15年戦争資料 @wiki

rabe12月21日

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pipopipo555jp

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十二月二十一日


日本軍が街を焼きはらっているのはもはや疑う余地はない。たぶん略奪や強奪の跡を消すためだろう。昨夜は、市中の六ヵ所で火が出た。

夜中の二時半、塀の倒れる音、屋根が崩れ落ちる音で目が覚めた。わが家と中山路の問にはもう一ブロックしか家が残っていない。もうすこしでそこに燃え拡がるところだったが、運良く難をのがれた。ただし、火花が舞い、飛び散っているので、藁小屋とガソリンはますます危険な状態だ。気が気ではない。何としても、ガソリンだけはどこかほかへ移さなくては。

アメリカ人の絶望的な気分は次の電報をみるとよくわかる。
南京、一九三七年十二月二十日、
在上海アメリカ総領事館御中。

重要な相談あり。アメリカの外交官、南京にすぐ来られたし。状況は日々深刻に。大使および国務省に報告乞う。
マギー、ミルズ、マツカラム、スマイス、ソーン、トリマー、ヴォートリン、ウィルソン。
一九三七年十二月二十日南京日本大便館御中。
海軍基地無線を通じて転送を要請します。
M・S・ベイツ
ほかに方法がないので、日本大使館に頼んでこの電報を送ろうというのだろう。だがこれでは何もかもつつぬけだ。日本は承知するだろうか?

それにしても、アメリカ人は非常に苦労している。私の場合は、ハーケンクロイツの腕章やナチ党バッジ、家と車のドイツ国旗をこれ見よがしにつきつければ、いちおうのききめはあったが、アメリカ国旗となると日本兵は歯牙にもかけない。今朝早く、日本兵に車をとめられたので怒鳴りつけて国旗を示したところ、相手はすぐに道を空けた。それにひきかえ、トリマーやマッカラムはなんと鼓楼病院で狙撃されたのだ。運良く弾はそれた。だが、我々外国人に銃口が向けられたということが、そもそも言語道断だ。これでは、アメリカ人の堪忍袋の緒が切れてしまうのも無理はない。しかも彼らは何千人もの婦女子を自分たちの大学に収容して面倒をみているのだ。

昨日、スマイスはこんなことをいっていた。いったいいつまで、ハツタリをきかせていられるのだろうか。その気持ちはよくわかる。われわれの収容所にいる中国人のだれかが、妻か娘を強姦されたといって日本兵を殴り殺しでもしたら、一巻の終わりだ。安全区は血の海になるだろう。つい今しがた、アメリカ総領事館あての電報が日本大使館から打電を拒否されたという知らせが入った。そんなことだろうと思っていた。

午前中にガソリンを残らず本部へ移させた。中山路でこれからまだ相当数の家が焼け落ちるのではない.かと心配だからだ。そういう火事の前兆はもうわかっている。突然トラツクが何台もやってくる。それから略奪、放火の順だ。

午後二時、ドイツ人やアメリカ人全員――つまり外国人全員が鼓楼病院前に集結して、日本大使館ヘデモ行進を行った。アメリカ人十四人、ドイツ人五人、白系ロシア人二人、オーストリア人一人。日本大使館あての手紙一通を手渡し、その中で人道的立場から以下の三点を要求した。
  1. 街をこれ以上焼かないこと。
  2. 統制を失った日本軍の行動をただちに中止させること。
  3. 食糧や石炭の補給のため、ふたたび平穏と秩序がもどるよう、必要な措置をとること。
デモ参加者は全員が署名した。

われわれは日本軍の松井軍の松井石根司令官と会談し、全員が彼と握手した。大便館では私が代表して意見を言い、田中正一副領事に、日本軍は町を焼き払うつもりではないかと思っていると伝えた。領事は微笑みながら否定したが、書簡のはじめの二点については軍当局と話し合うと約束してくれた。だが第三点に関しては、耳を貸さなかった。日本人も食糧不足に苦しんでいるので、 われわれのことなど知ったことではないというのだろう。

そのあと、まだ日本大使館にいるときに、海軍将校からローゼンの手紙を受け取った。彼は南京に非常に近いところに停泊しているイギリス砲艦ビーに乗っているのだが、まだ上陸を許されていない。これ以上多くの人間に事情を知られたくないのだろう。ローゼンはじめ、シャルフェンベルク・ヒュルターの両人がどうしてビーに乗っているのかわからない。福田氏にそのことをいうと、ジャーディン社の船が爆撃されて、沈没したのではないかと心配していた。


ローゼン書記官よりジョン・ラーぺあての手紙 南京を目前にして、一九三七年十二月十九日
イギリス砲艦ビー船上より

親愛なるラーべ氏、
昨日から南京市を目の前にしながら上陸することができません。
皆さんのご様子、それからドイツ人の家が無事かどうか、お知らせください。
なお、ここからは大使あてに無線で連絡がとれます。
当方にもいろんなことがありました。このことはいずれお目にかかった折にお話しします。
この手紙が日本軍を介して貴君に届くかどうかわかりませんが、とにかくやってみます(願わくは私への返事もうまくいくといいのですが)。
よろしく。ハイル・ヒトラー!   敬具
ローゼン

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