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毎日社説:容認する政界の風潮こそ問題

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田母神事件 容認する政界の風潮こそ…

=論説委員・岸本正人

◇容認する政界の風潮こそ問題

 イージス艦の漁船衝突事故に始まり、田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長(更迭・定年退職)の論文問題に暮れた今年も、防衛省にとって不祥事の1年だった。特に、田母神氏の問題は、文民統制(シビリアンコントロール)の機能不全を象徴する事件だった。

 田母神論文は、閣議決定された、戦前の植民地支配と侵略を謝罪する「村山談話」を否定し、集団的自衛権の行使などで政府方針に異を唱えた。制服組最高幹部が政府見解・方針に真っ向から反する内容を公然と主張する行動は前代未聞だった。

 田母神氏は「表現の自由」を根拠に論文発表を正当化する。しかし、表現の自由も、公務員の政治的行為を制約する法的規制の対象となる場合があるほか、厳しい規律を持った実力組織・自衛隊は、文民統制の制約を受ける。政府見解・方針への見解表明には、これらの制約がもたらす限界がある。田母神氏の特異な歴史認識だけでなく、この「表現の自由」をはき違えた言動にも強い違和感がある。

 そして、誰もが衝撃を受けたのは、田母神氏のような人物が実力組織のトップに上り詰めることができる「現実」だった。

 田母神氏の過去の言動をチェックできなかった人事権者・防衛相ら政治の側に責任があるのは間違いない。また、制服組の人事案がOBら内輪の意向で事実上決まり、内局(背広組)や防衛相はこれを追認するだけという構造上の問題もある。

 しかし、同時に、田母神氏の主張を許容・支持する政治潮流の存在を指摘せざるを得ない。

 実際、田母神氏は論文の発覚直後、辞職を迫る防衛省幹部に対し、元首相2人の名前を挙げて「私の考えは支持されている」と辞表提出を拒否したという。

 歴史認識をめぐっては、過去、閣僚が侵略や植民地支配を正当化する発言をし、辞任する事態が繰り返されてきた。田母神氏の空幕長就任を閣議で了承したのは安倍内閣だったが、その安倍晋三元首相は、首相就任後に村山談話を踏襲する考えを表明したものの、就任前は日本の戦争責任への明言を避けていた。その落差は本音と建前の使い分けと見られていた。そして、集団的自衛権の行使を可能にするため、政府の憲法解釈を見直す目的で有識者懇談会を発足させたのも安倍首相だった。論文と同じ内容の言論を隊内で繰り返していた田母神氏が、そうした「政治の風」を背中に受けていたのは間違いないだろう。

 政治家は、今回の問題で、統制する側である自らの「文民としての資質」こそが問われたことを自覚しなければならない。

毎日新聞 2008年12月28日 東京朝刊


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