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木下昌明の映画批評「台湾人生」

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木下昌明の映画批評「台湾人生」

●映画「台湾人生」
日本人になろうとした人々の記憶が呼び起こす日本人の罪


 さまざまな言語が飛び交う台湾の映画を見ると、なんて複雑な国なんだと思うことがある。それもそのはずで、日本の敗戦までの51年間、台湾の人々は日本の統治下で同化政策を強いられてきた。戦後、同胞と思っていた蒋介石率いる国民党が大陸から逃れてきて、38年間も戒厳令をしき、彼らを抑圧してきた。その歴史の転換点となる1947年の2・28事件を、のちに侯孝賢が「悲情城市」で描いたことで一般の日本人も彼らの苦難を知ることとなった。

 今年の4月5日、「アジアの"一等国"」と題したNHKのスペシャル番組が放映された。日本がなぜ台湾を植民地にしたのか、その仕組みを世界史の流れから解明していて見応えがあった。それと、いま公開中の酒井充子の「台湾人生」を見比べると興味深い。植民地時代に日本語教育で育った日本語世代と呼ばれる5人の個人史に、日常生活の側から光を当てているからだ。

 酒井は10年前に一本の台湾映画に触発され、台湾を訪れた。そこで日本語が話せる老人と出会ったことがこの映画をつくるきっかけになったという。映画は、日本人よりも日本人になろうとした人々が、いかに歴史の歯車によって人生を狂わされたか、「見捨てて」いったのに謝罪一つしない日本政府へのうらみも込めて語る姿を浮かび上がらせる。

 時には、明治天皇の歌が口をついて出たり、当時の校歌が合唱されたり、「特攻隊に、もし男ならいっていた」と語る老婦人がいたりする。

 突然、日本人としての生き方が断ち切られたことで、記憶の底に秘めていたことどもが、堰を切ったようにカメラに向かってほとばしり出るのには驚かされる。そのなかで、日本人教師から学費にと5円札をポケットに入れられたことが忘れられないと、いまでも日本にある教師の墓地を訪れる老人のシーンには胸打たれる。 (木下昌明/「サンデー毎日」09年7月11日号)

※ 映画「台湾人生」は東京・ポレポレ東中野で連日朝10時40分からモーニングショー




追 記

ここに挙げましたNHKの「アジアの“一等国”」は、日本が統治した時代の「台湾総督府文書」26000冊をはじめ、昭和天皇の皇太子時代の訪問フィルムなど数々の珍しい貴重な映像が挿入されていて大変勉強になりました。

世界列強が遅れた国々を次々に植民地化していた時代、日本はその列強の手をのがれ、近代国家をめざすために台湾の植民地化を行ったことーそれを生存している台湾の人々の体験による証言をふまえて明らかにしていますが、日本が帝国主義国家として進出していったとは、こういうことなのか、と興味深くみることができました。これこそ「新しい歴史教科書」とよぶにふさわしいと思いました。

この放映をめぐって、自民党の安倍元首相をはじめ右派の識者が反対運動を起こしていますが、その反論をよむと、彼らは歴史をただきれいごとのオブラートで包もうとしているだけで根拠のないものだとわかります。機会があればぜひみて下さい。(木下)


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