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(口)遮断を侵破した中華民国船舶

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(口)遮断を侵破した中華民国船舶

拿捕船舶調査委員会を設ける


海軍は遮断を侵破したすべての中華民国公私船舶を享捕することにした。そして、第一次の遮断宣告を行なった翌日、昭和十二年八月二十六日、拿捕船舶の取り扱いにっき、海軍次官山本中将と軍令部次長嶋田繁太郎中将の連名で、各艦隊、鎮守府、要港部、「満州国」に置かれていた駐満海軍部へ応急の指示が出された。

そして九月四日、海軍大臣米内大将より佐世保鎮守府司令長官と旅順要港部および台湾の馬公要港部の司令官に「拿捕船舶調査委員会組織の件訓令」が達せられ、同鎮守府と両要港部に拿捕船舶調査委員会が設けられた。ここで、遮断を侵破して拿捕された船舶を調査し、その結果に基づき、それぞれの船舶を抑留.保管するか、あるいは解放するかを司令長官または司令官が決定することにした。場合によっては、決定前に海軍大臣の指揮を仰ぐようにもした。

右の訓令によれば、拿捕船舶調査委員会には委員長一名と委員数名、書記数名を置いた。参謀長が委員長に、参謀その他の士官ならびに司法事務官が委員に、部下の判任官が書記に充てられた。司法事務官とは聞き慣れないが、これは主に司法行政事務を担当する行政官であり、正式には海軍司法事務官という。海軍の司法官である海軍法務官をもって充てた。

拿捕船舶の処理の規準と調査の手続きについては、同じ四日に、やはり海軍大臣の訓令が出ている。「拿捕船舶処理標準」と「拿捕船舶調査委員会調査手続」がそうである。

ところで、中華民国の船舶についてはともかく、「満州国」の場合、その船舶は拿捕.抑留の
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対象になるか。これに関しては、「拿捕船舶処理標準」の第一条が「満州国」は「帝国」つまり日本に準ずると規定している。だから、原則的に対象とならないのである。

しかし、実際には、ことはそう簡単ではなかったようだ。海軍省法務局は、旅順要港部の司法事務官に対する十三年八月十九日付の回答に寄せて、こう述べている(『海軍司法法規』)。

満州国は帝国と同様に見做される。随て満州国人所有船舶は抑留するを得ぬ。併し、山東、北支方面と満州、関東州方面とは其の地理的人種的関係より相互に往来頻繁にして、満支人の区別を為すことの困難な場合が多い。出生地、老家(先祖代々の墳墓の地)、居住地、営業の本拠のある地、妻子・財産の存在する地等を標準とし、或は本人の意思によりて決する等、種々考えられるが、一律には決し難く、要は右諸条件を考慮し、航行遮断及抑留の目的並作戦上政策上の見地より決する外あるまいと思われる。

抑留された船舶はどうなるか


抑留された船舶は保管処分に付された。交通遮断という「平時封鎖と解すべき」措置からきたものである。戦時封鎖と異なり、平時封鎖の場合、没収はできない。ことが解決したのち、抑留・保管された船舶は中華民国へ返還される。

保管中の船舶のうち、あるものは日本側で使用した。官だけでなく、民問にも貸与した。
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官では、たとえば、十二年十月十五日に馬公で抑留された赤櫛号と十三年二月十七日に同じく馬公で抑留されたペルー号のケースがある。海軍はこれらの汽船の管理を台湾総督府に委任し、国策会杜である台湾拓殖会杜に運航させている。

民問の場合には、使用料を徴収し、使用京責任をもつことを条件に使用させた。海軍が必要とするときはいつでも賃貸契約を解除する、というのも条件である。民間への貸与にっいては、海軍省軍務局長井上少将吉より文書が出ている。十二年十二月三十一日の旅順要港部参謀長あて「『拿捕船舶使用に関する件』回答」と、十三年五月十七日の台湾の台北在勤海軍武官および馬公要港部参謀長あて「抑留船舶使用条件の件」である。

ところで、中華民国は交通遮断への対抗措置のひとつとして物資の運び込みに海賊船を利用してもいた。背に腹はかえられないというところか。十四年二月十四日の「東京朝日新聞」タ刊は、海南島の攻略作戦に関連してこう報じている。

蒋政権はこの島をバックとして、安南[ベトナム]、雷州半島[広東省]よりさかんに武器弾薬の輸入を行つていたのは顕著な事実であり、一方これと相呼応して、同島を足溜りに南支那海に跳梁する海賊ジャンク[帆かけ船]が密輸入を行ったのである。

当時の中国沿岸の海賊については、こんな記述もある(海軍大臣官房『軍艦外務令解説』)。

海賊は、現今に於ては次第に其の跡を断ちたる状況なるが、独り支那沿岸近海は全く其の例
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外を為す。特に中南支沿岸近海に於て然りとす。
支那海賊は、其の沿革古く、常に官憲の無権威に乗じて其暴威を逞しくし、或る頭目の如きは数万の部下を有し、其の組織武装等、宛然軍隊たるの観を呈すと謂わる。主としてあもい厦門(あもい)の金門島、海壇島、南澳(なんいく)島、「バイアス」湾等を根拠地と為せるが如し。

海賊とは、いずれの国家の保護も受けず、公海上で不特定国の船舶に対して自由航行を危険に陥れる程度の暴行・掠奪を行なうものを指す、とおよそ国際法は教える。

そして、同法上、海賊船とその貨物は拿捕者の属する国家によって原則的に没収される。抑留ではない。海賊行為の結果として得られたものは原所有者に返される。原所有者の不明なときは国庫にはいる。ただし、中国のさきの場合の「海賊ジャンク」が国際法にいう海賊と同義かどうかは即断できない。

十三年八月十九日、享捕した海賊船の搭載する兵器類の処分に関し、海軍省法務局は各拿捕船舶調査委員会に対してつぎのように伝えた(『海軍司法法規』)。国際法の原則に準拠した解釈といえる。

該兵器は、海賊が暴行掠奪の行為の用に供し又は供せんとしたもので、所有者の発見は極めて困難なる実情にあるから、没収の上、国庫に帰属せしむべく戦利品に準じ、要港部(鎮守府)に於て適宜保管すべきものである。

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