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パートII 1 頼まれたら頑張れ
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田母神俊雄 平成16年3月
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートII
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートII
1 頼まれたら頑張れ
景気が長期に渡り低迷し、我が国の中小企業も生き残りを懸けていろんな分野に進出することとなった。従来防衛調達に関係していなかった会社も多数自衛隊にモノを売りに来るようになった。また旧調達実施本部における調達不祥事により、防衛調達改革が実施され、防衛装備品調達における競争入札が強化された。空幕、補給本部などの実施する防衛関連調達が、従来からこれに参加していた会社だけではなく、多くの会社に拡大されることとなった。更に防衛予算は年々縮減の傾向にあり、これに輪をかけてインターオペラビリティーの観点から米国製装備品等の調達額が増加している。このようなことから従来から自衛隊に物品等を納入している国内企業からみれば、当然自衛隊に対する売り上げが減るので、自衛隊に対しいろいろと相談にくる。「何とか当社の製品を買ってもらえないか」というようなお願いをされることも多い。しかしながら一般競争入札である限りお願いをされても自衛隊としてもどうしようもない。会社側に出来るだけ安価で良質のモノを提供してもらうことを期待するだけである。
空幕で防衛力整備に携わっていると頼まれごとが多い。もちろん頼まれても出来ないことはどうしようもない。しかし出来ないことが反復されると、出来ることまでやらなくなってしまうことも多い。近年のように諸制約が多くなり、担当者の裁量の幅が狭くなってくるとその傾向は一層強くなる。人は自分の裁量の幅が小さくなればなるほど精神的に沈滞してしまう傾向がある。意欲があれば出来ることさえ放置してしまう。自衛隊の戦力発揮を支える防衛産業を護る意欲さえ失われてくる。自衛隊以外には市場がない航空機、艦船、ミサイル及びその部品などの製造会社は、自衛隊がこれを支えなければやがて会社は傾き、結果として自衛隊の行動が出来なくなるのだ。我が国は、諸外国が保有する軍の工廠を保有せず、工廠の役割を民間企業に依存している。これらの会社からの依頼事項については、防衛産業・技術基盤の維持の観点から、担当者は頑張らなければならない。
空幕の装備部長をしているときに「最近は頼まれてもどうしようもない。何も出来ない」というようなことを聞くことがあった。それに対し私は、「頼まれたら頑張れ」と指導していた。確かに10個頼まれてそれを全部受けることは不可能なことが多い。しかし1つでも2つでも頑張ってあげるという姿勢が必要だ。頼みにくるということは相当困っていると認識すべきである。そのときに助けてあげなければ、やがて誰も頼みに来なくなる。あの人の所へ行ってもどうせだめだから行ってもしょうがないということになる。結果として自分の力を失っていくことになる。
これは防衛力整備に限らず、部隊等における隊務運営においても同じことが言えると思う。人は仕事をすることによって力をつける。ステータスも向上する。頼まれたことを面倒がって断り続ける人と、多少面倒でも快く承諾し頑張る人とでは長い間には、その力量に大きな差が生まれる。彼に頼めば何とかしてくれる、彼が出来なければ誰も出来ないというような信頼を得たとき、その人は一回りも二回りも大きくなっている。これまでの部隊勤務の経験で幹部や准尉、空曹に限らず周囲の人たちから絶対的な信頼を得ている人たちがいた。そういう人が増えれば自衛隊はより強くなる。彼らは周囲からの依頼に対しては例外なく困難なことにチャレンジしていたような気がする。困難なことを簡単に出来ないと言ってはいけない。ほんとに出来ないかどうかよくよく考えることが大切である。
しかしみんなから一斉に頼まれたらどうしようもないではないかという人がいる。そのときは2度3度と頼みにくる人を優先してあげてはどうか。現実にはみんなが一斉に頼みに来ることなどあり得ない。そこはやるかやらないかを含めて自ら判断する必要がある。それはいわゆる不公平とかいうものではない。不公平だから何もしないというのは、多くの場合何もしないことの言い訳であるように思う。面倒くさがったり自分の行動に対する批判や摩擦を恐れたりしているのだ。確かに面倒であるし、自分が判断して行動すれば必ず何らかの批判や摩擦を生ずる。それを覚悟の上で頑張らなければ仕事をすることはできない。頼まれて何もしないことだってどうせ批判を受ける。同じ批判を受けるなら仕事をして批判を受ける方がましではないか。仕事をしなければ力も付かないし、周囲の信頼を得ることもできない。
あの人は頼りになると言われるようになろう。自衛官はみんなから頼りになると言われる存在でなければならない。だから頼まれたら頑張ってみよう。