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日中歴史報告書 違い認め研究深めよう

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日中歴史報告書 違い認め研究深めよう

'10/2/2



 歴史を重んじるとされる中国では長く、王朝の正史は滅亡後の次王朝によって叙述されてきた。時の政治に翻弄(ほんろう)されず、史実をできるだけ客観的に記録しようという知恵かもしれない。

 あえてこの伝統に挑んだのが、日中両国の有識者による歴史共同研究委員会の試みだろう。だが報告書の大要と公表の経過をみる限り、焦点の近現代史分野ではやはり政治の翻弄を免れることはできなかったようだ。

 それでも見解の相違を含めて、研究と討議の結果を発表したこと自体、歴史認識をめぐる両国民の感情的な対立を克服する上で一定の意義があると評価できる。

 共同研究は、小泉純一郎元首相の靖国参拝や国連安保理常任理事国への立候補に絡む中国での反日騒動をきっかけに、日本側から提案。歴史への客観的認識を深め、相互理解を増進しようと、2006年12月に始まった。外交上の懸案処理が動機につながっている以上、史実を純粋に解明するのが難しかったのは当然だ。

 「南京大虐殺」一つとっても犠牲者数が双方で大きく異なった。しかし歴史認識の隔たりや両者の溝を、悲観的に受け止める必要はあるまい。

 むしろ日中戦争の全体像について日本側が「戦場となった中国に深い傷跡を残した。その原因の大半は日本側がつくり出したと言わざるを得ない」と責任を明記したのは重要で、日本国内での歴史論争にとっても有益な視点だろう。中国側が盧溝橋事件を「偶発的に起きた可能性がある」と認めたのも、共同研究の成果である。

 戦後史は中国側の反対で公表されなかった。天安門事件など民主化運動弾圧の正当化が示すようにこれこそ時の政治に密接にかかわる。ただ日本側からみると、この時代の日中関係については豊富な史料と詳細な研究の蓄積がある。外交上の配慮を別にすれば、実際の研究に影響はなかろう。

 双方の座長は今回の報告を第1期とし、第2期の研究を継続する意向という。未公表部分の公開や双方の評価が異なる論点の解明を含め、互いの研究を共同で深める姿勢として歓迎する。

 その際、この報告書を外交文書としてではなく、両国が歴史認識を深める過程での共同研究論文として扱うのが好ましい。

 中国側に理解を求めたい。日本国内には史実の評価をめぐり多様な見解が存在し、時に激しく争っている。政府が取り締まることはできない。感情的なアジテーションは論外として、それぞれの立場や姿勢の違いを受け入れてこそ、揺るがぬ史実を認識することができるし、未来志向の両国関係を構築することにつながる。

 日本国内では、史実の評価以前に近現代史の基本的な知識をもっと身につけることが課題だろう。学校教育などで充実を図るべきだ。戦争や外交の分野では相手側の見方も知り、客観的な認識を深める必要がある。国際社会に生きる日本人の常識としたい。


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