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パートI 9 えこひいき大作戦とお邪魔虫大作戦

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9 えこひいき大作戦とお邪魔虫大作戦


 自衛隊は、部外の人に対する対応について、極めて公正、公平な組織であると思う。私は行き過ぎているくらいだと思っている。この国を愛し国民の発展を願う善良な人も、とても善良であるとは思えない人も同じ扱いをしようとする。自衛隊を応援してくれる人と反自衛隊活動をする人さえ同じく扱おうとする。しかし何だか少し変な気がする。私は本当の公正、公平と不公正、不公平は、もう少し中間点がずれたところにあるのではないかと思う。現在自衛隊が実施している公正、公平は反自衛隊の人たちから見て極めて公正、公平なのだ。そして自衛隊を応援してくれる人たちから見た場合には極めて不公正、不公平に見えるのではないだろうか。自衛隊を応援してくれる人たちは、「俺とあいつが同じ扱いか?」と感じるに違いない。しかしこれらの親自衛隊派の人たちはそれでも自衛隊に注文をつけてくることはまれである。自衛隊は、反自衛隊派の批判を恐れ彼らを丁重に扱い、親自衛隊派の人たちに我慢を強いているのだ。あるいは親自衛隊派の人たちに自衛隊が甘えさせてもらっているのだ。しかしこれが長い間続くと親自衛隊派の人たちが自衛隊を離れてしまう。国家安全保障にとってマイナスになる。私は決して違法行為を勧めているわけではない。公正、公平にもグレーゾーンがある。このグレーゾーンを親自衛隊派の人たちのために最大活用すべきである。私は自衛隊はもう少しえこひいきをしていい、即ちグレーゾーンを活用していいと思っている。そしてそれが普通の組織における公正、公平の概念に近い。

 航空団司令をやっているときに、部外者の戦闘機の体験タクシーに関し「司令、あの人を飛行機に乗せたらあの人も乗せざるを得ません」という話があった。部隊等においてはよくある話だ。しかし私は「そんなことはない。体験タクシーは国民に対する広報が目的なのだ。効果を考えて乗せたい人は乗せるし乗せたくない人は乗せない。それは自衛隊の利益、国益を考慮して自衛隊側が決めることだ」と答えた。そして部隊は部隊の意思として主体的にそれを決めた。自分の決めたことが部外から批判され問題になることを恐れれば確かにそんなことはある。しかしそのために始めから自分に与えられた正当な権限の行使をためらう必要はない。人間のやることに完璧はないから必ず一部の批判はある。どんな選択をしてもすべての希望者を同時に体験タクシーさせることは無理であるから、順番が来なかった人や外れた人からは批判がある。権限を行使した者が一部の人から批判を受けるというのは民主主義社会では当然のことなのだ。にも拘らず批判に対し非常に敏感に反応する人がいる。いわば批判恐怖症とでも言おうか。だから誰も乗せないというのだ。「俺に関係のないところで決めてくれ、決まった通り実施するから」というわけだ。同意しかねる考えである。指揮官は批判恐怖症に陥ってはいけない。そんなことを他人に決められてたまるか、俺が決めるんだという気構えが必要だ。選択的に自分が乗せたい人だけ乗せればいい。ただし部外に対しては「あなたは乗せたくないから乗せない」とは決して言わないことは言うまでもない。角の立たない理由はいくらでも考えられる。いい人とそうではない人の扱いは違って当然である。各種事情があり、いつでも自分の思うとおりにはできないかもしれないが、頭の片すみに是非えこひいき、即ちグレーゾーンの活用を留めておいてもらいたい。もちろん合法的なえこひいきである。

 念のために断っておくが、親自衛隊派も反自衛隊派も有事に際し自衛隊が等しく安全を保障する対象であることはいうまでもない。いかなる思想を持つことも自由民主主義国家においては許容される。しかしながら有事自衛隊が効果的に任務を達成するためには、平時においてこれらの人たちと自衛隊の関わり合いについては差があって当然と思うのである。親自衛隊派の人たちとより親しく付き合い、必要な情報を提供し、あるいは情報の提供を受け、国の守りの態勢を整えることは自衛隊の義務とさえ言えるだろう。

 また、えこひいきできない人は決して尊敬されることはない。戦後のわが国の全方位外交なるものがあった。どんな国とも等しく仲良く付き合うというものだ。こんな考えを持つ人と長い間友達でいることはできない。困ったときに助けてくれるかどうかいつもわからないのだ。友人としては最も信用できない類の人たちである。結果としてわが国は国際的に信用の高い国であるのか。どうもそうとはいえないようだ。結局は経済大国にふさわしい尊敬を得ていないのではないか。日本の国は顔の見えない国といわれるが、自衛隊も善良な国民から顔が見えないと言われてはいけない。もっと自己主張をすべきである。自衛隊はえこひいきをするくらいで丁度公正、公平になることができる。

 もう一つは徹底的にお邪魔虫することが大事である。組織のステータスとか個人のステータスとかは、どれだけ人や仕事について影響力があるかで決まる。欧米諸国のようには責任と権限が明確ではない日本型組織においては、どんな仕事にも多少の関連を見出し参加することができる。自衛隊は今回は支援してもらわなくても結構ですとか、これは○○課は特にやって頂くことがないので会合に参加する必要はありませんとかいう話はよくある。しかしここで「はいそうですか」と下がってはステータスは上がらないし能力向上のチャンスを失ってしまう。何か貢献できることがあるかもしれない、将来の勉強のためにとか理由をつけて参加させてくれるよう主催者側や主管部下に迫ることだ。参加しなくてもいいと言われれば、これは仕事も増えないし、やらなくていいチャンスだと考える人もいる。わざわざ仕事を増やして一体何が幸せなのかと言う意見もあるには違いない。しかし自衛隊を強くする、部隊を鍛えるとかいうことを考えた場合、このような姿勢はいささか消極的ではないかと思う。もっと前向きな積極的な姿勢こそが1歩前進や改革の原動力になる。

 手前味噌で恐縮だが具体例を挙げないと理解しづらいと思うので小松基地司令のときの話をしたい。毎年秋に小松市のどんどん祭りが開催される。私はこれを2度経験したが、着任して最初の祭りの時には市役所前に造られた特設ステージに、市長、市議会議長、商工会議所会頭など約20名とともに小松基地司令の席が準備され、祭りの開会式が行われた。特設ステージに並ぶ人たちは1人ずつ紹介があり、紹介後入場するという形だった。2年目には開会式のやり方が変わった。場所も小松市の陸上競技場に移され、ひな壇に並ぶ人たちも大幅に数が減り、市長、市議会議長、商工会議所会頭など限定された数名の人たちになるということだった。そこで小松基地司令は並ぶ必要がないという連絡を受けた。私は監理部長を派遣して是非並ばせて欲しいと申し入れを行った。結果はやはり並ばなくていいというものだった。それでも私は諦めなかった。祭りは日曜日に行われたが、私は、開会式の時間にひな壇のちょうど正面になる陸上競技場の観覧席に制服を着て副官とともに座っていた。開会式の直前になって私の姿を見つけた祭りの実行本部の人がやってきてひな壇の人たちが基地司令にもこちらに並んでもらってはどうかと言っているということで、結局私はひな壇に並び場内放送で紹介を受けることになった。これを私はお邪魔虫大作戦と呼んでいる。

 並ばなくていいと言われたときにそのとおりにすることもできた。申し入れを行って再度断られた時点で諦めることもできた。しかし結果としてひな壇に並び場内放送で紹介を受けたことにより、小松の祭りに集まった人たちは、基地司令のそれなりのステータスを認めることになったと思う。このこと自体はそれだけを見れば取るに足らない些細なことである。しかし私はこの些細なことの積み上げがその人や職位のステータスを造っていくのではないかと思う。

 もうひとつ例を挙げる。福井県で全国農業祭が行われ皇太子殿下御夫妻が参加されるために小松空港経由で現地に向かわれることがあった。石川県が出迎えの計画を作ったが一般市民が道路沿いに並んで殿下御夫妻を歓迎し、多くの警察官が警備のために動員されるというものだった。私は警察官とともに自衛官の雄姿も是非殿下御夫妻に見て頂きたいと思った。そこでこのときも自衛隊にも是非と列をさせて欲しいと申し入れた。しかし場所の関係とかで基地の外でのと列は遠慮して欲しいという回答が来た。それでは自衛隊の姿が一般の人たちには見えることがない。諦めきれずに交渉したところ、それでは空港ターミナルの出口で基地司令にも県知事、県議会議長や小松市長とともに約20名の出迎えの列に並んでもらうことにしましょうということになった。この出迎えの光景は多くのマスコミが取材していたので多分小松基地司令の姿も多くの県民が認識したのではないかと思う。何か重要な行事等があるときは必ず自衛隊が参加している、基地司令はひな壇等に並んでいると県民が自然に思ってくれればそれがステータスである。

 部外で実施される国防を真に考える政治家や研究者の講演会等にも積極的に参加したらいい。参加基準などが示されることもあるが、それを超えて参加できないのかどうかを知っておく必要がある。何にでも顔を突っ込んでいる、いつもジャブを出している、それが大事である。ジャブを出し続ければたまにはアッパーカットが決まることもある。単一の事案から成果を求めてはいけない。犬も歩けば棒にあたる。面倒だと思っても仕事だと思って出向いてみることが大事である。その地道な努力がその人のステータスを築いていく。組織的にやれば、それは組織のステータスになる。ひとつの事案のみを取り上げればほとんど取るに足らないことだ。しかしその積み重ねがやがて大きな成果を生むことになる。いつもあの人がいる、いつも自衛隊の姿が見えるということが大切である。ステータスの向上に意を用いない組織はやがて衰退すると思う。だから私はあえてお邪魔虫大作戦を推奨する。

  • (引用者注)太字は引用者による


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