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古代・中近世史 総 論

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古代・中近世史 総 論



日本と中国の関係は古来非常に密接で、しばしば「一衣帯水」と形容された。両国の関係には、例えば文化やヒトの交流といった積極的な面もあれば、また戦争や侵略という不幸が起きたこともある。2006 年12 月に発足した日中歴史共同研究における古代・中近世史の研究では、日中両国の古代・中近世史のうち、日中交流を中心とした各種の問題を全般的に考えると同時に、日中両国の東アジア地域史と世界史における地位と影響を全面的に理解することにも努めた。

この歴史共同研究が進む中、胡錦濤国家主席は2008 年5 月に訪日して福田康夫総理大臣と会談し、ともに「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を発表した。その中では、「双方は、日中関係が両国のいずれにとっても最も重要な二国間関係の一つであり、今や二中両国がアジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した。また双方は、長期にわたる平和及び友好のための協力が日中両国にとって唯一の選択であるとの認識で一致した。双方は『戦略的互恵関係』を包括的に推進し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現していくことを決意した」と記された。両首脳はまた「双方は歴史を直視し、未来に向い、日中『戦略的互恵関係』の新たな局面を絶えず切り開くことを決意し、将来にわたり絶えず相互理解を深め、相互信頼を築き、互恵協力を拡大しつつ、日中関係を世界の潮流に沿って方向付け、アジア太平洋及び世界の良き未来を共に創り上げていく」ことを宣言した。また双方は共同プレス発表で「日中歴史共同研究の果たす役割を高く評価し、今後も継続していく」とした。

両国首脳によって高く評価される中で、古代・中近世史分科会の両国の研究者は、最も重要な経験は研究過程における率直さと公平性であると認識し、終始謙虚な姿勢でこのために努力してきた。もちろん、これは双方の研究者がある問題について関心の持ち方や処理方法が異なることを排除するものではない。

しかし、双方で歴史の出来事の見方や評価が分かれるときには、唐代の歴史家、劉知幾が言うところの「他善必称、己悪不諱(他の善い点は必ず賞讃し、自らの悪い点は隠しだてしない)」との主張に従ってきた劉知幾は『史通』(巻七「曲.篇」)で「遠い昔、諸侯は互いに覇を争い、勝負の行方は定まらなかったが、その当時の史家は、他国の善い点は必ず賞讃して書き、自国の悪い点は隠しだてすることがなかった」と述べている。

すなわち古代・中近世史分科会の両国の研究者たちは、共同研究をより実り豊かなものとするために、東アジア地域史や世界史の文脈で日中両国の歴史を多面的な角度から眺めるなどして、相手側の長所を掘り起こすことに努めると同時に、自らの欠点を隠そうとはしなかった。こうした広い視野は、上記の「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」の精神とも通底しており、新しい時代の日中歴史共同研究にふさわしい成果をもたらす基礎でもあったのである。

包み隠さず言うならば、歴史の過程にはいつも積極的な面と消極的な面の二つが存在するため、双方の研究者が選択的に叙述し、いずれかの面に重きを置いて分析すると、隔たりや異なる点が出てくるのは免れない。研究者が個人の認識を強調するのも正しい現象である。歴史の事実を見るときに、われわれは「実事求是(事実にもとづいて真実を求める)」の原則に極力従おうとする。双方共に、歴史は真っ暗な世界を無数のランプで照らし出すようなもので、はっきりしているところもあるとはいえ、やはり光の届かない曖昧模糊とした部分もあると考えている。古代・中近世史という史料の限られた分野で、そうした曖昧な部分について主観的な推測と判断で満足することは当然できない。古代・中近世史研究とは、史料を掘り起こし、疑問を消し去り、そのうえで判断の正確性を高めていく過程の中で一致した認識である。

本報告書の作成に向けて、双方の研究者は相手側の歴史認識を相互に理解することを基礎として、真剣に、率直に討論し、共通するテーマについて論文を執筆し、これまでにない貴重な経験を積み重ねた。これは大変有益な作業であった。古代の中国は世界史の大きな文化の中心として、四方にその文化を伝え、周囲の国々の文化に影響を与え、新たな文化を形成させる刺激を与えたりした。

古代・中近世史分科会の日本側の学者は、中国文化の伝播と影響という観点を十分に重視し、中国側も日本文化の独自性と創造性について十分に評価し、双方は共に、両国の文化が相互に影響し刺激し合った歴史的プロセスにも大いに関心を寄せた。

ドイツ生まれのユダヤ人政治哲学者、ハンナ・アーレント(Hannah Arendt)によれば、ヨーロッパでいう世界史とはもともとギリシア人の理解の天分から生まれた。彼らは自分で直接世界を観察する力を持っていただけでなく、自分と意見が異なる人の世界に対する認識を理解することができ、ゆえに間接的に理解する能力を備えていた(『思索日記』I)。「自分の意見と異なる意見」の尊重こそ日中歴史共同研究において古代・中近世史の研究を成功させる条件でもあったと言えるかもしれない。これはまさしく「実事求是」の精神を体現している。この精神に立った本報告書は、不十分な点があるかもしれないが、日中両国歴史家の3年にわたる努力の結果であることを読者にご理解いただけるよう期待する。


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