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パートII 2 法令改正を年度要求する

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2 法令改正を年度要求する


 空幕でも部隊でもルーティンの仕事は法令を始め各種規則類によってやり方が決まっている場合が多い。そして長い間それらに基づいて仕事をしていると、次第に疑問を感じなくなってくる。それどころか決まっていないことを新たに実施することが面倒に思えてくることも多い。どうしてやり方が変えられないのかと尋ねると規則でそうなっていますという答えが返って来たりする。しかし所詮規則は目的や目標を効果的、効率的に達成するための手段なのだ。時代が変わり、状況が変われば規則を見直すことが必要である。法令や規則絶対主義に陥ってはいけない。

 空幕では毎年内部部局を通じて財務省に対し予算要求が実施される。航空自衛隊の装備品の取得や改善の要求、部隊等の編成上の要求及び自衛官の処遇に関する要求に分けて実施されるが、法令改正の要求は陸海空自衛隊とも編制や処遇の要求に関わるもの以外は実施していない。しかしインド洋やイラクなどに自衛隊が派遣されるようになると、自衛隊が最も効果的に行動できるように普段から自衛隊の行動に関わる法制について、自衛隊が自ら考えておくことが必要であると思う。前国会において有事関連3法案が成立したが、今後とも国家のためによりよい法律を策定すべく研究を継続することが必要である。

 我が国は、これまで自衛隊の海外派遣については個別の事案ごとに法律を作り対処してきたところであるが、今、自衛隊の海外派遣のための包括法を作る動きがある。自衛隊も今後要求される海外或いは国内における行動を予測して、年度の業務計画の一環として定例的に法律改正要求を実施していくことが必要ではないかと思う。それをやらないとこの動きの速い世界の中では、自衛隊が国家のために適時適切に行動することが困難になる。またそれをやることによって自衛官も我が国の有事関連法制等の要改善事項等を把握することが出来る。

 因みに我が国以外の先進国では、軍は国際法に基づいて行動することになっており、軍が各種行動をするための国内法上の根拠を必要としない。諸外国においては、我が国が自衛隊法で規定している海上警備行動や対領空侵犯措置などは軍としての当然の行動とされ、特別に行動のための法律は存在しない。有事法制関連で自衛隊の任務ではないとされている領域警備の話なども、諸外国の軍では当然の任務とされていることも知っておく必要があろう。これに対し我が国では自衛隊が警察予備隊として発足した経緯があり、自衛隊が何か行動をする際に国内法上根拠規定を必要とするというふうに考えられている。昨年イラクで日本人外交官2名が殺害され、日本大使館の警備に自衛隊を使うという話が出たときに、自衛隊法を改正しなければそれはできないということになった。しかしわが国以外の国では、このような場合直ちに軍を使うことができる。

 国際的には軍の行動に関わる法制については禁止規定とすることが一般的であり、軍に対しては予め禁止事項が示される。外敵の侵入に際し国内法、国際法によって禁止されていない事項は全てやって良いということになっている。この点で自衛隊が実戦に臨んで、いちいち何を根拠にそれが出来るのかと考えるようでは、適時迅速な行動が出来るはずがない。戦いにおいて自ら手足を縛っては、両手両足を自由に使える相手に勝つことは出来ない。国家の防衛に責任を有する者としては、これを重大な問題として認識しておくことが必要であるし、また国民にもその現実を知ってもらう努力が必要であると思う。恐らく多くの国民は自衛隊も諸外国の軍と同じように国際法に基づいて行動できると思っている。しかし現実はそうなっていない。

 さらに有事でなくとも平時においても不具合と考えられる規則等がある。火薬類取締法、電波法、武器輸出許可手続き等は、もともと民間の会社や個人を対象に定められたものと思うが、今では自衛隊にも殆んど同じように適用されている。対領空侵犯措置や災害派遣などに際し、自衛隊の即応態勢を維持する上での障害になっている。またPKOやイラク派遣の際にも自衛隊はこれらの手続きと承認受けを要求される。自衛隊が行動するに際し経済産業省や総務省の許認可を必要とするなどという国が世界のどこにあるのだろうか。軍は悪いことをする、暴走する、だからこれを監視する必要があるという東京裁判史観がここにも息づいているような気がする。もっと自衛隊を信用して任せてもらってもいいのではないか。

 法令関連の要求を年度要求とすることにより自衛官が法制上の問題点を改善しようとする意識が生まれる。いま現在は、自衛官は決められた枠の中で精一杯任務を遂行することだけを考えている場合が多い。もちろんそれは大事なことであるが、よりよく任務を遂行するためには法令の改正も視野に入れて努力することが大事である。現行法制上の問題点を国民に理解してもらうためにも、それが大切ではないかと思っている。


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