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パートIII 4 装備品等情報の収集

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田母神俊雄 平成16年7月 ,9月
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートIII

4 装備品等情報の収集


 日本経済の低迷が始まって久しいが、戦後の高度成長により日本のGNPは、今では世界の15%ほどを占めるに至っている。これだけの規模になると今後はかつてのような高度成長は考えにくい。我が国が更に高度成長をするようなことは、世界経済や環境への影響が大き過ぎるからである。今後景気が回復しても着実な低成長にとどまるものと思う。自衛隊の各種装備品についても、従来は経済成長のおかげで装備品等の価格の高騰にも拘わらず、逐次所要数を確保することが出来た。しかしこれからは相当の価格低減の努力がなければ装備品等の近代化を進めることが困難になるであろう。

 さて装備品の価格を低減するに当たり、最も大事なものは何だろうか。それは情報である。情報というと我々は航空機等の動態情報に目が行き易い。そして国家として自衛隊として動態情報の収集には大きな努力をしている。一方装備品に関する情報に関してはこれまで我々はそれほど関心を払っていなかったのではないか。自衛隊がすでに取得し運用している装備品等については、空幕装備部や補給本部に於いて関連情報の収集に相当の努力をしている。しかし自衛隊が使っていないものに関しては情報収集努力がやや不十分だったような気がする。航空機等の機種選定の時期が来たときに初めて真剣に情報収集を始めるのが従来のやり方だった。しかし近年では科学技術の進歩が非常に迅速であり10年以上も同じ性能のもの、同じ型式のものを使用することはまれである。空自が新しい装備品等を運用開始したと同時に他に更に良いもの、安価なものが無いのかどうか世界中に目を向ける必要がある。

 テレビ、洗濯機、冷蔵庫などの家庭電化製品は、それらが初めて世に出たときは大変に値の張るものであった。しかしいまでは性能的に何倍にもなったそれらの製品は、昔の何分の一かの値段で売られている。パソコンもいまでは随分値が下がった。その出始めの四半世紀前には、いまでは全く使い物にならないと思われるような大型パソコンが現在のパソコンの何倍もの値段で売られていた。テレビはいまデジタル化されるとともに薄型のものに変換されつつある。従来のテレビに比較すると値段はだいぶ高い。しかしこれもほんの2、3年で値段は下がってくるだろう。そう思って私は従来型の厚手のブラウン管を使っている。

 さて自衛隊の使用する航空機やミサイル、通信電子機器などは、ある特定のものを機種選定しても、すぐにまたより高性能、安価なものが出てくる。一昔前であれば一度機種選定すれば10年ぐらいは次のものを考える必要はなかったが、これからは常時情報収集が必要となる。特にC4I関連の装備品、補用部品等は2、3年で性能は2~3倍、価格は2分の1、3分の1になるので効果的な予算の執行に情報収集は欠かせない。世界の関連会社等の動きをホームページの検索や会社研修等により把握することが必要である。その意味で空幕装備課あたりに装備品等に関する情報収集機能を強化する必要があるかも知れない。当該部署は国内のメーカーのみならず世界のあらゆる防衛産業についての製造情報、開発情報等について精通しておかなければならない。それらの情報が不足すると、ある特定の装備品等を紹介された場合に、他にもっと良質で安価なものがあるにも拘わらず飛びついてしまうことがある。いま現在自衛隊においては国内のメーカーについてはほぼ掌握しているものの、米国はじめ海外のメーカーに関する情報はきわめて限定的に把握しているのみではないだろうか。今後は、国内のメーカーや商社を通じ、海外のメーカー情報についてもその取得に努めるとともに、海外の会社研修も積極的に実施し、その実態を把握しておく必要がある。毎年誰かはアメリカにも、ヨーロッパにもそしてアジア諸国にも海外企業の研修に出かけなければならない。わずかな外国旅費で大きな効果が期待できると思う。

 会社を使って情報を収集する際に注意すべきことがある。それは現に使用中の装備品等を提供している会社は自分の会社が不利になるような情報は提供したがらないということである。会社の立場に立てば当然であり、これを責めることは出来ない。だから自衛隊としては、自衛隊が現に取引中の企業の情報だけではなく、対抗する企業からも情報を取得することが大切である。その情報によっては装備品等の新たな機種選定等が行える態勢にしておかなければならない。こうすることによって会社間に常時競争関係が維持される。その結果装備品等の適正な価格が維持されることになる。

 世界の各地で実施されるエアショーなどには積極的に研修員を送るべきであると思う。従来はエアショーへの参加は開催国の招待に応ずる付き合いという程度の認識であったが、今後はこの認識を改め、情報収集という明確な目標を持つことが大切である。広く薄くではあるが、あれほど集中的に会社研修が出来る機会はない。また諸外国の空軍参謀長はじめ軍人たちとの意見交換の機会もある。2月の下旬に私はシンガポールのエアショーに参加した。シンガポール国軍司令官から石川統合幕僚会議議長宛に招待状が届いたものであるが、代理として統幕学校長が出席することとされたものである。世界中の航空宇宙産業、軍需産業がそれぞれの製品を展示している。これに参加して、いろいろな情報を得ることが出来たし、ずいぶんと勉強になった。今後は自衛隊の将来を担う多くの若い人たちにも、エアショーに参加する機会を作ってあげられればいいと思っている。エアショーで世界の航空宇宙産業、軍需産業の全体像を把握しながら、特に情報収集を必要とする会社には、改めて研修に出かければよい。ほんのわずかな外国旅費で、何十億円、何百億円というお金を節約できることになるかも知れない。情報の優越は、作戦遂行のみならず装備品の分野にも言えることだと思う。

 蛇足であるが、今回のエアショーの会場に我が国からは航空宇宙工業界の事務所がひっそりと置かれていた。我が国は政府の方針により、現在のところ武器輸出が出来ないので、国内の防衛産業からの装備品等の展示もない。やむを得ないことと思うが、日本国民の一人としては仲間はずれになっているような感じでやや淋しい気がする。中国や韓国でさえも大きなブースを準備し装備品等の展示を実施していた。



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