十一月三十日
韓に家族を連れて越してくるようにいった。一家はいま学校で暮らしている。台所や風呂場は韓が作らせた。韓の友人で怡和通レンガ工場の経営者、車を贈ってくれた孫さんも越してきた。新しい防空壕はまだできあがらない。全力をあげているのだが。ゆるく積み上げた煉瓦壁(セメントがないので両側を厚板で補強してある)がひとつあるほかは鉄板を使った。だれが調達してきたのかはわからない。とにかくそこにあったのだ。ほかにもいろいろそういう物がある。おかげでわが家の庭はすさまじいことになっている。水道がとまりはしないかと心配だ。トラックで大型の貯水タンクを運んでこなくては。灯油も買った。ロウソクも。石炭は約1ヶ月分ある。
一晩かけて予備の注射器を煮沸消毒した。器具一式と、インシュリンのアンプル三個を肌身離さず持ち歩いている。張のかみさんはまだ入院している。コックの層も入院中だが、こちらは快方に向かっている。せっせと薬を飲んでいる。効くと信じているが、理由は簡単、まずいからだ!
蕪湖から医者のブラウンさんとフランス人の神父さんがやってきた。蕪湖でも安全区を設けるつもりなのでいろいろ知恵を貸してもらいたいという。だがこちらも途方にくれている有様なのだ。
まだ残っている住民の数をもう少し正確につかまなければな。「正確な」情報を教えてくれるといっていた男、すなわちかつての警察庁長王固盤が逮捕されたという噂が、たった今飛び込んできた。自分は軍人ではないから任ではないといって辞任したのだったが。
スマイスから電話。南京市には六万袋、下関には三万四千袋の米があるとのこと。おそらくこれで足りるだろう。今不足しているのは仮の宿泊所、つまり藁小屋に使う筵だ。この寒空に、なんとかして泊まれる場所を確保しなければならない。
以下は国際委員会が抱えている課題である。
- 資金の調達
- 警察
安全区入り口の検問
境界の警備
警察官の総数とその宿泊施設の整備 - 兵士と軍人たち
撤退の指令と視察
すでに始まっている脱走兵の対策
負傷者の看護 - 食糧の配給
食料の管理
食料の貯蔵と分配 - 輸送と輸送手段
- 避難民の収容施設
見張り
建物の使用と管理
(a)公共の建物(政府の)
(b)学校や伝道団の建物
(c)空き家、藁小屋 - 公共施設
水道
電気
電話 - 衛生設備と健康管理
仮設便所
ゴミと糞尿の運搬
病院と医療設備
次に南京安全区委員会のメンバーリストを記す。
名前 | 国籍 | 所属 |
ジョン・ラーベ(代表) | ドイツ | ジーメンス洋行 |
ルイス・S・C・スマイス(事務局長) | イギリス | 金陵大学 |
P・H・マンロ=フォール | イギリス | 亜細亜火油公司 |
ジョン・マギー | アメリカ | アメリカ聖公会伝道団 |
☆P・R・シールズ | イギリス | 和記公司 |
☆J・M・ハンソン | デンマーク | 徳古士煤油公司 |
☆G・シュルツェ・パンティン | ドイツ | 興明貿易公司 |
☆I・マッケイ | イギリス | 太古公司 |
☆J・V・ピッカーリング | アメリカ | 美孚煤油公司 |
エドゥアルト・シュペアリング | ドイツ | 上海保険公司 |
M・S・ベイツ | アメリカ | 金陵大学 |
W・P・ミルズ | アメリカ | 長老派教会伝道団 |
☆J・リーン | イギリス | 亜細亜火油公司 |
C・S・トリマー | アメリカ | 鼓楼病院 |
クリスティアン・クレーガー | ドイツ | カルロヴィッツ・南京(礼和洋行) |
ジョージ・フィッチ | アメリカ | 基督教青年会(励志会) |
☆印をつけた人は、包囲される前に、南京を去っている。
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