を学校で、また社会でひろめるために、多大な努力を積み重ねてこられたことに心から敬意を表します。

私どもの団体は、教科書問題などにとりくんできた多くの歴史研究者・歴史教育者もかかわっている団体です。これまでの国立歴史民俗博物館の業績を多少なりとも知っているだけに、今回の沖縄戦展示をめぐる問題については、驚きを禁じ得ませんでした。そのような立場から、以下の通り要請をさせていただきます。どうか私どもの意のあるところをお汲み取りくださって、要請に応えてくださいますよう、お願い申し上げます。

国立歴史民俗博物館は3月16日にオープンする新設の常設展示室「現代」の展示概要を3月8日の記者会見で発表されました。それに関する報道によれば、沖縄戦のいわゆる「集団自決」について、その背景に「住民への軍国主義教育や、軍人からの指示・命令など、住民の意思決定を左右する戦時下のさまざまな要因があった」という要旨の当初の解説記述を改め、「軍人」や「軍国主義教育」という用語を使わずに単に「『集団自決』に追い込まれた人びともいた」との記述に改めたということです。同時に「集団自決」という項目名がなくなり、上記の変更後の解説文は「戦場の民間人」という項目の中におかれるようになったともいわれております。しかしこれでは誰によってどのような要因で「集団自決」に追い込まれたのかがまったく示されないことになり、日本軍の強制・命令はもちろん、日本軍のさまざまな関与さえもすべて否定されたことになってしまいます。

このように展示解説を変更した理由として、軍命の有無をめぐって係争中の大江・岩波沖縄戦裁判の最高裁判決が確定していないことや、社会的に意見が分かれる問題であることなどがあげられています。

しかし本来、歴史博物館の展示にせよ、教科書にせよ、歴史記述は歴史の専門家ではない裁判所の判決に依拠すべきものではなく、あくまでも学問研究の成果にもとづいて記述すべきものであることは自明のことです。かりに裁判所の判決が一定の社会的影響力をもつことを考慮するとしても、大江・岩波沖縄戦裁判では、大阪地裁・大阪高裁の判決において、軍命はなかったとする原告側の主張はことごとくしりぞけられ、高裁で原告側から新たに出された陳述については「虚言」とまで断じています。判決は戦隊長の直接命令の存在までは断定しなかったものの、軍命があった可能性は十分にありうることも示唆しています。原告の上告理由書でも事実関係は争わないとしています。最高裁は基本的に事実審理を行わないという原則に照らせば、軍命はなかったとする主張をしりぞけた高裁判決は、事実認定に関する限り事実上の確定判決とみなすべきものであり、最高裁判決の未確定が展示解説変更の理由とはなりえないことは明らかです。

また、2005年度検定に合格した2007年版までの大部分の高校日本史教科書では、「集団自決」が軍の強制によるものであることが示されており、2006年度検定で軍の強制を削除させられた日本史教科書の場合も、2007年末に認められた訂正申請の結果、「日本軍によって『集団自決』においこまれた」、「日本軍の関与のもと、『集団自決』に追い込まれた」、日本軍の指導や手榴弾の配布などの「強制的な状況のもとで、集団自害と殺しあいに追い込まれた」など、「集団自決」の背景に日本軍の存在があったと明記されています。検定による制約によって執筆者の意志が十分に反映した記述とはいえないとしても、このような教科書記述の状況は、これまでの沖縄戦研究の成果を反映したものであり、それは文科省といえども否定できなかったことを示しています。そのことは、「集団自決」に日本軍の強制ないしは少なくとも関与があったのか、それとも一切関与がなかったのかという問題は、もはや社会的に意見が分かれている問題とはいえないことを示しています。したがって、展示解説の変更の理由として、社会的に意見が分かれる問題だとすることには、全く根拠がないことは明らかです。

教科書記述の一般的状況とも大きく隔たることになった今回の展示解説の変更は、最近の沖縄戦検定問題を契機に新たに語りはじめた体験者の証言も含め、沖縄戦研究の最新の成果を反映していないものといわなければなりません。よって、今回の展示解説の変更は、あくまでも学問研究の成果に立脚して展示を行うという博物館としての基本的使命をないがしろにしたものといわざるを得ません。

また、このような学問研究の成果に立脚しない展示の変更をあえて行ったことによって、将来にわたり、歴史を歪曲する勢力による博物館事業への政治的介入を誘発することが危惧されます。それらの点での他の博物館への影響も軽視できない問題です。

同時に私たちは、今回の問題が単なる一博物館の問題ではなく、その根源には、歴史歪曲勢力が博物館や教科書に対して戦争の美化を要求してきた年来の一連の攻撃があると考えます。このような歴史歪曲をきびしく批判し、その根源をなくす運動にも一層の力をそそぐ必要があるとも考えています。

平川南館長は、意見が分かれる問題については、今後、新しい研究の成果を順次反映させていきたいと述べておられ、今後の展示解説の改善についても含みをもたせておられます。ただし、今回の問題は新しい研究成果を待つ問題ではなく、すでにあるこれまでの研究成果を反映すればすむ問題だと考えますが、いずれにしても、改めるべきところは一刻も早く改める必要があるのではないでしょうか。

以上述べてきたことをふまえ、私たちは国立歴史民俗博物館に対し、次の通り要請するとともに、私たちもそのための協力を惜しまない意志を表明するものです。

  1. 国立歴史民俗博物館がこれまではたしてきた、またこれからはたすであろう大きな役割を深く自覚され、歴史の真実を学びたいという人々の願いにこたえ、沖縄戦に関する展示を歴史研究の成果にもとづき史実を正確に反映したものに一刻も早く改めること。
  2. 歴史をゆがめようとする外部からの圧力に対しては、今後も学問研究を守る立場から毅然と対処すること。

以上


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