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NHKスペシャル:「アジアの“一等国”」 「台湾統治」認識で揺れる番組評価

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NHKスペシャル:「アジアの“一等国”」 「台湾統治」認識で揺れる番組評価



 日本による台湾統治を取り上げたNHKスペシャル(4月5日放送)の評価を巡る論議が政界に波及している。自民党議員が国会で番組内容を批判すれば、共産党の議員は良い番組だと述べ、評価は割れる。番組に関する訴訟も起きたが、NHKは「内容に問題はない」との姿勢を貫いている。【「JAPANデビュー」取材班】

●国会では主張二分


 国会で取り上げられたのは、鎖国を解き欧米列強に追いつこうとする近代日本の歩みを描く「シリーズ・JAPANデビュー」の1本目「アジアの“一等国”」。

 日本にとって初の植民地だった台湾の半世紀に及ぶ統治を、2万6000冊に及ぶ台湾総督府文書や、欧米各国に残っていた文書などを基に検証し、日本とアジアのかかわりの原点を探った。

 6月25日の参院総務委員会で、自民党の世耕弘成議員は「放送された内容は、私が知っている台湾の人々の対日観とあまりにかけ離れている。相当偏った取材をしたのではないかと思う」と番組批判を展開した。

 世耕氏は、日英同盟下のロンドンで1910年に開かれた日英博覧会で、台湾の先住民が参加して暮らしぶりを紹介したイベントを取り上げた。番組がイベントについて、英仏が文明化した植民地の人々の宣伝の場とした「人間動物園」をまねしたと紹介したことについて「当時そういう表現はされていなかった」と疑問を投げかけた。

 また、番組に出演した台湾人の柯徳三さん(87)が放送後に受けた週刊誌や衛星放送局の取材に対し「植民地時代のマイナスとプラスの両方を話したのに番組では負の部分しか紹介されていない」などと語った内容を踏まえ、世耕氏は「コメント使用に問題があった」と指摘した。

 一方、共産党の山下芳生議員は世耕氏とは正反対の評価だ。山下氏は同じ委員会で「非常にいい番組だった。番組に登場する現在の台湾の人たちの表情を見ると、親日的と言われる台湾の人々の心の奥底にある複雑な思いが伝わった。歴史を直視し、互いに共有し、反省すべきは反省してこそ相互理解とより深い友好関係が構築できると感じた」と感想を述べた。

 NHKの日向英実・放送総局長は委員会で、人間動物園について「私どもの集めている資料の中では使われている」と反論。柯さんのコメントについても「発言の趣旨を十分に反映している。恣意(しい)的な編集はしていない」と述べた。

●慰安婦番組も批判


 「JAPANデビュー」を問題視する国会議員はどんな人たちか。

 6月11日、番組に批判的な自民党の議員らが議連「公共放送のあり方について考える議員の会」を設立。会長は古屋圭司衆院議員、事務局長は稲田朋美衆院議員だ。古屋氏は「放送法に沿って番組が作られているかを検証していく」と語る。

 同会には安倍晋三元首相、中川昭一前財務・金融相も参加。97年設立の議連「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」では、安倍氏が事務局長、中川氏は代表を務め、古屋氏も副幹事長だった関係にある。この会が発行した「歴史教科書への疑問」によると、中学校歴史教科書に従軍慰安婦の記述が残ることに疑問を持つ戦後世代を中心とした集まりだという。

 安倍、中川、古屋の3氏は、従軍慰安婦を取り上げたNHK教育テレビ番組「ETV2001シリーズ戦争をどう裁くか・問われる戦時性暴力」(01年1月30日放送)を批判した。安倍氏は放送前にNHK放送総局長らと面会し「公平、公正にやってください」と要請。このことが、NHKの国会担当局長の現場への直接指示による番組改変につながったとされる。

 安倍氏は自分のメールマガジンで「JAPANデビュー」について「『反日』で貫かれています。歴史認証抜きに『人間動物園』とか『日台戦争』といった新たな概念を作り上げ、イメージ操作を行い、これでもかと日本を貶(おとし)めています」と批判する。

 稲田氏は保守系新人議員で結成した「伝統と創造の会」会長も務める。5月に産経新聞に掲載された、NHKに訂正放送などを求める意見広告に賛同した。

 昨年春に上映中止が社会問題化した、靖国神社を舞台にしたドキュメンタリー「靖国 YASUKUNI」問題では、文化庁所管の独立行政法人が決めた750万円の助成を問題視した。

 また今回、中山成彬・前国土交通相が会長を務める「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、NHKに人間動物園の記述などに関する公開質問状を2回提出した。

●「世界史的再検証」


 NHKが4月から始めた長期大型企画「プロジェクトJAPAN」は、ドキュメンタリーやドラマを3年間放送し「世界史的な視点」から日本近現代史を見つめ直すものという。「JAPANデビュー」は、その一環だ。

 台湾には人間動物園に父親が参加した女性が存命している。ある男性は日本語教育の結果、今も中国・台湾語での文章を書けないという。番組はこうした現地取材で得た証言を紹介した。「親日的とも言われる台湾に今も残る日本統治の深い傷。今後、アジアの中で生きていく日本が分かち合わなければならない現実だ。過去と向き合う中から見えてくる未来」。そんなナレーションで番組は終わる。

 日向英実・放送総局長は「JAPANデビュー」の狙いを「150年の近代化の中で西洋列強に肩を並べる努力をしてきた日本が、結果的に敗戦という悲惨な結末を迎えた歴史を改めて見つめることだ」と説明する。

 「捏造(ねつぞう)、偏向番組だ」などとして放送後、日本李登輝友の会(小田村四郎会長)が抗議声明を出すなど複数の民間団体による抗議活動が広がった。全国のNHK施設の周辺では抗議デモが行われた。5月に東京であったNHK放送センター周辺でのデモ後、約100人が局内に侵入するなどの混乱もあり、NHKは主催者に抗議した。

 6月には8389人に上る人たちが損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。NHKには「謝罪しなければ、出演者を殺す」などとする差出人不明のメールや手紙も複数届いているという。今のところ具体的な被害は出ていない。

 NHK経営委員会の小林英明委員からも番組批判が出ている。小林委員は5月の委員会で、日台戦争という用語を使っていることについて「歴史的事実がない。報道は事実を曲げないことを規定した放送法に違反する」と指摘した。

 放送法は、委員が個別番組に干渉することを禁止している。安倍氏が首相時代に任命した小林委員は、安倍氏のスキャンダルを報じた月刊誌「噂の真相」(休刊)を相手にした名誉棄損訴訟の代理人でもある。

 一方、市民団体「開かれたNHKをめざす全国連絡会」(世話人、松田浩・元立命館大教授ら4人)は、番組を評価する。小林委員の発言を問題視するとともに、議連発足や訴訟、デモなどによって自主・自律の姿勢が損なわれないよう求める文書を7日にもNHKに提出する方針だ。

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■番組が批判されている主な点とNHKの見解■


 (1)人間動物園

 1910年にロンドンで開かれた日英博覧会の会場に台湾の先住民族の家を造り、その暮らしぶりを展示したことを「人間動物園」という言葉で紹介した。これに対して、「日本は、人間動物園と呼んでいなかった」と抗議があった。NHKは当時の英仏で植民地の人々の日常生活を見せ物にすることを「人間動物園」と呼んでいたと説明。当時の日本の新聞報道や公式報告書をもとに、日本も英仏をまねて先住民族の展示を「人間動物園として位置づけていた」と解釈したという。

 (2)日台戦争

 日清戦争の結果1895年に日本が台湾を領有することになった。番組は、日本軍が派遣され、激しい抵抗を受けながら、全土を武力で平定するまでを「日台戦争」と表現した。「聞いたことがない言葉」「戦争という言葉は実態を表していない」などの批判が寄せられた。NHKは1990年代には、日本台湾学会で「日台戦争」という用語が多数説となり、研究書で使用されたり、日清戦争後も続く「戦時大本営条例」下での戦闘だった歴史的事実を根拠にしたという。

 (3)台湾でのインタビュー

 出演していた柯徳三さんは「日本の台湾統治の功罪両面を話したが、取り上げられたのは罪の部分だけ」などと抗議していると一部で報道された。NHKは「恣意的編集はなく、柯さんらから直接の抗議は受けていない」としている。

毎日新聞 2009年7月6日 東京朝刊


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