15年戦争資料 @wiki

パートIII 6 機種は複数にする

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可

田母神俊雄 平成16年7月 ,9月
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートIII

6 機種は複数にする


 航空自衛隊においては航空機やミサイルシステムを導入する際、いわゆる機種選定が実施される。このとき全整備数を一括選定するのが従来のやり方だった。全整備数を一括選定するということは、単一の機種にするということである。例えば今後F-15型戦闘機の後継機の選定がおこなわれる場合、F-15型戦闘機200機の全てを単一の機種で置き換えるということである。しかしよく考えてみれば、これも再考の余地があるような気がする。2機種にして100機ずつ、あるいは120機と80機のような組み合わせを考えても良いと思う。

 航空機やミサイルシステムはその全数を取得するためには、予算取得の関係で通常10年以上の期間を必要とする。10年というのは近年の科学技術の迅速な進歩を考えると大変に長い期間である。この間に更に優れた、更に安価な航空機やミサイルシステムが出現しないとは限らない。そのような状況変化に柔軟に対応するためには、全整備数の一括選定を止めて、例えば半数程度を選定し残りの半数程度については時期が来たら再度機種選定を行うという方式に改めてはどうかと思うのである。再選定を行うに際し当初のものがやはり最も空自に適合したものであるならば、継続してそれを取得すればよい。しかし初めから単一の機種にするという前提は無くした方がよい。

 従来の考え方は、単一機種の方が運用、後方支援ともやり易い、経費も安上がりですむというものである。しかし機数が5機や10機ならともかく100機以上も保有する航空機が同じものである必要はないのではないか。運用、後方支援については単一機種の方がやり易いことは事実であろうと思うが、そのために2機種には出来ないということはない。それが決定的な理由になるとは思えない。2機種でも円滑な運用、後方支援が出来る態勢を造り上げればよいのだ。2機種の方がむしろ運用の幅が広がることも考えられる。当初かかる経費については2機種の態勢整備には1機種の場合よりも多少の経費増はあるかもしれない。しかし2機種にすると各機種の提供会社が値下げ競争の関係におかれ、ライフサイクルコストで見るとその経費増を飲み込んでくれる可能性が大である。

 私は全数整備に10年以上もかかるものを一括選定することは避けた方が良いという感じを持っている。自衛隊が技術研究本部にお願いをして国家政策として開発するものは別にして、出来合いの装備品等を取得する場合には、最初の50台はこの機種にする、51台目以降は再度機種選定を行うというような機種選定にすべきでではないかと思っている。また機種選定に参加する会社側から見れば、51台目以降新たな機種選定が行われることになれば、一旦機種選定に勝っても、日々製品の改善、能力向上及び価格の低減に努力せざるを得なくなる。会社間の競争を促進し、防衛装備品の能力向上、低価格化を図るためにも、機種選定は回数が多いほど良いということになる。もっとも機種選定業務は大変に負荷のかかる仕事である。空幕内の合意を得ることも大変であるし、内局との摺り合わせもある。また官邸の意向等政治的な動きも考慮しなければいけない場合もある。こんなことは出来るだけ回数を減らしたいと思うのはまた人情である。それは私も経験上よくわかる。しかし大変なことでも国家のため、自衛隊のためには頑張らなければならない。

 米軍の戦闘機のエンジンなどは、数が多いこともあるかと思うが、機種選定が何回かに分けて実施されている。その結果、同一の機種に対しプラット&ホイットニー社とGE社の両方のエンジンが搭載されている。航空自衛隊でも第1補給処では、パソコンの入札に際し、1社独占の状態にならないよう、入札は全ての所要数を一括入札するのではなく、時間をおいて数回に分けて実施する。価格の低減も図れるし、サービスの向上も期待できる。同じようなことを航空機やミサイルシステムなどにも適用するのだ。

 台湾空軍は米国のF-16と仏国のミラージュ2000を同時に取得する決定をした。米国に対しても仏国に対しても、サービスを良くして下さいよという睨みがきいた態勢に初めからなっている。李登輝総統の政治決断がバックにあったのかも知れないが、台湾空軍に出来ることは航空自衛隊にも出来るはずである。

 自衛隊では一旦機種が決定されれば向こう30年以上にもわたってそれらの航空機やミサイルシステムが使用される。この間ずっと競争相手がいないということになれば、会社側の能力向上や価格低減の意欲も抑制されるというものである。我が国の予算システムの場合、一旦選定されれば買う方の自衛隊よりは売る方の会社側が強い。国が一旦決めたことは、安全保障会議などの手続きを経ないと変更することが出来ないからである。これをうまく使っているのが米国の防衛装備品メーカーである。自衛隊は米国製の装備品を数多く使用している。

 しかし米国のメーカーにとって最大の顧客は自衛隊ではなく米軍である。米軍の方が自衛隊よりは遙かに大きな利益を与えてくれる。彼らは時々、米軍が能力向上型に移行したので、自衛隊に部品等を供給するラインを維持するには値上げせざるを得ないと言う。自衛隊としては泣く泣く会社の要求を飲むことになる。日本の防衛産業ならこんなことはないのにと思いながら。

 これは米軍の自衛隊に対する装備品等の使用許可とも密接に絡んでいる。米軍が新しい型式の装備品に移行しても、通常は我が国に対しては最新型の装備品が使用許可にはならない。米軍の使用許可が下りなければ米国のメーカーは我が国に対し当該社の装備品を売ることは出来ない。自衛隊としては何度も何度も米軍に使用許可を要求し、ようやく使用許可が認められる。しかしその頃には、米軍は更に新しい型式の装備品に移行する。自衛隊はいつも米軍の一世代前の装備品を使用していることになる。米軍が使い残した残り物を使っているような形になることが多い。米軍と米国の会社が裏で手を組んでいるのではないかと勘ぐりたくなることもある。

 また近年では装備品能力の半分以上がソフトウェアによって決まる。ソフトウェアについてはこの傾向は一層顕著である。新しいバージョンのものが次々と出てくる。同じハードウェアを使用しながらソフトウェアは別物ということがよくある。米空軍のF-15型戦闘機と同じ戦闘機を航空自衛隊も使用しているが、ソフトウェアの違いにより、両者は全く別の戦闘機である。イラク戦争では最初から米国とともに戦った英国が1発のミサイルも発射することが出来なかったと聞いている。それは英国に対してさえ米国の最新のソフトウェアがリリーズされず、英国潜水艦等のGPS等を使った射撃回路が発射準備OKにならなかったからだということである。航空自衛隊は米空軍とのインターオペラビリティーを考える際ハードウェアに目が行きがちであるが、これからはソフトウェアこそがインターオペラビリティーの根幹であるということを認識しなければならない。



目安箱バナー