15年戦争資料 @wiki

rabe10月3日

最終更新:

pipopipo555jp

- view
メンバー限定 登録/ログイン

十月三日


政府高官筋の人々、とりわけ蒋介石夫人の宋美齢はドイツにあまり好感をもっていないという噂だ。ドイツが日本と防共協定を結んでおり、ソビエトと同席したくないという理由から、ブリュッセル会議への山席を拒否したからだ。

「私たちの味方でない者はすなわち敵」と夫人は言ったという。それなら、ドイツ人顧問はどうなんだ? いまや中国人があんなに誇りにしている高射砲部隊、つまり防空隊を導入したのはいったいどこのだれだ? ドイツ人の軍事顧問じゃないか! 北部ではろくに訓練されていない兵士が逃げ出しているというのに、上海付近の軍隊は勇敢に戦っている。だれが訓練したと思ってるんだ? ドイツ人の軍事顧問だろうが! 南京から逃げずにがんばってるのは? ドイツ人の軍事顧問と我々会社員じゃないか! こっちにいわせれば、南京に残るのはまさに犠牲的行為以外の何ものでもないんだ。それなのにやつらにはそれがどうしてもわからない! なんせ自分の国にいるんだからな。


ついいましがた市場でトランクを四個買ってきた。八十ドル。ここに日記をつめよう。十六冊もある。二週間ほどすると中国人技術者の周が漢口から戻ってくる。周にこれを上海へ持っていってもらうことになっている。むこうで保管する方が安全だろう。


薬がなくなりそうだ。天生薬房(薬局)は、このあいだの爆撃で派手にやられて店を閉めてしまった。爆風で棚の薬瓶が残らず粉々になったのだ。インシュリンの在庫が六瓶もあったのはあそこだけだったのに。こんなことならさっさと買っておくんだった。でも私は節約したかったのだ。馬鹿なことを! 二度とこんなへまはするまい! 上海からアンプルを二、三十個取り寄せられるだろうか。試してみよう。うまくいくといいが。兄弟薬房にはもうなにもない。じきに南京には開いている店がなくなるだろう。さっき、露店で工ーテルニ瓶とアルコールニ瓶、脱脂綿一包みを手に入れた。


けが人を大ぜい乗せたトラツクが毎日到着する。大したけがではないが、どの人も痛々しい。汚れた包帯をまいて、泥がこびりついている。まるでたったいま塹壕(ざんごう)から出てきたみたいだ。医師のヒルシュベルクさんがいてくれるのがせめてもの救いだ。彼の家族もまだ残っている。引き返してきたのか、あるいはずっとこの近くにいたのかはわからない。



ラーベの日記indexへ
目安箱バナー