「政治的意図感じる」 つくる会教科書採択/教育関係者ら懸念


「集団自決」体験者も批判


 沖縄戦時、慶良間諸島で起きた「集団自決(強制集団死)」について日本軍の命令や強制に否定的な見解を示し、南京大虐殺などの記述を「自虐的」と主張する「新しい歴史教科書をつくる会」が執筆した中学・歴史教科書(自由社発行)を横浜市教育委員会が4日、採択したことに、「集団自決」体験者や教育関係者から批判と懸念の声が上がった。

 つくる会の教科書は沖縄戦について「(1945年)4月、アメリカ軍は沖縄本島に上陸し、ついに陸上の戦いも日本の国土に及んだ」と記述。教育関係団体などが、同年2月の硫黄島、3月26日からの慶良間諸島の戦闘を指摘し、「事実に反する」と批判していた。

 横浜市教育委員会の定例会を傍聴した琉球大学の高嶋伸欣名誉教授。訪れた約250人の市民の大半は会場に入れず、別室で音声だけを傍聴したという。高嶋名誉教授は、定例会では「教科書の実質的な教育効果や歴史的事実の内容について話し合われることはほとんどなかった」とし、「明らかに間違った記述のある教科書が採択されてしまった。歴史的事実を学ぶ『教育』とは別に、一定の思想を子どもたちに植え付けようという政治的な意図を感じる」と懸念した。

 「身を切る思いで証言した体験者の思いを踏みにじる悲しい判断だ」。座間味島の「集団自決」体験者の宮城恒彦さん(75)は、声を落とした。「わざと慶良間を除外し『集団自決』の事実を消そうとする教科書。合格にした文科省、採用した教委の責任は重い。戦争美化の動きが社会全体にじわじわと広がっていることが怖い」と指摘。一方で、「県民の怒りの底流は続いており、全国的な理解も深まっている。今回の採択をしっかり問題視し、声を上げるべきだ」と訴えた。

 2007年9月の教科書検定意見撤回を求める県民大会で副実行委員長を務めた玉寄哲永さん。沖縄戦の実態は「集団自決」の悲劇を隠しては語れないとし、「戦争できる国にしたい権力者と特定の政治思想を持つ集団が一緒になって、子どもたちにうそを教えようとしているのではないか」と不信感をあらわにした。

 「集団自決」をめぐる教科書記述で、軍の強制性を明確にするよう求める要請書を先月末、教科書各社に送付した一人、教科書執筆者の石山久男さんは、「不正常な状況で審議されたとしか思えない」と批判。子どもと教科書全国ネット21は同日、採択の撤回を要求する談話を発表した。

県内採択なし

 市町村教育委員会などによると、県内は来年度も現行の教科書を使用する見込みで、自由社発行の歴史教科書の採択を検討している自治体はなかった。