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台湾で広がる困惑 日本の植民地統治を批判 NHK番組

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朝日新聞9月16日朝刊「メディアタイムズ」

台湾で広がる困惑 日本の植民地統治を批判 NHK番組



日本が台湾を植民地統治した歴史について批判的に検証したNHKスペシャル「JAPANデビュー アジアの 〝一等国〟」(4月5日放映)に対し、台湾で困惑や不満の声が広がっている。60年余りが過ぎても台湾での日本統治への評価や感情に複雑なものがあることをうかがわせている。(台北=野嶋剛)

登場の先住民族「説明なかった」


NHKは4月から長期企画「プロジェクトJAPAN」を始めた。近代日本が欧米に追いつこうとして孤立し、戦争に突入した歴史を描くシリーズ「JAPANデビュー」はその一環で、台湾部分はシリーズ第1回。日本統治下の差別、抵抗運動への弾圧、皇民化教育に焦点を当てた。

これに対し、台湾で「内容が偏っている」と番組への抗議行動が広がり、日本語教育を受けた世代の親睦会「友愛グループ」や短歌愛好者で作る「台湾歌壇」は抗議や訂正要求をNHKに送った。

日本では自民党の一部が「反日的な番組」と批判を展開。小田村四郎・元拓殖大学総長ら約1万人が1人あたり1万円の慰謝料を求める民事訴訟を東京地裁に起こし、近く弁論が始まる。一方、日本ジャーナリスト会議は「表現の自由への恫喝と干渉にあたる」と表明。民間団体「開かれたNHKをめざす全国連絡会」も「放送の自由の守り手として責務を果たすべきだ」とNHKを支援する側に立った。

議論を呼んだ番組内容の一つが、1910年、台湾の先住民族パイワン族の人々をロンドンの日英博覧会に連れて行った経緯を検証する「人間動物園」と題した部分。NHKは渡英した人々の出身地、屏東県高士村(パイワン語名=クスクス村)を取材した。

当時の欧州に植民地文化を見せ物的に取り上げる風潮があったのは事実だ。しかし村長の荘来金さん(50)は「先達が海外で我々の文化を広めたことは村の誇りとして語り継がれている」と話す。村民のこうした感情は番組で紹介されなかった。

渡英した男性の娘、高許月妹(同=チャバイバイ・バブア)さん(79)は番組の中で父親の写真を見て涙を流し、パイワン語で語る。「悲しいね、この出来事の重さ、語りきれない」と字幕が出た。

だが、朝日新聞の取材に高許月妹さんは「涙を流したのは父を懐かしく思ったから」と話した。パイワン語の専門家が発言を改めて訳したところ「何と言えばいいか。(父のことは)よく分からない」となり、字幕とは符合しない。番組では発言の背後で「この重さ、話しきれないそうだ」と日本語の声が流れるが、これは日本語が分かる近所の男性の声だった。

高許月妹さんは「取材趣旨の説明はなく、突然来て父親の写真を見せられただけ」と話す。NHKは「発言と字幕は違っていない。見せ物になったこともディレクターが説明した」と反論している。

「日本の功罪五分五分」複雑な感情も


日本の先住民族政策は強硬、懐柔の両面があり、台湾側の対日感情もない交ぜになっているところがある。

台湾・中央研究院助理研究員の黄智慧氏によると、日本の統治下で漢族の抗日運動が終息した後も一部先住民族の抵抗は続いた。1930年には日本人警官の粗暴な振る舞いに反発した先住民族が大勢の日本人を殺傷する「霧社事件」が起きた。

一方で日本は、恭順の意を示した先住民族には民生の充実を図った。今も日本語を使い、日本統治時代を懐かしむ高齢者は少なくない。

感情の複雑さは、高等教育を受けた人々も同様だ。

日本人と一緒に学校に通った元医師の柯徳三さん(87)は番組で、教育における台湾人差別を非難する発言を紹介された。ところが本人は「取材で日本統治をどう思うかと聞かれ、私は『功罪が五分五分』と話した。社会建設や教育の普及を評価したのに、功績の部分は完全にカットされた」と言う。

柯さんは抗議文を送ったが、NHKは「発言の趣旨を十分に反映している」と反論、主張は平行線だ。

台湾総統府直属の研究機関「国史館」の林満紅館長は「日本は台湾をアジア進出の拠点とし、台湾人は二等国民として差別を受けた。しかし、日本が台湾経営に力を注ぎ、中国大陸やアジアの国々と比べ豊かで安定していたことも事実。一方的な肯定や否定は適切ではない」と話している。


NHK「誤った情報が流布残念」


「JAPANデビュー」を担当した河野伸洋・NHK放送総局エグゼクティブプロデューサー(55)は朝日新聞への文書回答で「誹謗中傷、歪曲ともいえる誤った情報が一部に流布している」と反論した。(編集委員・川本裕司)

──日本の台湾統治の負の側面を描くのが狙いだったのですか。

「台湾の植民地統治についてこれまで伝える機会があまりありませんでした。今回、日本統治50年を記録した『台湾総督府文書』が保存されていることなどがわかり、番組が制作できると考えました」

──視聴者の評価は。

「ご意見の中に『こうした歴史を知ってこそ、台湾の人々とより良い関係を築いていける』というものがありました。私たちも日本と台湾の絆が深まることを願っています」

──自民党有志の「公共放送のあり方について考える議員の会」が発足したり、訴訟が起こされたりと異例の批判が展開されましたが。

「番組のホームページに、ご意見や疑問に対する説明を6月と7月に掲載しました。これに対して、事実に基づいた反論はいまだにありません。誤った情報をもとにして『内容が偏っている』『事実関係に誤りがある』『台湾の人たちへのインタビューを恣意的(しいてき)に編集している』などの批判があることはたいへん残念です」



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