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パートI 4 TOTAL SUM IS CONSTANT

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4 TOTAL SUM IS CONSTANT


 指揮官は何のために存在するのか。平時においては部隊を精強にするためにこそ存在し、部隊を精強にできない指揮官は存在意義がない。しかしながら自らは誠心誠意のつもりでも指揮官の指揮振りが部隊の精強化に逆行する場合があるので注意を要する。

 自衛隊においてはランクが上がるにつれて上司等の指導を受ける機会が少なくなるために上級の指揮官ほど自ら省みて第三者的に自分の指揮官振りを評価してみる着意が必要である。上になればなるほど注意されないだけ、わがままが出やすいと心得るべきである。それだけ自律心が要求されるが上級指揮官も人の子、自分だけで律することは極めて難しい。一般的に人は他人を見る能力に優れているが、自分を見る能力となると極めておぼつかない。指揮官も他人の力を借りることが必要であるが、現実的な方法としては自分の指揮官としての評判等を聞き、自分に注意を与えてくれる同期生や期別の近い友人を持つことが良いのではないか。もちろんそれは部下でもいいが、一般的に部下の場合は精神的拘束があり、あれを直せ、これを直せとは言いにくい。これについては私は自衛隊の監察制度を活用すればよいと考えているが、細部については別の機会に譲りたい。

 さて指揮官として最も避けなければならないのは、自分の行動によって部下を萎縮させてしまうことである。指揮官が任務達成への情熱を燃やすことは極めて重要であるが、仕事に情熱がある人は、他方では部下の指導も厳しくなる場合が多い。勢いあまって怒ったり、怒鳴ったりしてしまう場合も多い。部下の性格にもよるが、それによって部下が萎縮してしまうとしたら大問題である。部下が萎縮してしまうと上司に怒られまいとすることに最大のエネルギーを使い、本来の仕事に注ぐエネルギーはどんどん減ってゆく。結果として組織戦闘力はどんどん低下していく。つまり部下が上司に対し気を遣う量と仕事そのものにがんばる量の和はいつも一定なのだ。TOTAL SUM IS CONSTANTである。

 部下が自分に対し気を遣わないですむようにする最も良い方法は、知らない振りをする、あるいは少し抜けたところを見せることだ。私のこれまでの経験では上司が抜けたところを見せてくれたときにほっとしたことが何度もある。だから時には上司が部下の机の周りに出かけて馬鹿話をし、大笑いをする配慮が必要である。このときほんとに馬鹿と思われるのではないかと心配する必要はない。上司が利口ぶろうが馬鹿な振りをしようが上司の能力、識見、品性は部下はとっくにお見通しだ。だがあんまり馬鹿な振りを続けると、癖になってほんとに馬鹿になってしまうので要注意である。

  • (引用者注)太字は引用者による


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