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2 検討の対象について

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2 検討の対象について

(判決本文p116~)

  当裁判所は, 本件訴訟の主要な争点は, 先に原判決の事実摘示を引用して示したとおり, [A]本件各記述が, 控訴人梅澤の名誉を毀損し, 控訴人赤松の亡兄に対する敬愛追慕の情を侵害するもので不法行為に該当するか否かなどの点(原審争点[1]ないし[8])であるが, 当審においては, さらに, 次のような点についても十分な検討を要するものと考える。 それは, [B]発刊当時は真実性ないし真実相当性が認められてその後も出版が継続されている書籍について, 新たな資料に基づき名誉毀損の不法行為を主張して損害賠償請求あるいは出版継続の禁止を求め得るのはどのような場合かという点, 及び, [C]本件各記述の摘示事実及び論評の前提とする事実, すなわちそれらの真実性ないし真実相当性の立証の対象となる事実を, どのようなものとしてとらえるのが相当であるかという点である。

  上記[B]の点は, 主に以下のような事情に関わる。すなわち, 控訴人らにおいても本件各記述が発刊当時においては少なくとも真実相当性を有していたことは争わず, その後昭和48年ころ以降に発刊された資料等によると真実性はもとより真実相当性も失われたとして, その時以降の出版継続の不法行為該当性を主張しているものである。 そして, 控訴人らは, 当審において, 原判決で真実性が認められないと判断された以上それ以降の出版継続は当然に不法行為に該当するとして, 請求の大幅な拡張を行った。他方, 本件各記述は, 歴史的事実に属する沖縄戦における日本軍の自決命令の有無という高度な公共の利害に関する事項に係わり, かつ, もっぱら公益を目的とするものであると言い得るところ, これを含む本件各書籍は, 版を重ね世代を超えて読み継がれてきたものであり, その出版継続の禁止については, 言論出版の自由, 公共的事項に関する表現の自由, 歴史的事実探求にかかる思想信条の自由というような重大な憲法上の法益との関係で, 慎重な考慮を必要とする。 これらの点からすると, 上記[B]の点が当審での重要な争点となることは明らかである。

  次に, 上記[C]の点については, 本件各書籍(「太平洋戦争」についてはその初版)は昭和43年及び昭和45年に刊行されて以後出版が継続されてきたものであるところ, 戦後60年余り, 書籍刊行後も40年前後の時の経過と世代の交代により, 一般の読者の関心や本件各記述の読まれ方, さらには, 集団自決への日本軍の関わりをどのような次元においてとらえるかという歴史的事実についての一般の認識自体が, 大きく変化してきていることが考えられる。 そのような変化や社会情勢の変化は, 本件各記述の意義や,それが個人の社会的評価としての名誉に及ぼす影響, さらには名誉毀損との関係で証明すべき真実性ないし真実相当性の内容などについても変化をもたらすと考えられるから, [C]の点についての検討が必要となってくる。

  また, 原審口頭弁論終結後に, 原判決では結論が出ていない状態とされた平成18年度教科書検定について文部科学省の判断が明らかになり, そのことなども根拠にして控訴審で請求の大幅な拡張がなされ, また, 控訴人梅澤が自決をしてはならないと厳命し, これを受けて村長が住民に解散を命じたことを直接聞いたとする宮平秀幸新証言があらわれて大きく取り上げられているので, これらの評価については, 控訴審としても新たな判断が求められている。

  そこで, 当裁判所は, 以上のような点をも踏まえながら, 本件事案を検討してゆくこととする。



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