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パートIII はじめに

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田母神俊雄 平成16年7月 ,9月
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートIII

はじめに


 民主主義国家においては言論の自由は保障されなければならない。しかし戦後の我が国には本当に言論の自由があったのかというと極めて疑わしい。米国占領下の6年半に、公職追放や出版物の徹底的な検閲等により作られた我が国言論界の方向性は、独立を回復した後も、つい最近まで修正されることはなかった。いや若干改善されては来たが、今なお修正されていないと言った方が正しいかもしれない。戦前の我が国や旧軍を悪し様にいう自由は無限に保証されるが、我が国を弁護する言論の自由は極めて限定的に認められるのみである。南京大虐殺は無かったと言って何人の大臣が辞めたのだろうか。日本は戦前、中国や韓国に対し良いこともしたと言ってその責任を問われた政治家もいる。しかしこれらはいずれも大臣や政治家の言っていることが歴史的真実である。今では多くの研究によってそれは分かっている。それにも拘わらず大臣を辞めなければならなかった。政治家が自分の信念を披瀝してその職を辞すということは言論の自由がないということだ。少しでも戦前の我が国や旧軍のことを弁護するような発言をするとマスコミなどで袋叩きにあう。だから政治家を始め多くの言論人でも我が国を守る発言は極めて少ない。あるいは極めて控え目にしか行わない。その結果、弁護してもらえない我が国や旧軍は次第に悪者にされていく。嘘も百回言い続ければ真実になってしまう。「いつか分かる」は善良な日本人の間でしか通じない。それは武士道のベースがあって初めて成立することなのだ。反日的日本人やカネをもらうためには如何なる手段も排除しないような国に対しては徹底的に反論する以外に道はない。しかし徹底的に反論しようとすると大臣の首が飛んだり、国会が止まったりするのがつい最近までの我が国だったのだ。思うに我が国には反日的言論の自由は無限にあるが親日的言論の自由は無かったということなのだ。

 戦後我が国においては、日本国民を萎縮させるような力がずっと働いてきたような気がする。我が国は戦後の占領政策の影響から未だ抜けきれずにいるのだ。戦後の日本人の考え方の方向性は、いわゆる東京裁判において決定づけられた。日本軍は残虐非道の軍であった、軍人が暴走した、韓国人や中国人にひどいことをした、南京大虐殺を行ったとかいう無実の罪を背負わされた。それでも真実を体験した人たちが我が国の実権を握っている間にはあまり不具合は起きなかった。今では信じられないことであるが、サンフランシスコ講和条約締結直後は、旧社会党の議員でさえ占領軍から押しつけられたとして憲法改正を国会で主張したのだ。国会の議事録もちゃんと残っている。しかし政治家も役人も財界人も戦後世代が我が国の大勢を占めるようになると我が国がおかしくなり始めた。無実の罪が真実として一人歩きをするようになってきたからである。彼らは戦後教育が真実の歴史だと思っている世代である。日本の国が悪い国だと信じ込まされている世代である。だから国家や日の丸や君が代や自衛隊に対して反対運動を実施する。

 戦後これを煽ってきたのが我が国のマスコミである。本来マスコミは、国民のために公正、公平に情報を提供すべきである。しかし産経新聞など一部のマスコミを除き、我が国の多くのマスコミは、どこの国のマスコミかと思われるほどに徹底的に我が国の暗部のみを暴き出す。よその国の暗部も公平に暴いてもらいたいものだと思う。比較の問題で言えば我が国は戦前から他の列強ほどのひどいことはしていない。米、英、仏、蘭などの国がそれぞれの植民地で何をしたのかは勉強すればすぐに分かることだ。よその国がやったから日本がやっていいという理由にはならないが、日本だけが悪く言われる筋合いもないと思う。我が国は戦前から人種差別を排し、日本民族、満民族、朝鮮民族などがともに仲良く暮らせるように民族共存を唱えてきた。これに対し列強はキリスト教の宣教師などを使い民族自立を強調し、満州や朝鮮半島における民族独立を煽った。それが現地における反日運動を高揚することになった。当時の中国大陸や朝鮮半島はいまのイラクのようにテロが日常的に起こり、多くの日本人が殺害され続けていたのだ。治安は不安定でいわゆるゲリラ戦状態である。日本軍が進出したことにより治安は安定こそすれ、決して悪くなることはなかった。テロに会い続けながらも日本は、日本本土に投資する金を削って満州や朝鮮半島に金をかけ続けた。日本の投資があったことにより満州も朝鮮半島も住民の生活は飛躍的に改善されたのだ。我が国は、投資よりは持ち出しに重きを置く列強とは全く違った植民地政策を実施したのだ。 

 それでも当時は日本人に対するテロはあっても、白人に対しては中国人や朝鮮人が大々的にテロを起こすことはなかった。そのために米国なども日本の苦労を十分には理解できなかった。米国がゲリラ戦やテロの怖さを理解するのは後年のベトナム戦争によってであると思う。戦前は白人から有色人種が人種差別を受けるのは当然と思われていた時代である。米国が黒人に白人同様の選挙権を認めたのは第2次大戦終了20年後の1965年である。有色人種の日本が、満州や朝鮮半島に対し白人国家と同じようなことをするのが米国など列強には目障りであったのだ。しかしいま米国の国内において戦前から日本が唱え続けた民族共存が実現されている。日本の主張の正しさが歴史的に証明されたのだ。

 もちろんこんなことは相手の国が言い出さなければ、いまさら我が国から言い出すことではない。我が国の歴史については日本人の誇りとして心の中にしまっておけばよい。昔は悪かったとか、未熟であったとかいうことは現在の2国間関係を悪くするだけである。ウチのカミさんは時々この手を使うが夫婦げんかになるだけである。現在の価値観で昔を断罪することは無意味なことだ。日米関係においても、それぞれの相手国に対する昔の悪行を話題にするようなことは努めて避けるべきである。今の米国には出来るだけ国際社会の声に耳を傾けようとする姿勢が見える。米国は国際社会のリーダーとして相応しい国家であり、これに変わりうる国家は当分現れそうもない。いま日本国民の平和で豊かな生活を守っていくためには、我が国には米国と仲良くしていく以外の選択肢はない。韓国の現在の政権にはやや反米的なものを感ずるが、我が国の政治指導者が反米になることは絶対に避けなければならないと思う。親米であってこそ、日米の利害が対立する場合にも、米国に対し意見を述べることが出来る。反米の国には米国を動かすことは出来ないと知るべきである。

 それにも拘わらず我が国の多くのマスコミが、今なお反日、反米の論調を展開する。親日、親米の代表である自衛隊などはマスコミの絶好の攻撃対象となる。しかし最近になって風向きが少し変わってきた。この4月のイラクにおける邦人拉致に関するマスコミの反応も、従来に比べれば大きく変わった。テロリストの要求に屈してはいけないという論調が大部分である。ソ連の崩壊、教科書問題、尖閣諸島への中国人の不法上陸問題、そして北朝鮮拉致問題等を通じて日本国民がどうもおかしいと気づき始めたからであろう。産経新聞や新しい歴史教科書をつくる会などの地道な活動も成果を上げ始めている。今では政治家が戦前の我が国の行動を弁護してもそれによって大臣の首が飛ぶことはないと思う。冷静に意見を戦わせることが出来るようになってきた。やがて総理大臣の8月15日における靖国参拝も可能になるであろうことを期待している。また昨年有事関連3法案が成立したが、今国会においては更にこれらの法案を実効性あるものにする関連7法案を審議中である。5年前に誰が我が国において、いま有事法制が成立すると予測したであろうか。我が国政府が、自衛隊を諸外国の軍と同様に使う日が予想以上に早く訪れるかもしれない。

 自衛隊を取り巻く情勢は急速に変化しつつある。私たちはこの変化に後れを取ってはいけない。自衛隊こそは国家、国民が最後に頼りにする大黒柱なのである。そのために自衛隊はいつでも元気でいなければならない。自衛隊は、どんな困難な状況におかれようと、常に前向きでチャレンジ精神に溢れていることが大切である。そのような思いで昨年7月号に初めて「航空自衛隊を元気にする10の提言」を投稿させて頂いたが、今回で3回目になった。またかと思われる向きもあるかと思うが、今回で最後にしたいと思うので、どうかお付き合い願いたい。例によって本小論に述べる内容は私の私見である。読者の皆さんは、前2回と同様、大いなる批判精神を持って読んで頂きたいと思う。皆さんの隊務運営上何らかの参考になれば幸いである。


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