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パートI  3 報告の遅れを叱らない

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3 報告の遅れを叱らない


 部隊等において服務事故等が発生し上級指揮官にその報告が行われず、後日それがマスコミ沙汰等になった場合、上級指揮官は、ゆめゆめ「なぜもっと早く報告しなかったのか」などと言ってはいけない。何をいつ報告するかは本来部下指揮官の判断事項である。もし事前報告がないことを責めれば部下指揮官は次からは細かいことまで報告を実施するようになるであろう。しかしこれが続くと部下指揮官が自らの責任で物事を処理するということが出来なくなる。とにかく何でもいいから報告しておけと言うことになり、また何でもかんでもお伺いをたてることになる。上司の顔色ばかりうかがい上司に対していわゆる仕事の丸投げを行い、部下指揮官として十分な能力を発揮しなくなる。当然のことながら組織としての総合戦力は低下していく。従ってこんな場合上級の指揮官は次のように言ってやるのだ。「お前も自分の責任で部隊と部下を守ろうとしたんだよな。お前の気持ちは良く分かるよ。その心構えは指揮官としてはとても大切なことだ。あとは俺が耐えるから心配するな」と。そうすれば部下指揮官は、その後いろんなことがあったとしても状況に対応して最も適切な処置をするようになるであろう。彼等は、上司は俺のことを守ってくれる、俺のやることは支持してくれると感じ、のびのびと行動し、その結果として組織戦力は最大になるのだ。

 ところが上級部隊や外からの圧力に耐えきれず、報告の遅れをなじったり、部下指揮官にあれこれと細かい指示をしたり、怒りの感情をぶつけたりする事は往々にしてあり得ることだ。しかしそのとき上級の指揮官は部隊の精強化よりは部隊の弱体化に貢献していることを認識する必要がある。特にマスコミ等で事故やこれに関する報告の遅れなどを取り上げられた場合に日ごろ冷静である指揮官でさえも心の平静を保つことはかなりの困難を伴う。しかし指揮官はこれに耐えて我慢することが必要なのだ。決して部下に当たってはいけない。そのときたまたまミスがあったにしても、航空自衛隊においては、通常は報告はやり過ぎくらいに行われていると私は思う。報告は本来報告を受ける人の状況判断に必要な事項に限られるべきであり、何でもかんでも報告されるべきでない。これまで部隊等において上下の意思疎通をよくするためにと称して「何でも報告せよ」と指導されたこともあったが、私はこれは基本的に間違いであると思っている。不必要な細事を上級指揮官の耳に入れて上級指揮官を煩わせるべきではない。上級指揮官には常に大局的判断に専念してもらうことだ。また上級指揮官は部下指揮官の所掌事項について細部にわたり知りたがってはいけない。組織の能率を低下させ、部下指揮官のやる気を失わせるだけである。


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